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第四話 ドラゴンに乗って街の中心地に来たら、テレビもネットもないのに俺がもう有名人になっててヤバいよヤバいよ

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「やっぱ、昨日の出来事は、夢じゃなかったのか? ヤバいよヤバいよ」
 翌朝。哲朗は目を覚ますと、苦笑いでこんな一声を発する。
 あのお部屋のままだったわけだ。
「こうなったら、異世界生活をとことん楽しむかぁ。異世界体験した芸人なんて、俺以外誰もいないだろうからな」
 けれどもそこはベテラン芸人、現実的に考えて起こり得ない不測の事態にも慌てず冷静な気持ちでいようとした。
「ファンタジーって感じの風貌した猫もいるし、RPGの中の世界にいるみたいで、最っ高だな♪」
 窓から外の風景を眺めたのち、コスヤが用意してくれていた普段着に着替え、一階へ。
コリルとコスヤは台所で朝食準備を進めていた。
「どうも、おはようございます。今日は良い天気っすね」
 哲朗は元気よく大声で挨拶する。
「おはよう哲朗ちゃん、よく眠れたかしら?」
「はい。熟睡出来て疲れも取れました」
「それは良かったわ。朝ご飯よ」
「いやぁ、どれも美味そうっすね」
魔物の腕らしき部分と、日本では見たことのない種類の果物もあった。
 哲朗は躊躇いなく頬張る。
「果物もめっちゃ美味いっすわ~」
「この国の果物は栄養満点だよ。今日は学校お休みだから、哲朗おじさんを町案内してあげるね」
「それは楽しみだ」

 朝食後、
「お母さん、お手伝いします」
「あらあら。お客様なのに悪いわね」
「いえいえ。一宿一飯の恩義をするのは日本では当たり前っすから」
桶に溜められていた水と、灰と擦るための藁を使って食器洗いをしていたコスヤさんをお手伝い。
そのあとはタライを使ってのお洗濯も。
「あっちちちちぃ! 洗濯物は熱湯で洗うんっすね」
「哲朗ちゃん、そんなに熱湯だった!?」
体質の違いにまたしても被害を受けてしまうが、何とかお役には立てたようで、竹帚で廊下などのお掃除もしてあげ、コスヤさんとコリルに大喜びしてもらえた。
「生ゴミは肥料にするんすか。エコっすね」
 食事作りのさいに出た卵の殻や果物の皮やへた、魔物の不可食部の生ゴミは、家庭菜園横のコンポストのような容器に入れた。
こうして家事を一通り済ませ、哲朗とコリルはわくわく気分でこの家のお外へ。
「ロブウトツネの中心地までは、ここから歩いて三〇分くらいだよ」
「歩いて三〇分くらいだと、バイクならすぐなんだけどなぁ」
「わたし、遠い所に行く時はいつもこれに乗るんだ」
 コリルはそう伝えて、フルートのような笛を取り出してピィィィーッと吹いた。
 するとまもなく、
「うわっ! こいつ、昨日俺を襲おうとしたドラゴンだ。ヤバいよヤバいよ」
 哲朗が昨日見たドラゴンっぽい生き物が二人の側に降り立った。
「この子は大人しい魔物だから人は襲わないよ。哲朗おじさんも乗って大丈夫だよ」
 コリルは躊躇いなくそいつの背中に乗っかる。
「象に乗るよりも怖いよ怖いよ。ちょっと待ってて」
 哲朗は一旦おウチへ戻って、スイカヘルメットを装備してから乗ることに。
「落とすなよ、落とすなよ。“絶対に”落とすなよ」
そう念を押してから恐る恐る乗っかって、そいつの背中にしがみ付いた。
 すると、
 ドラゴン風の生き物は、翼を広げて上空に勢いよく舞い上がる。
「振り落とされないか心配でヤバいよヤバいよ」
「大丈夫だよ、哲朗おじさん」
 普段から乗り慣れているコリルは楽しげな気分だ。
        ☆
 あっという間にこの街で一番賑わう中心地へ。
「どうも、どうも。お礼に番組オリジナルのシールを差し上げます」
 哲朗はドラゴンの背中に例のモノを貼ってあげた。
 キュピピ♪
 ドラゴンっぽい生き物は可愛らしい鳴き声をあげる。
「喜んでるみたいだよ。ありがとうドラちゃん、またね」
