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そして、決闘へ
01
しおりを挟む決闘当日。
俺はいつもの白い司祭服に似合わない不織布の黒マスクを身につけていた。
前世で疫病が蔓延していた時期にバイト先のコンビニに来店する若者たちが身につけていた黒マスク。
当時の俺は年齢から諦めて、無難な白のマスクにばかり手を伸ばしていたが、10代のヴァニタスの姿なら黒マスクでも問題ないだろう。
…………正直、ちょっと憧れていたのだ。
不織布マスク自体も簡単に錬成できた。
不織布マスクは20世紀に入ってからの発明品なのだが、繊維に加工できる物質さえあれば錬成可能で、錬成自体の難易度も高くない。
「俺に詠唱を悟られない為に口許を隠す……か。小賢しい」
セオドアは不織布マスクで口許を隠す俺を嘲笑する。
おいこら、不織布マスクをナメんなよ。
あの疫病を防ぐ為の一般庶民の最後の砦だったんだぞ、コラ。
内心で毒を吐きつつ、言葉にはしない。
セオドアは俺を見下し、侮ればいい。
俺の勝機はセオドアに行動を予測されないこと──この一点にかかっている。
メモリアが、真剣な顔でスッと右手を上に上げる。
「決闘、開始」
彼女の凜とした声が地下水脈の湖に響いたと同時に俺は灰色の結晶を地面にバラ巻く。
「《融解》」
バラ巻きながら口にすると、結晶は溶け始める。
俺はゴムと樹脂で錬成した水中ゴーグルを手早く装着すると、パチンと指を鳴らす。
「《気化》」
溶けて液状になった結晶が気化し、地下に充満する。
「……っ、な、何だこ……ぐっ…………」
クロロアセトフェノン。
いわゆる、催涙剤。
セオドアがくしゃみを繰り返しているうちに背後から足払いをかけるが、これは上手くかわされた。
「くしゃん! ぐっ……こんのクソガキがぁっ…………」
流石セオドア。
やはり一筋縄ではいかない。
俺は素早く距離を取る。
「《歪んだこの想いよ、執着よ。願わくば彼を拘束して欲しい。私から決して離れぬように》」
前世で聴いた歌のひとつ『アディクト』の一説を不織布マスクの中で口ずさむと、目の痛みとくしゃみに苦しむセオドアの足元から触手が伸びて、彼を拘束……しかけた、が。
「《対魔法・対魔術》《接続》《命令改竄》《標的:ヴァニタス・アッシュフィールド》」
セオドアの呟きと共に触手がこちらに向かってくる。
「くしゅん……くそ。だが甘いぞヴァニタス。見えなくともどんな魔術がこちらに向かってきているか程度は、俺ならば感覚でわかる」
くしゃみを繰り返しながらも、セオドアが笑っているのが分かる。
他人の使用した魔法や魔術に手を加えて魔改造するセオドアの能力……想像以上に厄介だ。
「ぐっ……《祈りも願いも焼き尽くす業火よ、私を苛む世界を飲め》」
触手に拘束される前に、『蛍火の嘆き』の一説を口にして焼く。
『アディクト』で発生した触手は『蛍火の嘆き』の炎によって灰になり、消える。
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