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ゼスの招待

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 烈たちは今自分がいるところが信じられなかった。

「なあ、なんで俺らはこんなところにいるんだ?」

 ラングが烈に耳打ちするが、烈も肩をすくめるしかない。

「わからん。ただまあどうやら、今すぐにどうこうしようっていうわけじゃないみたいだな」

 烈たちは王都の外縁部の傭兵団『暁の鷲』の陣中に招待されていた。周りには『暁の鷲』の団員たちがこちらを探るように控えている。そして、正面には......

「おい。お前ら酒でいいか? というか酒しかないからそれで我慢しろ」

 烈たちと死闘を繰り広げた、『暁の鷲』第八軍団軍団長---『鉄甲鬼』のゼスが、机に両足を乗っけて、行儀悪く座っていた。片手には酒瓶を持ち、時折豪快にラッパ飲みしている。

 烈は頭が痛くなりつつも、この状況について話をすることにした。

「つまり、今あんたらは俺たちとやり合う気はないってことでいいのか?」

「ああ~ん?」

 ゼスは気だるげに椅子の背もたれに体を投げ出しながら、それでもにやっと笑った。

「......今ここで決着をつけてえって言ったらお前はどうするんだよ? レツ」

 レツの仲間たちが警戒態勢を一斉にとる。アイネなどは既に剣の柄に手を掛け、いつでも抜ける状態を作っていた。

 だが、それを烈は片手で押しとどめる。

「やるなら俺一人だ。やり合いたいのは俺だけだろ?」

「くっくっくっく! 嬉しいねぇ。だが、まあその通りだよ。カイエンの爺にやられた傷も治ってないしな」

 烈はちらりとゼスの体を見た。服で隠れているが、確かに体中に包帯がまかれているようだった。

「やるなら互いに万全のときにってことか?」

「まあ、そこまで贅沢は言わねえよ。傭兵だからな。戦場で傷を負ったままやり合うなんてよくある話だ。ただまあ......」

 ゼスは烈の腰に提げている剣をちらりと見た。

「俺も重症、相手も得物がねえとあっちゃあ、死合いにならねえだろ。そりゃちと面白くねえからな。今は我慢してやるよ。それより......」

 ゼスがぐっと前のめりになる。

「『勇者』とやり合ったんだろ? どうだった?」

「どうって......強かったよ......」

「俺よりもか?」

「......正直に答えたほうがいいか?」

「誤魔化したら殺す」

「さっきと言ってることが違う気がするが......まあそうだな。本気でやり合った中だったら一番だ」

「奥歯にものが挟まったような言い方だな? 他にも強い奴がいたのか?」

「そうだな......まずはミア、それにカイエン公爵、あとは紗矢.....じゃなくてバリ王国の『魔剣』はもしかしたらガルランディより強いかもしれない」

「なるほどね......あの爺様は確かにあほ程強かった。うちの団長やインペリアル帝国の『神の剣』と同等ってことか......いいね」

「何がいいのか......」

「いいじゃねえか? 自分より強いのがこの世界にごまんと溢れてる。生きているだけで退屈なんだ。それくらいの楽しみがないとな」

「戦うこと以外の楽しみがないのか? あんたは」

「ねえな。それ以上のものがあったら教えてほしいくらいだぜ?」

「裁縫とかどうだ? 似合うぜあんた?」

 ラングがからかうように言うと、ゼスは「考えとく」と首を振って笑った。

 烈は肩をすくめると、話題を変えることにした。

「どうしてあんたはあんな所にいたんだ?」

「あんな所?」

「さっきの宿屋さ。ここの陣中とはだいぶ離れてるし、あんな路地裏の宿屋に用なんてないだろ?」

「ああ、そのことか。そいつだよ」

 ゼスの指さす方向の先には縮こまっているラフィがいる。

「そいつ、ザネの砦で俺が殴り飛ばしたやつだろ? そいつが呑気に大通りを歩いてるのを見つけたからよ。後をつけてみたらさっきの宿屋に入ろうとしたから、ふんじばって宿の中をみたらお前らが中で囲まれてたってわけよ」

 烈たちはラフィをじっと見た。ラフィはさらに小さくなってしまった。

 フィズはそんなラフィの姿を見てため息をついている。

「お前、なんでそんな簡単に尾行されるわけ?」

「いや、俺も一応警戒してたよ!!? でもまさか......」

「まさか?」

「あの『鉄甲鬼』が樽に入ってそのままつけてくるなんて思わなかったんだよ!」

「樽? あの果物とか酒とか入れとくあれか?」

「そう! 樽! 人一人入るくらいのね! 歩いてたら樽が尾行してくるから、なんて間抜けな尾行者だと思ってたら、中にこの人が入ってるなんて......」

「じゃあお前、尾行されてるの分かってて、酒場まで案内しちまったのか?」

「あんなやつ簡単に倒して情報収集できると思ったら......まさか『暁の鷲』の部隊長が入ってるなんて思わなかったんだよ......」

 そのままラフィはよよっと泣き崩れる。烈はジト目でゼスの方を見た。

「あんた、そんなことしたのか?」

「おお、したぜ? 何か物に隠れて見つかるように尾行すると、みんな油断してくれてな。襲撃しやすいのよ」

「それにしたってキャラってものがあるだろうに......」

「キャラ? なんだそりゃ?」

「個性とか......いや、いいんだ忘れてくれ......」

 ゼスは聞きなれない烈の言葉に不思議そうにしていたが、まあいいかと納得したようだった。

「で? レツはなんであんな所にいたんだよ?」

「それを言うと思うのか?」

「言えよ? 力になれるかもしれないぜ?」

 烈は今度こそ意外な気持ちだった。まさか死闘を繰り広げた相手に手助けの申し出をするとは。

「力って......あんたらペルセウス派だろ?」

「いや? 金をもらったから二回ほど協力しただけだ。今はうちの渉外がまた交渉しているだろうがどうだろうな? もう二回もしくじってるから、今回はなしになるかもしれん」

「信用しろと?」

「おお。めんどい子細工はしねえよ」

 烈はふむと考えている。切羽詰まっている状況で、これは渡りに船かもしれない。

「実は会いたい人がいるんだ」

「会いたい人?」

「ああ、ガーランド・オラウスという男だ」

「ガーランド......ああ、近衛軍団の第五軍団長か」

「知っているのか?」

「前に、一杯飲んでな。あっちも近衛の中じゃはみ出しもんみたいで妙に馬が合ったんだよ。なんなら紹介してやろうか?」

 烈は目を見開いた。まさかこのような所からつながりが作れるとは思っていなかった。

「それは助かるが......いいのか?」

「いいぜ。前の酒の礼だと呼び出せばいい。それより......」

 ゼスがずいっと身を寄せる。その眼には危険な光が浮かんでいた。

「お前のところのミネビア王女と勝負させな。それが条件だ」

 烈たちの顔に緊張が走った。
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