 二人を降したドラゴンっぽい生き物は、嬉しそうに翼を広げて空高く舞い上がっていった。
「アーチに何か文字が書いてあるね」
「あれは『グルメと芸術と科学と温泉の街、ロブウトツネへようこそ!』って書いてあるんだ。観光客も哲朗おじさんみたいな旅人もいっぱい来るよ」
「素敵な街だな。それにしても、街中なのに車も電車もバスもバイクも自転車も走ってないのは新鮮だなぁ」
「日本にはそんな名前の乗り物も走ってるんだね。どんなのか気になるな」
「じゃあ、見せてあげるよ」
 哲朗はそう言うと、ズボンポケットからスマホを取り出し電源を入れた。
 しかしほどなく、
「これももうすぐ充電が切れそうだよヤバいよヤバいよ」
 保存してあったそれらの乗り物の写真を見せる前に、バッテリー残量が0%になり強制的に電源が切れてしまった。
「あーらら。切れちゃったか」
哲朗は苦笑いする。
「すぐに真っ暗になっちゃったけど、日本にはすごい発明品があるんだね」
「確かにすごい発明品だけど、電気がないとただの板なんだよなぁ」
 哲朗は嘆き声で伝える。
 ともあれ、二人はすぐ目の前の市民憩いの公園へ。
 大道芸や、歌、楽器演奏、絵描きなどをしている様々な種族の人々の姿も見受けられた。
「のどかな感じでいい雰囲気だなぁ」
 哲朗が楽しそうに眺めていると、
「あーっ! 哲朗だぁ! ヤバいよヤバいよ」
「ヤバいよのおじちゃん、おはよう!」
地元の子ども達が彼のもとへ駆け寄って来て声を掛けられてしまう。
「哲朗おじさん、一夜にして人気者だね」
 コリルはフフッと微笑む。
「テレビもネットもない世界なのに俺の噂広がるの早いよ早いよ」
「今日の新聞に出てたからね」
 犬耳をした十歳くらいの可愛らしい少年が新聞を手渡して来た。
 一面に、哲朗がザリガニっぽい魔物を鼻に挟んでいる写真、ではなくカラーイラストがでかでかと掲載されていたのだ。
「【ヤバいよヤバいよ 謎の芸人 哲朗 『ラバンナ』に襲来】だって」
 コリルは記事の見出しをくすくす笑いながら読み上げる。
「昨日あの食堂に新聞記者の方もいたのかぁ。絵がめっちゃ上手いな」
 哲朗は苦笑い。
「哲朗おじさん、せっかくだし熱湯風呂の芸、披露してあげなよ。気に入れたら観客からお金も貰えるし」
「えっ! ここでやるの? いや無理でしょ 風呂ないし」
「大丈夫。すぐに用意出来るから」
 コリルはそう伝え、ピィィィっと笛を吹く。
するとまもなくあのドラゴン風の生き物がやって来て、
「ドラちゃん、悪いけど、タライに熱々のお湯を入れて、持って来て」
 こんな指示を出した。
 キュピピピ。
 すると快く応じてくれたようで飛び立ち、三分ほどして例のモノを口にくわえて持って来てくれた。そして飛び立つ。
「マジで用意してくるとは――」
 哲朗は若干焦り顔。
「街中至る所にお湯が沸き出る場所があるからね。今から哲朗おじさんの熱湯風呂芸やるよーっ。みんな見に来てーっ!」
 コリルが大声で園内にいる人々に伝えると、
「おう、哲朗の芸が生で見れるのか」
「楽しみだなぁ」
「哲朗裸だぁ!」
「ヤバいよヤバいよ」
「イラストそっくり♪」
 興味を持ったいろんな種族の人々が老若男女問わず集まってくる。
 家族連れ、カップル、日本でいう小中高生くらいの友達同士や、お一人様も。
 ざっと見渡してみると、獣っぽい耳や尻尾の付いた人が約半数、エルフ耳が三割、哲朗のいた世界と同じタイプの人間が残りの二割といった感じだった。
「こんなに人が集まって来るなんてヤバいよヤバいよ」
 哲朗はパンツ一枚姿になった。
「じゃあ、入りまーす。押すなよ、押すなよ、“絶対に”押すなよ」
 そして前かがみになり湯面をじーっと眺めながらそう命じると、
「え~い♪」
 コリルに腰の辺りをポンっと押されてしまった。
「うわっと!」
 哲朗は顔面から湯船へドボォォン! とダイブ。
「あっ、ちちちちちっ! ヤバいよヤバいよ」
 そしてすぐに湯船から反射的に飛び出す。
「哲朗おじさん、大成功だね」
 コリルはアハハッと笑う。
「コラコラ、ダメだろコリルちゃん」
 哲朗は叱らず優しく注意。
 アハハハハハッ!
