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真の主人公登場

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 その日の午後、書斎で執筆をしていると、控え目にドアがノックされた。

「ヴァニタス、入ってもいい?」

 アルビオンだ。
 どうぞと声を掛けるとアルビオンが紅茶を持って入ってきた。

「少し休憩しろって、マチルダが」
「そっか。俺って夢中になるとつい没頭しちまうからな。一緒に休憩しようぜ」
「そう思って、俺の分も持ってきたんだ」

 ソファにアルビオンと向かい合って座ると、アルビオンがチラチラと俺を見る。

「…………?」
「あー、本当はずっと前から気になってたんだけど、今朝一緒にメモリアのところに行ったら余計に気になってさ……」

 俺が首を傾げると、アルビオンは意を決したように口を開いた。

「俺の瞳の話はしたよね? メモリアが1人の女の子に見える時もあれば、たくさんの女の子の幽霊に見える時もあるって」

 紅茶を口に含みながら、コクコクと頷く。

「実はヴァニタスもなんだよ。普段は俺と同じ14歳の男の子に見えるんだけど、時々スヴェンよりもずっと大人の男性に……」

 ぶほっ!!
 思わず紅茶を噴き出して、大慌てでハンカチーフで拭う。

「ヴァニタスのこと、良いヤツだってことはわかってる。身分の低い使用人を家族同然に思っていたり、幽霊のメモリアに友達のように接していたり……黙っていた方がいいこともあるってわかってる。だけど、さ」

 あー、これは……。
 アルビオンは人間不信に陥ってないわけではないんだな。
 多分……隠していたのだろう。
 俺が信頼できなくて。

「…………わかった、話す。全部聞いた上で、俺のことを嫌いになったのであれば、また旅にでも出てくれ。必要な物資や費用は俺が準備する」
「……まるで、全部話したら俺が君を嫌うような言い方だね?」
「嫌われる話をこれからするんだよ。俺も覚悟を決めるから、君も覚悟を決めて聞いてくれ、アルビオン」

 アルビオンは赤い瞳を閉じて少し考え込んだ後、瞳を開けて俺を見た。

「わかった。嫌う嫌わないはともかく、君との関係性が変わることを覚悟した上で話を聞く」
「ありがとう。この話をするのは、この世界では君が初めてだ。スヴェンもスピルスも、この話は知らない」

 そして俺はアルビオンに話した。
 7歳の時、本当は前世を思い出したこと。
 前世の俺、39歳で死んだデブのキモオタ、赤津孝憲のことを。

「あくまでも今生きている俺はヴァニタス・アッシュフィールドで、赤津孝憲はあくまでも前世だ。アイツは既に死んでいる。でも、太っていて何も出来ない醜い男が俺の本性なのに、俺の行動や言動は美少年を演じているように見えてもおかしくないのはわかってる。この美しいヴァニタス少年の容姿に好感を持っている人たちを俺は裏切って……」
「…………ちょっと待って」

 アルビオンが俺を睨む。
 その赤い瞳には、確かに怒りの色がある。

「だから言っただろ? 嫌われる話をするって」
「そうだけど、そうじゃない」

 アルビオンが真剣な目で俺を見据えたので、俺は黙らざるを得なくなる。

「俺は旅人だ。だからこそ、外見だけ美しくても心根が醜い人間や、逆に自慢できるような外見ではなくても、中身は聖人のような人だっていたよ。君の前世、赤津孝憲は後者じゃないか。そして赤津孝憲であろうと、ヴァニタス・アッシュフィールドであろうと、君の心根は変わらない。君は誠実な人間だ。そんな君自身を、赤津孝憲を君自身が否定していることに、俺は怒っているんだよ」

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