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闇夜の仮面
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近衛軍団第五軍団長ガーランドは指揮官としても戦士として非常に優秀である。元々ポーレン公国で傭兵として戦功をあげて、出世していた男だった。
ある日、ドイエベルン王国の近衛総司令であったレーム候から誘いを受けて、近衛軍団に加わった。
この日も傭兵時代の癖で、供のものも連れず夜道をふらっと歩いていた。
先日、知り合った『暁の鷲』のゼスという男に誘いを受けたためだ。普段堅苦しい宮仕えをしていると、どうしても昔の感覚であのような国に縛られない男と気が合ってしまう。
「やれやれ。俺も大人にならなきゃな」
ガーランドは独り言ちた。地位もあり、内戦の状況では自分はいつ狙われるか分からないのである。軽率な行動はそろそろ控えるべきだと反省した。
そして同時に自分の背後で尾行する者の気配に気付いた。
「気配は一応消しているが、察知できない程じゃないな。いや、わざとそういう風にしているのか? だとすりゃ只者じゃねえってことか?」
ガーランドは慎重に腰の二刀の山刀を抜いた。敵の気配は分かれども、実力が分からない。それが一層尾行者の存在を不気味にさせていた。
「おい! こそこそしてないで出て来いよ! 別に隠れる気ないんだろ?」
ガーランドが大声で道の曲がり角目掛けて叫んだ。
すると、そこからにゅっと一人の男がでてきた。背は大きい方である。すらりとした男性のようだった。
しかし、一番の特徴はそこではない。男は仮面を被っていた。白い仮面から覗く目が不気味にこちらを見ている。
「仮面取れよ。兄さん。そんなもんつけて物騒な気配を漂わせるもんじゃないぜ? 女たちがびっくりしてどっか行っちまう」
ガーランドは余裕たっぷりと言った表情で仮面の男を油断なく見据えていた。只者ではないと、長年の戦士の勘が警鐘を鳴らしている。
だが、ガーランドが動く前に仮面の男が腰の剣を抜いて、襲い掛かった。
「ぬ!?」
ただの賊だとは思えない、剣の鋭さにガーランドは面を食らう。
「しゃらくせえ!」
ガーランドも仮面の男の剣を避けつつ、山刀を振り回した。片方は右から、もう片方は左から、交互に山刀を繰り出し、防御を至難にさせる剣の運用である。
だが、仮面の男は巧妙にガーランドの剣を後ろに下がって躱した。そしてガーランドの技の打ち終わりを反撃に転じる。
「ぐっ!? お前まさか!?」
ガーランドは驚愕した。仮面の男の実力にではない。その剣筋に覚えがあったのだ。
「てめえ。近衛兵か? 随分お綺麗な太刀筋じゃねえか......よっ!」
ガーランドが雑に二刀を振った。仮面の男は素早い動きですっすっと避けて、一撃食らわせて、また下がる。
数回その攻防が続くと、段々とガーランドの体の至る所が切り傷だらけになり始めた。無論体を鍛えているガーランドにとってはかすり傷程度でしかない。しかし、兎に角苛つかせてくれた。
「あ~うぜえな。そんなに斬りたきゃ斬ってみろよおら」
ガーランドはやけになったのか、山刀をだらんと下ろした。隙だらけである。明らかに罠であったが、仮面の男は乗ることにしたようだ。
静かに近づくと、最速の突きを繰り出した。しかし待ってましたといわんばかりに、きらりと目を光らせたのはガーランドの方である。
「おうら!」
(野兎の一撃)
ガーランドは下ろした山刀を勢いよく上に振り上げた。仮面の男の剣が上方へとすり上げられる。そのまま振り下ろして切り裂くガーランドの得意技だった。
だが、仮面の男はそれすら見切っていた。
「なんだと!?」
仮面の男は剣を強く握っていなかった。剣は簡単にすり上げられ、仮面の男の手から離れてしまう。ガーランドは手ごたえのなさに技が失敗したと悟った。
そして仮面の男はいつの間にか、もう片方の手で握っていた小剣でガーランドを切りつけた。
ガーランドの体から血しぶきが舞う。
「ぐうっ!!?」
辛うじて致命傷は避けたようだが、夥しい出血が地面に垂れていた。しかもガーランドの体を切りつけると同時に片方の手も斬っていたようだ。手首からも血が流れ、山刀を一本地面に落としてしまっていた。
ガーランドは出血を押さえながら、少しづつ後退する。絶体絶命の状況であった。
「嵌めたつもりだったんだがな。嵌められたのは俺の方かよ......」
己の迂闊さを呪ったがもう遅い。仮面の男がとどめを刺そうと。落ちていた自分の剣を手に取り、近づいてくる。
「参ったぜ。こんなことなら去年営巣からくすねた、上物の酒飲んどくんだったな」
ガーランドの眼に白刃を振り上げる仮面の男が映っていた。全てを諦めかけたその時だった。
振り下ろされた凶刃を何者かかがガキンっと受け止めたのだ。
ガーランドがかすれた声で尋ねた。
