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ゼスとの約束
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「どうしてあんなことを言ったんだ!!!」
アイネは怒髪天をつく表情で烈を怒鳴った。周りにいたものたちが思わず耳を塞ぐほどの大音声である。
烈たちはゼスとの話し合い?を終え、拠点を変えて別の宿屋に泊まることにしていた。
「どうしてと言ってもな......あの場でそれ以上のことを言うことはできなかったと思うんだが......」
「できたわ! 何も殿下でなくてもお前なり、私なり、そこで優雅にくつろいでいる小麦男なりが相手すればよかろう! なのになぜあのような約束を......」
アイネに指差されたラングは少々意外だった。まさかこの少女に実力を認めてもらえているとは思っていなかったからだ。
烈はアイネに胸倉をつかまれながら、先ほどのゼスとの会話を思い出していた。
---
「ミアとやり合いたいって?」
烈が確認のために二度聞くと、ゼスは愉快そうにした。
「おう。お前が言ってたじゃねえか。あの王女の実力は『勇者』より上だってよ。ならやってみてえと思うのはそんなに不思議なことか?」
「......そんなことを言われてもな。王女の約束を俺が勝手にするわけにはいかないだろう?」
「いや、お前の言うことならあの王女は聞く」
「なんの根拠があるんだよ? ミアに会ったことないだろ?」
「根拠ならあるさ。お前という人材がこの世界でどれだけ貴重かなんてわかり切っている」
烈はぎょっとした。まさかゼスが烈の正体に気付いたのかと疑った。
「お前は王女の戦で功を上げすぎている。この世界ならそれだけ戦功を上げれば報酬は思いのままだ。普通なら途中で怖くて使えなくなる。だが、お前は王女に何も望んでいないんだろう?」
烈はぎょっとした。異世界から来たということはばれていなかったが、その代わりミアとの関係をこうまで当てられるとは思わなかった。
改めてこのゼスという男はただの戦闘狂ではないと再認識させられる。
「もしかしたら何かしらの弱みを握られたり、契約で結ばれているかもしれないぜ?」
「その程度でこの敵地までそんな無防備に潜入できるかよ。間違いなくお前とあの王女の信頼関係は厚い」
烈はため息をついた。こうまで見抜かれると別の話に持っていくしかない。
「分かった。ただし条件がある」
「レツ! 何を考えている!」
アイネががたんっと席を立った。勝手に約束をしようというのが信じられなかったのだ。
だが、それはラングが目で押しとどめた。黙って見ていろと言うことである。
烈はちらりとアイネを見ると、すぐさまゼスに視線を戻した。
「まず第一に完全な約束はできない。話をしてみるだけだ」
「まあ、だろうな。そこまでは無理できねえよ」
「次に、死合いはできない。あくまで寸止めだ」
「おいおい? それで俺が納得するとでも?」
「なら交渉決裂だ。ミアの命は俺やあんたの武とつり合いが取れるものじゃない。ここに近衛兵でもなんでも呼ぶといい」
「......ちっ......仕方ねえ。それでいい」
「最後に、やり合う場は内戦終結後だ。今やり合うのはなしだ」
「それは断る。そんなに気が長い方じゃねえ。そこまで待つならこいつら率いて突撃した方が早え」
周りの団員たちは苦笑いしている。この人なら本当にやりそうだと知っているのだろう。
「なら、おまけをつけてやる」
「おまけ?」
「ああ、内戦後、ミアも出場する武術大会を主催するというのはどうだ?」
「ほう? 武術大会?」
「そうだ。そこで俺もカイエン公爵も出場するようにミアに掛け合ってみよう。勝ち上がればドイエベルンの精鋭とやり合えるというのはどうだ?」
「ふ~む......」
ゼスは口に手を当てて考え込んだ。確かにその場なら借りを返したい相手にまとめて返せるかもしれない。ゼスにとっては魅力的な案に思えた。
「いいだろう。だがこちらからも条件がある」
「......なんだ?」
「試合形式はトーナメント。まあ予選があるかもしれないが、それは俺は免除だ。それと組み合わせは俺に選ばせろ。それが条件だ」
「分かった。帰ったらミアに掛け合ってみよう」
「うし! 交渉成立だ!」
ゼスはゆらりと手を差し伸ばしてきた。烈はその手を幾分か緊張しながら握り返した。
---
「あんな約束したら殿下を危険にさらすようなものじゃないか!?」
なおもぎりぎりと烈を締め上げるアイネの手を、ラングが落ち着けと言わんばかりに遠ざけた。
「まあまあ。実際に烈の大手柄だぜ。俺らも時間があるわけじゃねえ。潜入が長引くほど見つかる可能性だって高くなる。とくにアイネは王都に知り合いもいるだろう?」
アイネはそう言われてうっと詰まった。確かにこの中で一番知り合いに出会う確率が高いのは自分だったからだ。
アイネがすっと手を烈から離すと、烈は息を目いっぱい吸って、酸素の味を楽しんだ。それからこほんと咳ばらいを一つして、今後の戦略を立てることにした。
「とにかく、ゼスから連絡があるまで待機は変わらないんだ。今は全員で大人しくしよう。それとフィズとラフィ」
呼ばれた二人は、「はいな!」と元気よく答えた。
「動いてもらっていた二人には申し訳ないけど、別口であてが見つかったから、二人の交渉ルートは一旦止めてもらえるか? ダブルブッキングは避けたい」
「いいぜ! うちの大将には言っとくよ!」
「はいは~い。俺も了解~。でもまあその大将との連絡係も兼ねてるから、ちょこちょこここには出入りさせてもらうよ~」
そう言う二人をラングはジト目で眺めていた。
「俺としては、ここまでこそこそ王都で動いてるっていう大将の方が気になるけどな」
