48 / 112
会談―午前―
04
しおりを挟む「……私は、いや……僕は。虎田大和は、誰も救えなかった。君が亡くなったことに、13年も気づかなかった。生前、君が苦しんでいたことにも気づかなかった。最期、震災で命を落とす時も、子供を救ったりすることなんか出来なかった」
スピルスはぽつぽつと語る言葉を聞いて、俺は虎田大和という同級生を思い出した。
クラスが違う彼との交流は放課後の図書館で、彼は心理学の本を熱心に読み漁っていた。
「いや、凄ぇだろ大和。お前は心理学を極めて大学教授になったんだ。自分の好きなことや興味のあることをそのまま貫いて極めるなんて、しかも10代で道を定めてとか……前世のあの日本という国では凄ぇとしか言えないだろ。俺はお前を尊敬するぜ」
顔を覆って俯きながら、唸るようにそう口にすると、クスッとスピルスが笑う。
「君のそういう実直なところが好きだったんだよ、孝憲くん。知識が豊富で、素直で、でも素直過ぎて不器用で……そんな孝憲くんが好きだったんだよ」
えっ?
思わず、顔を上げる。
「ヴァニタス、私は貴方が赤津孝憲が生まれ変わった姿ではないかと想定していました。貴方の性格は孝憲くんに似すぎていましたし、何より、貴方の書いた小説の主軸となる信念が、高校生の時に読んだ孝憲くんの小説の信念と同じでした。もちろん、信念まで孝憲くんにそっくりな赤の他人の可能性も考慮してはいましたが……私は貴方の前世が孝憲くんの可能性もあると想定した上で、その上で、スピルス・リッジウェイとしてヴァニタス・アッシュフィールドを愛してきました。慕ってきました」
頭が真っ白になる。
スピルスは、何を言っているのだ?
「愛? お、俺を……慕っ…………」
「いやいやいや、何言ってるのヴァニタス。前世云々は抜きにして、スピルスってかなりあからさまだったじゃん。あれでヴァニタスのこと嫌いとか言い出したら、そっちの方が驚きなんだけど」
アルビオンはやれやれといった表情で、はぁ……と息を吐き出した。
その横で、俯いて何かを考え込んでいた柚希がふと顔を上げ口を開く。
「なるほど。ラスティル王国に転生者は2人。スピルス君が魔王をあしらったら、魔王はもう1人のラスティル王国の転生者であるヴァニタス君を味方につけようと画策する。それが嫌だからスピルス君は魔王についているフリをしていた……そんなところかな?」
柚希の言葉に、スピルスはにっこりと良い笑顔を彼に向ける。
「はい、正にその通りです。ついでに『こんなところで柚希さん見つけることが出来てラッキー。柚希さんに熨斗つけて魔王に送りつければ恩赦で解放してくれないかなぁ?』とも思ってます」
「やだ。お兄さん絶対に戻らないよ!!」
「大人しく私とヴァニタスの為に犠牲になってください」
「やだやだ! お兄さんはまだ見ぬ弟たちに会う為にこれからも旅を続けるんだもん!! ……それは置いておいて、ヴァニタス君がこの性格で魔王側につくとは思えないし、その上でスピルス君が魔王と絶縁したら、魔王が別の国の魔王側の転生者を動かして、最悪ラスティル王国を攻め込ませる……ラスティル王国がアリスティア王国の二の舞になる可能性があるということだよね」
つまりは……戦争だ。
「流石は柚希さん。そうです。私は魔王側に賛同は出来ませんでしたが、あちらにつかざるを得なかったのです」
スピルスは頷く。
今は亡き故国の名を聞いたアルビオンが唇を噛んだ。
確かに、事は国の存亡に関わる。
スピルスや俺が個人の感傷で決断して良いことではない。
「セオドア様も交えて話すべきだろうね。お兄さんも最初からそのつもりだったから、最大限スピルス君のフォローをするよ」
柚希がこちらに向けてウインクして見せる。
彼はやや調子が良く軽薄な印象があるものの、やはりこの世界で100年近く生きているというのは伊達ではない。
柚希がこの場に居てくれて良かったと痛感する。
「魔王について、今後スピルス君がどう動くべきかについてはまた後で。他には? この場で話しておくべきことはない? スピルス君がいつ頃からヴァニタス君を想ってたとか、ヴァニタス君がスピルス君への恋心に気づいたのはいつなのかとか、失恋したと思ってたら実は両思いで、ヴァニタス君今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?……とか」
前言撤回。
やっぱり刺身にして食うこと考えるか、このスライム男。
9
お気に入りに追加
303
あなたにおすすめの小説
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる