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心技体を上回るもの

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「自分より心技体で上回る相手を倒すにはどうすればいいか?」

 ある日、乗馬の練習で来ていた牧場で烈は紗矢に質問を投げかけていた。

「ああ、すべての実力で上回る相手に勝つにはどうすればいいと思う?」

 烈から再度質問を聞くと、紗矢は途端にニヤニヤし始めた。

「もしかしてそれは、どうしても僕に勝ちたいけど、中々勝てない君からの助けて~のメッセージかい?」

「あほ。心と技はともかく、体ならそう簡単には負けんよ」

「どうかな~。体の運用も僕の方が勝っている気がするけどな~。妹に聞くのが恥ずかしかったんじゃないかな~」

「答える気がないなら先に行くぞ?」

 烈は馬に鞭を入れて走り出そうとする。それを紗矢は焦ったふりをしたような素振りで止めた。

「ごめんごめん。悪かったって。そうだな......この前僕が編み出した奥義を使ってみるのはどうだ?」

「あの、心技体のバランスを完全に一致させることで爆発的な力を生み出すあれか?」

「そうそう。心技体すべてが高水準であっても、それを完全に一致させてるものはいないからね。足し算ではなく、掛け算で勝負するのさ」

「簡単に言うな。あんなもの意識して使える奴なんて現代では紗矢くらいだ」

「そうかな?」

 紗矢は何かを期待するような目で烈を見た。烈はその目が苦手だったが、ため息をついて妹のを言うことにした。

「まあ、数年後には使えるようにしてみるさ」

 紗矢は満足そうにふふっと笑った。

「楽しみにしてるよ。ただそうだな。あの技が無理ならあとは兵法で勝つしかないだろうね」

「兵法? 卑怯なことをするってことか?」

「卑怯とはまた極端だね。まあどこかで潜んでいて奇襲をかけるとか、わざと遅刻して相手を苛つかせるとかその類の話ではあるけどね」

「間違いなく卑怯じゃないか」

「いやいや。そう馬鹿にしたものではない。それは言い換えれば何としてでも勝つという情念の表れだからね。別に卑怯なことはしなくてもいい。勝利にしがみつく、その意志が重要なのさ」

「それは心技体の心とは違うのか?」

「まったく別ものさ。心技体の心は安定を与えるものだ。常にどのような状況下でも同じ力を発揮する。剣士にとってこれ以上に重要なものはない。だが、意志は違う。揺れ動き、時に弱くもなる、非常に不安定なものだ」

「......」

「だが、時としてそれは何物にも勝る爆発力を生むことがある。それが結実したものが兵法さ。君も本でも読んで学んでみるといい。そこに何か答えがあるかもしれんよ?」

「ま、考えてみるわ......」

 烈は素っ気なく、馬を歩かせて先に進んだ。その様子を見ながら、紗矢もふふっと口元に手を当てて、後ろをついていった。

---
 烈の目の前に立つ男はまさに、その心技体で上回る相手であった。離れていても感じる剣圧、鎧の上からでもわかる立派な体躯、剣を構える姿にもまるで隙がなかった。

 烈はたらりと額から冷や汗を流す。この世界に来て、まさに今までで一番の強い相手である。

 その相手---『勇者』ガルランディが口を開いた。

「少年。どうやら貴公も一角の剣士のようだ。名乗らせてもらおう。我が名はガルランディ。ガルランディ・ラーゼリア。ポーレン公国の騎士団長を務めている。そなたの名は?」

「......烈。レツ・タチバナだ。ドイエベルン王国王女ミネビアの盟友だ」

「なるほど......やはり貴公が『剣姫』を打倒したものか。その勇名は我が国まで届いていたぞ」

「光栄だね。あんたほどの剣士にまで知られているなんて」

「ふっ。貴公を見れば王女の器が知れるな。やはり相当な人物なのであろう」

「ああ、その通りだ。王冠に被るのに相応しい奴だぜ? だから、邪魔しないでくれよ」

「それはできんな。私にも退けぬ理由がある」

 烈は内心ちっと舌打ちをした。

(やはり、何かしらの信念をもってここに立っているというわけか。これはいよいよ隙が無いぞ?)

 烈はどこかに打開策がないか探した。この戦いは負けるわけにはいかないのだ。

 そうこうするうちにしびれを切らしたのは意外にもガルランディの方であった。

「来ないならば、こちらから行くぞ?」

 ガルランディが大地を蹴って距離を詰めてくる。無造作に蹴ったようで、その速度はゼスの踏み込みよりも速かった。

 ガルランディの長剣が袈裟懸けにブオンっと唸りを上げて襲い掛かるのを、烈は辛うじて受け止めた。
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