「ありがてえ、兄ちゃん何者だい?」
黒服に身を包んだ若者は、目の前の敵に集中しながら答えた。
「烈。レツ・タチバナだ」
ある日、ドイエベルン王国の近衛総司令であったレーム候から誘いを受けて、近衛軍団に加わった。
この日も傭兵時代の癖で、供のものも連れず夜道をふらっと歩いていた。
先日、知り合った『暁の鷲』のゼスという男に誘いを受けたためだ。普段堅苦しい宮仕えをしていると、どうしても昔の感覚であのような国に縛られない男と気が合ってしまう。
「やれやれ。俺も大人にならなきゃな」
ガーランドは独り言ちた。地位もあり、内戦の状況では自分はいつ狙われるか分からないのである。軽率な行動はそろそろ控えるべきだと反省した。
そして同時に自分の背後で尾行する者の気配に気付いた。
「気配は一応消しているが、察知できない程じゃないな。いや、わざとそういう風にしているのか? だとすりゃ只者じゃねえってことか?」
ガーランドは慎重に腰の二刀の山刀を抜いた。敵の気配は分かれども、実力が分からない。それが一層尾行者の存在を不気味にさせていた。
「おい! こそこそしてないで出て来いよ! 別に隠れる気ないんだろ?」
ガーランドが大声で道の曲がり角目掛けて叫んだ。
すると、そこからにゅっと一人の男がでてきた。背は大きい方である。すらりとした男性のようだった。
しかし、一番の特徴はそこではない。男は仮面を被っていた。白い仮面から覗く目が不気味にこちらを見ている。
「仮面取れよ。兄さん。そんなもんつけて物騒な気配を漂わせるもんじゃないぜ? 女たちがびっくりしてどっか行っちまう」
ガーランドは余裕たっぷりと言った表情で仮面の男を油断なく見据えていた。只者ではないと、長年の戦士の勘が警鐘を鳴らしている。
だが、ガーランドが動く前に仮面の男が腰の剣を抜いて、襲い掛かった。
「ぬ!?」
ただの賊だとは思えない、剣の鋭さにガーランドは面を食らう。
「しゃらくせえ!」
ガーランドも仮面の男の剣を避けつつ、山刀を振り回した。片方は右から、もう片方は左から、交互に山刀を繰り出し、防御を至難にさせる剣の運用である。
だが、仮面の男は巧妙にガーランドの剣を後ろに下がって躱した。そしてガーランドの技の打ち終わりを反撃に転じる。
「ぐっ!? お前まさか!?」
ガーランドは驚愕した。仮面の男の実力にではない。その剣筋に覚えがあったのだ。
「てめえ。近衛兵か? 随分お綺麗な太刀筋じゃねえか......よっ!」
ガーランドが雑に二刀を振った。仮面の男は素早い動きですっすっと避けて、一撃食らわせて、また下がる。
数回その攻防が続くと、段々とガーランドの体の至る所が切り傷だらけになり始めた。無論体を鍛えているガーランドにとってはかすり傷程度でしかない。しかし、兎に角苛つかせてくれた。
「あ~うぜえな。そんなに斬りたきゃ斬ってみろよおら」
ガーランドはやけになったのか、山刀をだらんと下ろした。隙だらけである。明らかに罠であったが、仮面の男は乗ることにしたようだ。
静かに近づくと、最速の突きを繰り出した。しかし待ってましたといわんばかりに、きらりと目を光らせたのはガーランドの方である。
「おうら!」
(野兎の一撃)
ガーランドは下ろした山刀を勢いよく上に振り上げた。仮面の男の剣が上方へとすり上げられる。そのまま振り下ろして切り裂くガーランドの得意技だった。
だが、仮面の男はそれすら見切っていた。
「なんだと!?」
仮面の男は剣を強く握っていなかった。剣は簡単にすり上げられ、仮面の男の手から離れてしまう。ガーランドは手ごたえのなさに技が失敗したと悟った。
そして仮面の男はいつの間にか、もう片方の手で握っていた小剣でガーランドを切りつけた。
ガーランドの体から血しぶきが舞う。
「ぐうっ!!?」
辛うじて致命傷は避けたようだが、夥しい出血が地面に垂れていた。しかもガーランドの体を切りつけると同時に片方の手も斬っていたようだ。手首からも血が流れ、山刀を一本地面に落としてしまっていた。
ガーランドは出血を押さえながら、少しづつ後退する。絶体絶命の状況であった。
「嵌めたつもりだったんだがな。嵌められたのは俺の方かよ......」
己の迂闊さを呪ったがもう遅い。仮面の男がとどめを刺そうと。落ちていた自分の剣を手に取り、近づいてくる。
「参ったぜ。こんなことなら去年営巣からくすねた、上物の酒飲んどくんだったな」
ガーランドの眼に白刃を振り上げる仮面の男が映っていた。全てを諦めかけたその時だった。
振り下ろされた凶刃を何者かかがガキンっと受け止めたのだ。
ガーランドがかすれた声で尋ねた。
「ありがてえ、兄ちゃん何者だい?」
黒服に身を包んだ若者は、目の前の敵に集中しながら答えた。
「烈。レツ・タチバナだ」
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