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事故物件

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「はい、その噂話は聞いたことがあります。事実かどうかはわかりませんが、ソルティード様がセオドア様を虐げていたという噂話も」
「事故物件? ……に関しては、ラスティル王城は歴史のある城なので、人が死んでない部屋の方が珍しいのではないでしょうか?」

 使用人のレイチェル・スレイドとパトリック・スレイド。
 姓が同じことからわかるように双子の姉弟だ。
 揃ってストロベリーブロンドで、可愛らしい雰囲気が悪人面の俺にはちょっと羨ましい。

 それにしても、ソルティードがセオドアを虐げていた?
 あの、俺様何様のセオドアを?
 いや、元王様なんだけど……って、この流れ何度目だ?

 事故物件については確かにそうか。
 歴史ある建築物ってのは大抵人が死んでるモンだ。

「では、私たちは一度下がらせていただきます」
「御用があればいつでもお呼びください」

 年齢は俺よりも上なのに、スレイド姉弟はその可愛らしさのせいで年下に見える。

 彼らが出て行くのを確認すると、俺は立ち上がった。
 この居住区を俺の領域にする。

 血で魔法陣を描き、『プロミスド・サンクチュアリ』を歌う事で領域魔法を起動させる。
 後は毎日歌うことで定着させればいい。

 柚希の部屋も俺の領域下にして、もう一つ魔法陣を描いた。
 アッシュフィールドの離れ屋敷の地下の湖に転移する転移魔法陣だ。
 俺の部屋にあるより、定期的に地下の湖に浸からなきゃいけない柚希の部屋にあった方がいい。

「ヴァニタス君、大丈夫? 無理してない?」
「へーきへーき。広いっつっても、アッシュフィールドの離れ屋敷の敷地全体よりは狭いし」

 まぁ、城の中の一区画だからな。

 最後に俺の部屋。
 血で魔法陣を描いて、『プロミスド・サンクチュアリ』を歌う。

 すると、人影が浮かび上がった。
 俺と同じ、黒い髪に金色の瞳。
 長い髪を後ろで束ねている。
 目つきは鋭い……が、その目を丸くして俺を見ている。

「セオドア!?」

 浮かび上がった人影が、俺を見て叫ぶ。

「いや、セオドアと間違えられるのは色々かなり不服なんだが」
「何でだよ!? あんな可愛らしい天使そうそういねぇだろうが!?」
「可愛らしい天使!? 誰が!?」
「セオドアに決まってんだろうが!!」
「はーい♡ お兄さんだよ♡ ヴァニタス君はとりあえず最後まで歌っちゃおう。君の相手はお兄さん」
「いや、何だ!? 誰だよ、こいつ!?」

 幽霊(仮)、その気持ちはよくわかる。
 よくわかるが……柚希の行動の意図もわかる。
 魔法陣を描く為に血を流している俺がこれ以上出血しない為と、領域魔法による結界が完成すれば、悪霊は退散するか戦意喪失する筈。

 よって、幽霊(仮)の相手は柚希に任せて、俺は改めて『プロミスド・サンクチュアリ』を歌った。
 歌い終えて、幽霊(仮)が居た場所を見る。
 幽霊(仮)は相変わらずその場所にいた。

 柚希が俺を抱き止めて、ソファに座らせて止血する。

「ヴァニタス君。あの子、噂のソルティード君みたいだよ」

 ……あぁ。
 まぁ、何となくそんな気はしてた。

 ソルティード・アイテール。
 年は俺と変わらないか、少し下。
 かつてラスティル王城を戦慄させた事件を起こした少年の幽霊が今ここに立っていた。



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