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相対
01
しおりを挟む父親であるナイジェル・アッシュフィールド公爵と対談すると決めた日から、屋敷全体に少しずつ、血で魔法陣を描いた。
流石に一気に描くと俺が出血多量で死ぬから、少しずつ、少しずつ。
その魔法陣が今日、完成した。
俺は屋敷の敷地の中心で『プロミスド・サンクチュアリ』を歌う。
魔法陣が起動してゆく。
これで俺がこの屋敷を離れても、この屋敷の安全は保たれるだろう。
「終わった?」
「うん、完成」
「じゃあ、腕」
腕?
「止血するから、腕貸して」
アルビオンは俺の腕を取ると、慣れた手付きで止血してゆく。
本来であればアルビオンは『アルビオンズ・プレッジ』の主人公で、俺は固有グラフィックなしのモブ敵なのに、こんなにも親しくなれるなんて不思議な感覚だ。
アルビオンの肩には、スライム姿の柚希が乗っている。
フィニスが来た後、セオドアは城へと戻った。
俺と父親の対談を推し進める為だ。
城にはシルヴェスターの母親でアッシュフィールド公爵の後妻のマドリーンの弟がいる。
しかもそいつが宰相で、子供のユスティートや執事上がりのスヴェンが提言しても、却下するらしい。
城へ戻る時に、マチルダの焼いた菓子を大量に持って行ったから、何だかんだでセオドアもこの屋敷の生活を満喫していたのかもしれない。
念の為、俺の血で魔法陣を描いた紙をもう一度持たせた。
何か危険があれば、その紙があればこの屋敷に転移できる。
セオドアが帰って少し寂しくなったが、フィニスが時々この屋敷を訪れるようになった。
アルビオンに剣の指導をしている。
フィニスが来ない時も、アルビオンは柚希相手に鍛錬を続けている。
俺は剣のことはよくわからないけれど、それでもアルビオンの動きが格段に良くなったのはわかる。
流石ユスティートの父親といったところか。
そういえば、俺がこの屋敷を出て、ラスティル王国全体の守護を担うようになった時はユスティートの兄のジェラルドを俺の護衛につけるよう調整しているらしい。
ユスティートに兄がいるとは始めて知ったが、流石に一人息子を養子に出すわけがないよな。
ジェラルドがティアニー公爵家を継ぐから、ユスティートはスムーズにセオドアの養子になれたというわけだ。
フィニス曰く、ユスティートはフィニスの妻のシェリル似らしい。
ユスティートと、妹のリヴェリアがシェリル似で、ジェラルドはフィニスに似てるとか。
何だか面白いな。
そう言うと、俺とシルヴェスターも似てるとか言われるんだが……似てるか?
シルヴェスターの方が騎士とか王子って感じでカッコいいと思うんだけどな。
そう、あれこれ考えていると、ひょいっとアルビオンに抱き抱えられた。
いわゆるお姫様抱っこというヤツ。
「ちょ……待て待て待て待て」
「この出血量じゃ歩くのしんどいでしょ?大丈夫、スピルスには黙っててあげるから」
肩に乗ってる柚希も「うわぁ!! 超面白そう!!」とでも言うように飛び跳ねている。
うん、柚希は後で覚えとけ。
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