その視線に気づいてかどうか分からないが、二人はえへへ~と呑気に笑っていた。
アイネは怒髪天をつく表情で烈を怒鳴った。周りにいたものたちが思わず耳を塞ぐほどの大音声である。
烈たちはゼスとの話し合い?を終え、拠点を変えて別の宿屋に泊まることにしていた。
「どうしてと言ってもな......あの場でそれ以上のことを言うことはできなかったと思うんだが......」
「できたわ! 何も殿下でなくてもお前なり、私なり、そこで優雅にくつろいでいる小麦男なりが相手すればよかろう! なのになぜあのような約束を......」
アイネに指差されたラングは少々意外だった。まさかこの少女に実力を認めてもらえているとは思っていなかったからだ。
烈はアイネに胸倉をつかまれながら、先ほどのゼスとの会話を思い出していた。
---
「ミアとやり合いたいって?」
烈が確認のために二度聞くと、ゼスは愉快そうにした。
「おう。お前が言ってたじゃねえか。あの王女の実力は『勇者』より上だってよ。ならやってみてえと思うのはそんなに不思議なことか?」
「......そんなことを言われてもな。王女の約束を俺が勝手にするわけにはいかないだろう?」
「いや、お前の言うことならあの王女は聞く」
「なんの根拠があるんだよ? ミアに会ったことないだろ?」
「根拠ならあるさ。お前という人材がこの世界でどれだけ貴重かなんてわかり切っている」
烈はぎょっとした。まさかゼスが烈の正体に気付いたのかと疑った。
「お前は王女の戦で功を上げすぎている。この世界ならそれだけ戦功を上げれば報酬は思いのままだ。普通なら途中で怖くて使えなくなる。だが、お前は王女に何も望んでいないんだろう?」
烈はぎょっとした。異世界から来たということはばれていなかったが、その代わりミアとの関係をこうまで当てられるとは思わなかった。
改めてこのゼスという男はただの戦闘狂ではないと再認識させられる。
「もしかしたら何かしらの弱みを握られたり、契約で結ばれているかもしれないぜ?」
「その程度でこの敵地までそんな無防備に潜入できるかよ。間違いなくお前とあの王女の信頼関係は厚い」
烈はため息をついた。こうまで見抜かれると別の話に持っていくしかない。
「分かった。ただし条件がある」
「レツ! 何を考えている!」
アイネががたんっと席を立った。勝手に約束をしようというのが信じられなかったのだ。
だが、それはラングが目で押しとどめた。黙って見ていろと言うことである。
烈はちらりとアイネを見ると、すぐさまゼスに視線を戻した。
「まず第一に完全な約束はできない。話をしてみるだけだ」
「まあ、だろうな。そこまでは無理できねえよ」
「次に、死合いはできない。あくまで寸止めだ」
「おいおい? それで俺が納得するとでも?」
「なら交渉決裂だ。ミアの命は俺やあんたの武とつり合いが取れるものじゃない。ここに近衛兵でもなんでも呼ぶといい」
「......ちっ......仕方ねえ。それでいい」
「最後に、やり合う場は内戦終結後だ。今やり合うのはなしだ」
「それは断る。そんなに気が長い方じゃねえ。そこまで待つならこいつら率いて突撃した方が早え」
周りの団員たちは苦笑いしている。この人なら本当にやりそうだと知っているのだろう。
「なら、おまけをつけてやる」
「おまけ?」
「ああ、内戦後、ミアも出場する武術大会を主催するというのはどうだ?」
「ほう? 武術大会?」
「そうだ。そこで俺もカイエン公爵も出場するようにミアに掛け合ってみよう。勝ち上がればドイエベルンの精鋭とやり合えるというのはどうだ?」
「ふ~む......」
ゼスは口に手を当てて考え込んだ。確かにその場なら借りを返したい相手にまとめて返せるかもしれない。ゼスにとっては魅力的な案に思えた。
「いいだろう。だがこちらからも条件がある」
「......なんだ?」
「試合形式はトーナメント。まあ予選があるかもしれないが、それは俺は免除だ。それと組み合わせは俺に選ばせろ。それが条件だ」
「分かった。帰ったらミアに掛け合ってみよう」
「うし! 交渉成立だ!」
ゼスはゆらりと手を差し伸ばしてきた。烈はその手を幾分か緊張しながら握り返した。
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「あんな約束したら殿下を危険にさらすようなものじゃないか!?」
なおもぎりぎりと烈を締め上げるアイネの手を、ラングが落ち着けと言わんばかりに遠ざけた。
「まあまあ。実際に烈の大手柄だぜ。俺らも時間があるわけじゃねえ。潜入が長引くほど見つかる可能性だって高くなる。とくにアイネは王都に知り合いもいるだろう?」
アイネはそう言われてうっと詰まった。確かにこの中で一番知り合いに出会う確率が高いのは自分だったからだ。
アイネがすっと手を烈から離すと、烈は息を目いっぱい吸って、酸素の味を楽しんだ。それからこほんと咳ばらいを一つして、今後の戦略を立てることにした。
「とにかく、ゼスから連絡があるまで待機は変わらないんだ。今は全員で大人しくしよう。それとフィズとラフィ」
呼ばれた二人は、「はいな!」と元気よく答えた。
「動いてもらっていた二人には申し訳ないけど、別口であてが見つかったから、二人の交渉ルートは一旦止めてもらえるか? ダブルブッキングは避けたい」
「いいぜ! うちの大将には言っとくよ!」
「はいは~い。俺も了解~。でもまあその大将との連絡係も兼ねてるから、ちょこちょこここには出入りさせてもらうよ~」
そう言う二人をラングはジト目で眺めていた。
「俺としては、ここまでこそこそ王都で動いてるっていう大将の方が気になるけどな」
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