 子ども達のみならず大人まで大爆笑!
 パチパチパチパチッと拍手喝采も。
チャリンチャリンチャリンと小銭も大量に投げられた。
 札束も何枚か。
「あっ! 都合よくあいつもいるじゃん」
 すぐ近くを流れる小川にザリガニっぽい魔物を偶然見つけ、哲朗は背中の部分を両手でつかみ、
「いただきまーす」
 そいつの大きな鋏を鼻に近づける。
「いったたたたぁ、ヤバいよヤバいよ」
 しっかり挟まれ、なかなか外せず。
「外れないよ、ヤバいよヤバいよ」
 それから十秒ほど頑張ってなんとか離せたが、鼻頭をスパッと切られてしまった。
「トマトジュース、出ちゃいました」
 哲朗は激痛に耐えながら、こんなパフォーマンス。
 芸人の鏡だ。
「「「「「「「ハハハハハハハッ!」」」」」」」
 観客の皆さんから大きな笑い。
 この芸も大ウケ、熱湯風呂芸よりも小銭の投げられた数が増えた。
 札束も同様。
 一攫千金だ。
「皆さん、どうもありがとう!」
 哲朗は応援して下さったお客様に向かって、番組オリジナルのシールを配っていった。 
「哲朗最高!」
「哲朗ならこの国でもトップ芸人になれるぞ」
「お嬢ちゃん、素晴らしい芸人さん連れて来たね」
 哲朗とコリルがこの場から立ち去る時も、盛大な拍手で見送られたのだった。
「俺の芸、日本でやった時よりもウケがいいかも。おう、あそこで猿回しもやってるじゃん」
「お猿さんが芸をするやつ、日本では猿回しって言うんだ。あのお猿さんはカムラオっていう芸も覚える賢い魔物さんなんだ。山に棲んでる躾のされてない野生のは凶暴だけどね」
「日本の猿回しに使われてるニホンザルよりもでかいな。俺とほぼ同じくらいか」
「カムラオは大人で平均的にあれくらいの大きさだよ」
「そっか。おう、顔があいつにそっくりだ。大きさも。すげえ、ブレイクダンスまで出来るのか!」
 近寄ってみて、芸人仲間の一人と非常によく似ていることが分かり哲朗は思わず笑ってしまう。
「なんか親近感が沸くし、俺も真似するよ。すみませーんお姉さん、俺もいっしょに芸していいっすか?」
「あっ、あなたは新聞に出てた芸人の哲朗さんじゃないですか。飛び入り参加もちろんいいですよ。この子、めちゃめちゃイケてるお猿さんのカシタ君と戯れてあげてね」
 お猿の芸のお姉さんは快く承諾。
「「「「「おうううううううう!」」」」」
「「「「「ヤバいよヤバいよ!」」」」」
 パチパチパチパチパチパチパチッ!
 観客からも拍手喝采。
 ウキキッ♪
 カムラオのカシタ君は二本足で立ち上がり、嬉しそうに哲朗と向かい合う。
 一五九センチの哲朗より三センチくらい背が低い程度だった。
「はじめまして、俺の知人にそっくりなカシタ君。キャンユースピークイングリッシュ?」
 哲朗は初対面のカシタ君に向かってこんな質問をしている。
 ウキッ?
