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寸劇 俺がこの世界で人気が出て来たら、地元の芸人に因縁付けられてヤバいよヤバいよ

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 あれから数日後、哲朗のもとにまたしても国王様からのお手紙が届いた。

「王立演劇場で公演をお願いします。って」
「哲朗おじさん、またしても快挙だね。王立演劇場は超一流の芸人さんだけが講演出来る場所だよ。この国の芸人さんはみんなこの舞台を目指してるんだ」
「日本だと東京ドームや武道館みたいなものか。こんな短期間にそんな高尚な舞台に立たせてもらえるなんて、ヤバいよヤバいよ」
「わたし、哲朗おじさんを応援しに行くよ!」
「わたくしも見に行くわ」
「なんか恥ずかしいな」
 
というわけで、哲朗、コリル、コスヤの三人でドラゴン風の生き物に乗せてもらい、王立演劇場へ。
「立派過ぎる建物じゃないっすか。こんな高貴な所で芸をやらせてもらえるなんて、嬉し過ぎて泣きそうだよ」
 ノイシュヴァンシュタイン城のような壮大な外観に、哲朗は大感激。
「哲朗おじさん、頑張ってね」
「うん。恥の王様にならないように頑張るよ」
哲朗は出演者用の通路に案内され、舞台裏へ。
観覧料は大人1000ララシャ、学生800ララシャ、未就学児は無料だ。
観客席は全部で八千席とのことだが、ほぼ満席だった。

 舞台上には、もくもくと湯気が立ち上る風呂桶が。
 やっぱり皆あれが見たいんだよな。
「皆さん、本日は新参者の俺なんかのために大金を払ってお集まりいただき、誠に、誠に、ありがとうございました」
 哲朗がパンツ一枚姿で登場すると、
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッッ!
「「「「「「「「「「「哲朗ぉ~!」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ヤバいよヤバいよ」」」」」」」」」」」
 観客席から大きな拍手喝采。
「ではさっそく、熱湯風呂に入らせていただきまーす」
 哲朗が入ろうとした瞬間、
「おいおいおい。待てよ哲朗」
 とある中年男がいきなり壇上に上がって来た。
上半身は裸で、頭に水玉模様の手ぬぐいを巻いた怪しげなおっさんだった。
「おまえは、上島! 上島じゃねえか! おまえなんで自殺なんかしやがった?」
 哲朗は感激の声を上げ、嬉しそうに近寄っていく。
「誰だよそいつ? オレはウユリーヘっていうこの国のかつての大人気芸人だよ。今の若い子達には誰? このおっさんって言われる始末だよ。おまえがこの街に来てからおれの人気も収入もだだ下がりだよ。どうしてくれるんだよ。聞いてないよォ。熱湯風呂芸は、おれが元祖なんだよ。パクるなよ」
「じゃあ、お先にどうぞ」
「なんでおれが先なんだよ? ここはおまえの舞台だろ」
「じゃあ俺からやるよ」
「おれだってやるよ。だっておれ、わざわざ来たんだもん」
「わざわざ来たってテメエが勝手に来たんだろ」
 顔と顔がだんだん近づく。
 そしてなんと、哲朗はこいつにキス。
「おっ、おい。何キスなんかしてくれるんだよ」
 ウユリーヘは驚いて後ずさる。
「てめえが唇近づけて来たからだろ」
 哲朗は真顔できっぱりと言う。
 アハハハハハハハッと観客からの笑い声。
「「「ウユリーヘちゃぁーん」」」
 ご年配のおば様方からの黄色い声援。
 この世代の方々には人気者のようだ。
「てめえ魔物より恐ろしいよ」
「てめえの方こそ俺のかつての芸人仲間に似てて恐ろしいんだよ」
「もう知らねえよ」
 ウユリーヘは悲しげな表情を浮かべてここから立ち去っていった。
 その直後、
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!
 観客から大きな拍手が。
「寸劇最高だったよ!」 
「ウユリーヘは、哲朗と組んだら絶対人気復活するよ」
 絶賛の声も。
「俺もあいつ気に入ったよ。ライバル出現だよ」
 哲朗はこのあといつも以上の上機嫌でお得意の熱湯風呂、鼻にザリガニ、顔にクリームパイ芸を披露してあげ、思わぬロートル芸人の乱入も合わさって、大好評で幕を閉じたのだった。
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