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第十六話 夏休み前最後の登校日、俺の知人そっくりな女子大生があの果物っぽい野菜をそっくりに再現して技術力ヤバいよヤバいよ

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あれから数日後、コリル達の通う学校は夏休み前最後の登校日を迎えた。
コリル宅での朝食団欒時、こんな会話が交わされる。
「この国の学校って、終業式っていうのはないのか?」
「なにそれ?」
「体育館とかグラウンドに全校生で集まって、校長先生のしょうもないどうでもいいお話を長々と聞かされる行事だよ」
「へぇ。日本の学校ってそんなのがあるんだね。大変そう」
「通知表はあるのか?」
「それはあるよ。貰っても嬉しくないよね。あまりに酷い成績だとコキアダワさんに叱られちゃうもん」
「あのお方が脅威ってわけか。お母さんは、コリルちゃんの成績悪くても叱らないのかな?」
「コリルはそんなに酷い成績取らないから」
 コスヤさんはふふっと微笑む。


登校後、それぞれのクラスで担任から夏休みの宿題が配布される。
コリルの所属するエコール・プリメール四学年では国語、算数、理科、社会、シュツリグンイ語。各教科の分厚い冊子も何冊かあった。
そのあとは、日本の学校でもお馴染みの通知表が手渡されることに。
アンティーク感溢れる紙質だった。
「コリルちゃん、体育が苦手みたいだね」
「哲朗おじさん、見ないでぇ~」
 コリルは照れ臭そうに隠す。この国の文字で書かれていたが哲朗は読み取ってしまったのだ。
解散後、
「夏休みの宿題ちゃんとやらないと、ママよりも先生よりもコキアダワさんが怖い」
「あのお方怒らせたら相当ヤバいもんな」
 哲朗はいつものように、コリルとそのお友達と別れたあと、街へ繰り出そうとしたところ、
「こんにちは哲朗さん。私、ロブウトツネ大学大学院農学研究科所属のキチアって言います。はじめまして」
女子大生に呼びかけられた。
「なんか千秋の若い頃にそっくりだな」
 哲朗は嬉しそうに微笑む。
 猫のような耳と尻尾も付いていた。
 さらに、騎士のような恰好をしていた。
 隣には、この子のお供なのだろうか、可愛らしいドラゴンもいた。
 キュピ、キュピピピ♪
 鳴き声も可愛らしかった。
「千秋という方は、哲朗さんの芸人仲間ですか?」
「うん」
「一度お会いしたいですね。ちなみにこの子の名前はドラミちゃんっていいます」
「千秋が演じてるアニメキャラと同じ名前なんだな」
「そのキャラも気になります。私、スイカという果物を作っちゃいました。哲朗さんのヘルメットを参考に」
「マジで! そんな短期間に。嘘でしょ」
「こちらです」
 キチアという子は、ドラミちゃんと名付けられたドラゴンの背中に乗せられていた箱に掛けられていた、黒い布を取る。
すると何個かのスイカそっくりな果物が現れた。
「どうですか? 似てるでしょ?」
「ちょっと大きめだけどそっくりっすよ」
「私は毒キノコの研究が専門でして、この手の果実は専門外なのですが、よく似た果実に肥料や化学薬品なんかを混ぜて、皮の模様をそっくりに再現することが出来ちゃいました」
「俺のいた世界でもそんなに大昔のものじゃない遺伝子組み換え作物の技術を駆使したってわけかぁ。改めてこの国の住人の技術力ヤバいよヤバいよ」
「研究員の仲間達と先に一玉試食してみましたが、とっても美味しく出来てましたよ。哲朗さんもぜひどうぞ」
 キチアという子は、スイカそっくりな果物を、腰に携えていた西洋剣でスパッと切ってみせた。
 身は黄色だった。種も見当たらなかった。
「実の色は違うけど、俺のいた世界のスイカよりも甘くて最っ高だよ♪」
 味わってみて、哲朗は大絶賛。
「気に入ってもらえて嬉しいです。全国各地の農園でも、続々栽培を始めてますよ。今は高級品ですが、近々市場で安価で手に入るようになると思います」
「そりゃ楽しみだなぁ」
「こちらも、哲朗さんに差し上げます」
「なんか悪いなぁ」
「遠慮なさらずに。スイカという新種の果物を開発出来たのは、哲朗さんのおかげですし」
「俺、特に何も協力してないけどなぁ」
哲朗はこの世界で新たに作られたスイカを一個戴いた。
「では哲朗さん、またお会いしましょう」
 キチアはそう告げてドラミちゃんに乗り込み、飛び立っていく。
「おう、またな。千秋よりもずっと性格良さそうなキチアちゃん」
 哲朗は朗らかな気分で見送った。

            ☆

「とーっても美味しい♪ スイカは今までに食べた果物の中で一番だよ♪」
「本当、美味しいわ♪ 哲朗ちゃんの出身地、こんな素敵な果物があるのね」
「俺のいた世界のスイカはここまでは美味くないっすよ」
家に帰ったあと、この世界のスイカはおやつにコリルとコスヤさんと、
「とっても美味しいわ♪ あなたの芸はぶん殴りたくなるほどお下品だけど、こんな美味しい果物が開発されたのはあなたのおかげね。やるじゃない」
「大変光栄でございます! お子さんにもぜひどうぞ」
ちょうどコリルの成績を確認しに訪れていたコキアダワさんとで召し上がった。幸いなことにコキアダワさんは超ご機嫌でお暇されたのだった。
ちなみにスイカは彼女が手刀で切り分けた。剣を使わなければ切れないほどの硬さにもかかわらず。

「哲朗ちゃん、コキアちゃんに気に入られたみたいだし、コキアファミリーの一員にしてくれそうよ」
「それって、ありがたいことなのかな?」
 コスヤさんに爽やか笑顔で言われ、哲朗は苦笑い。

            ☆

 夏休み期間中、ワガデ王国内では楽しいイベントが目白押しとのこと。
 哲朗の熱湯風呂よりも熱い異世界での初めての夏が始まる。
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