 カシタ君はきょとんとした表情を浮かべて頭を掻く。
 そのあと照れ笑いしているかのような表情に変わった。
「話せるそうです」
 哲朗は爽やか笑顔でこう伝えると、
 ウキウキウキキ♪
 カシタ君は照れ笑いしているかのような表情のまま、そんなことないよと言いたそうに両手をクロスさせ、×印を作った。
「「「「「「「ハハハハハハハッ」」」」」」
 観客からも笑いが起きた。
「カシタ君、照れてますねー♪ それでは、早食い競争をやってみよう! いくよ、カシタ君に、哲朗君」
 お猿の芸のお姉さんはバナナっぽい果物を一本ずつ投げ渡してくれる。
カシタ君は見事キャッチ。
「ぅおっとと」
哲朗は地面に落としてしまうもすぐに拾い上げる。
「それじゃ、よぉい、ドンッ!」
 お姉さんの合図で、競争スタート。
「もう喰い終わったのか。カシタ君、早いよ早いよ」
 哲朗が皮を剥いている間に、カシタ君は皮ごとお口に入れて、もぐもぐ美味しそうに頬張って五秒ほどで飲み込んだ。
 余裕の勝利だ。
 ウキキッ♪
 カシタ君はにっこり微笑む。
「人間の哲朗君には厳しい戦いでしたね。続いては、リンボーダンス対決!」
「それも勝てそうにないよヤバいよヤバいよ」
 苦笑いを浮かべる哲朗をよそに、カシタ君は余裕でやってみせた。
「負けると分かってても、やるのが芸人だからな」
 そう宣言した哲朗もあとに続くも、
「うわ、おっとと。ヤバいよヤバいよ」
 案の定、潜り抜ける途中でステンッと転倒してしまう。
「「「「「「「アハハハハハッ!」」」」」」」
 観客からは笑いが。
 綱渡り、ジャグリング、輪投げ対決も勝てず全敗したものの、
パチパチパチパチパチッ!
体を張った芸に観客からも、カシタ君からも拍手喝采が送られた。
お金ももちろん。
「皆さん、ご声援ありがとうございます! めっちゃ楽しかったっす」
 哲朗は上機嫌でお姉さんとカシタ君、観客の皆さんに例のシールを配ったのだった。

「哲朗おじさんありがとう。臨時のお小遣いだよ。欲しかったおもちゃや本が買える」
 コリルの顔はにやける。
「コラコラ、俺の芸で稼いだお金だぞ。まあでも、コリルちゃんに助けてもらったし、半分はあげるよ」
「やったぁ!」
 哲朗から爽やか笑顔で言われ、コリルは大喜び。
「ところでコリルちゃん、シール配り過ぎて残り枚数少なくなっちゃったから、コピーしたいんだけど、新聞や本があるってことは、そういうのが出来る印刷屋さんってのもあるのかな?」
「あるよ」
 二人は続いて印刷屋さんへ。
「この国で出版されてる本や新聞や雑誌は、ここで刷られてるよ」
 赤煉瓦造りの瀟洒な建物だった。
「とりあえず千枚、コピー出来ますか?」
「これはかなり高度な印刷技術で作られてるね。そっくりそのままは難しいかもだけど、夕方には出来るように頑張ってみるよ。千ララシャで」
 狼っぽい耳のお姉さんから伝えられる。
「どうも、ありがとうございます。一枚はあなたに差し上げます」
「悪いねー。こんな珍しいデザインのシール」
 受け取ると、さっそく壁に貼ってくれた。
 二人は一旦ここをあとにする。
「活版印刷の作業してるとこ、中世ヨーロッパ感が漂ってて新鮮だったな。日本ではレーザープリンターで超カラフルなのとか、3Dプリンターで立体的な物の印刷も出来るぞ」
「それがどんなのかよく分からないけど、日本の印刷技術は凄いんだね」
待ち時間で、二人は図書館兼本屋さんへ。
「うぉう! めっちゃ立派じゃん。日本の本屋よりもすげえ豪華!」
 ゴシック建築の外観に、中も広々としてファンタジー感満ち溢れ、哲朗は大興奮。
「魔導書とかもありそうな雰囲気だけど、まず文字が読めないことには読書も楽しめないからなぁ。この世界の文字の読み方、勉強出来るのはないかなぁ?」
「幼稚園児が習う文字の本がおススメだよ。はじめての文字ってタイトルの」
「それ買って勉強してみるか。話し言葉は同じだから、文字さえ読み書き出来ればもうこの世界で困ることはないだろうからな」
 哲朗はコリルが勧めてくれた可愛らしい魔物のイラストも描かれたそれを500ララシャで購入。
 続いて武器屋へ。
「うわぁっ! 恰好いい! RPGの世界そのままじゃん。欲しいなぁ」
 哲朗は子どものように目をキラキラ輝かせ、展示品を眺める。
「魔物ハンターが使う本物はもちろん、仮装で使うおもちゃのまで揃ってるよ」
 コリルは伝える。
「兄ちゃんが頭に被ってる変わった柄の兜、頑丈そうだね。二万ララシャで買い取るけど、譲ってくれないかい?」
「いやぁ、それはちょっと、これないと困るんで」
 狐のような耳をしたワイルドな感じのおっさん店主から申され、哲朗は苦笑い。
「そうか、そうか。貴重品だもんな」
 店主は楽しそうに笑う。
「これはスイカヘルメットって言うんだって」
 コリルが自慢げに伝える。
「そうなのかいお嬢ちゃん。魔物ハンターに大ウケしそうだな」
「複製は自由にしてもらってオッケイっすよ。これ、記念に買っちゃいます」
 哲朗は長さ一メートルくらいのおもちゃの剣を一本購入した。
 もちろん店主にはシールをプレゼント。

「コリルちゃん、お昼は魚料理が食べたいんだけど、この辺に美味しい店あるかな?」
「うん、『ダマイ』っていうお店が、お魚料理が美味しいって評判だよ」
 コリルおススメのお店では、
「この世界、魚の顔もヤバいよヤバいよ」
 ホオジロザメなんかより遥かにおどろおどろしい容貌をした魚や、イカやタコ風の魔物もあったが、
「最っ高♪ 正直、ロケ地で食べたことがあるどんな魚料理よりも美味いよ、美味いよ」
 哲朗は大満足。
 午後からは、
「うおおおおおおおう! ベルサイユ宮殿よりも豪華な感じでヤバいよヤバいよ」
 バロック建築の王宮の外観を眺め、
 そのあとは市場へ立ち寄ると、
「あんた男前やね。若い頃モテたやろ?」
「いやいやぁお母さん、俺の若い頃なんて嫌いな男、抱かれたくない男の上位常連でしたよ」
「独身かい?」
「いや、奥さんいますよ。くそ哲って呼ばれてますけど」
 店員のおばちゃん達がおまけでいろんな食材を譲ってくれた。
 引き続き市場を回っていると、
「カムラオの肉も売ってるのか! ヤバいよヤバいよ」
 カムラオの頭や足、腕が解体されて売られているのを見つけ、哲朗はびっくり仰天。
「野生のやつは食用にされてるんだ。脳みそはとっても美味しいよ♪」
 コリルは爽やかな表情で言う。
「なんか、情が移っちゃって俺は食えないなぁ。芸も出来るけど食用にもなる動物は、日本ではトドっていうのがいるんだけど、そいつはまあ食えるけどね。似てる芸人もいるけど」
 哲朗は苦い表情で伝える。
 他にもいろいろ店を巡って、
「すげえでかい卵もあるじゃん! 恐竜かドラゴンの卵か?」
「ドラゴンの卵だよ。生でも食べれるし、目玉焼きにしてもオムレツにしても美味しいよ」
「じゃあ、買って帰ろう!」
「うん、ママに明日の朝食にしてもらうね」
「楽しみ過ぎてヤバいよヤバいよ」
 夕飯の材料も揃い、印刷屋さんへ戻り、
「おう、そっくりそのままじゃないっすか! サンキュー」
「難しい作業だったけど、やりがいがあったよ」
シールのコピーも受け取って、哲朗とコリルはあのドラゴンに乗せてもらい、おウチへ戻って来た。
「すみませんお母さん、今晩もお世話になります」
「哲朗ちゃん、ずっとここにいていいのよ」
「いやぁ。それはちょっと、悪いかなぁ」
「哲朗おじさん、ずっとわたしんちに住んでぇ~」
「ずっとお世話になるのも悪いですし、それに俺、異世界の果てまでイッテQな感じでこの世界もいろいろ観て回りたいですから、バイクの充電が出来れば旅立とうかと思います」
「そっか。それも哲朗ちゃんの芸風なのね」
「残念だけど、いつかお別れの時が来ちゃうのは仕方ないね」
 コリルはちょっぴり寂しそうな表情。

 ともあれ哲朗は、今夜も風呂に入る時にコリルと大勢のお友達に入り込まれ、
「あっ、つうううううう! 昨日のお湯よりも熱いよヤバいよ」
「あたしはこれでもぬるく感じちゃう♪」
あのお家芸を何度かやらされたのだった。
お風呂のあとは、
「この国の文字は五十音と『ぱ』とか『だ』とかの音を示す記号で表されてて、全部で七一文字あるの。はじめの行は『あいうえお』って読むの。次の行は『かきくけこ』だよ」
「一覧表の並びが日本語そっくりじゃん。すぐにマスター出来そうだ」
 コリルから文字の読み方を五十音順に一通り教わったのだった。

 こうして、哲朗の異世界生活二日目の夜も静かに更けていった。
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