130 / 144
裏目の奇襲
しおりを挟む
突撃する陣の中央、その先頭で烈は味方を背に道を斬り拓いていた。隣で並走するモーガンは何やら楽しそうである。
「旦那! ポーレン公国のやつら大したことないですね! 奇襲の効果ですかね? 面白いくらいに進めまさあ!」
「ああ、まるで誘い込まれているようだ」
モーガンは烈の言葉にはっとした。確かにうまく進みすぎている。
そしてその理由はすぐにわかることになった。
急に乗っていた馬がビヒヒンと怯えたようにその脚を止めた。先頭を行く烈もモーガンも急に馬が暴れだすものだから、鐙から落ちそうになってしまう。
烈はどうどうと馬を落ち着かせ、目の前をみた。そこには剣を大地に突き刺し、仁王立ちする男がいた、蒼い鎧を着た男はそこから何をするでもなく、ただまっすぐにこちらを見据えているだけである。
「なるほど、あれが......」
烈がたらりと冷や汗を流す。びりびりとした重い圧が体全体を圧し潰しそうだ。殺気でもない。闘気でもない。ただ男の人間としての圧が、烈たちにプレッシャーを与えていた。
目の前の男---『勇者』ガルランディが口を開こうとしたその時であった。
「おいおい、寂しいじゃねえか。こっちが先客だろ?」
今度は烈がその声にはっとした。ガルランディの静謐な圧とは違う、獣の殺気が真横から発せられた。
「くっ!?」
烈が咄嗟に剣でガードすると、その剣の上から鉄の拳が叩き込まれる。
折角持ち直したにもかかわらず、烈は馬上から叩き落されることになってしまった。
「旦那!?」
モーガンが慌てて下馬して駆け寄ってきた。それを烈は手で制して、目の前の敵に集中するよう視線で合図を送る。よそ見をしていてはこの男たちに一瞬で命を刈り取られるかもしれないからだ。
烈を横合いから吹っ飛ばした男---『鉄甲鬼』ゼスは舌なめずりする勢いで、口角を吊り上げて、にやりと笑った。
「久しぶりだなあ。レツぅ」
「やっぱりあんたも来てたんだな。ゼス」
「覚えてくれていて嬉しいぜ? あの日からお前と闘いたくてうずうずしてたんだからよ」
「生憎俺はそんなでもなかったよ。よくここに来るってわかったな?」
「当たり前じゃねえか。お前はお姫様の陣営の要だからな。必ず決定的な場所にいると思ってたぜ? ならあとはそこで待ち構えるだけだろ?」
「買い被りすぎだよ。ミアがここに来ることもあり得た」
「かもな。それでもお前はここにいるって信じてたぜ」
「あまり嬉しくないな......」
軽口を叩きながらも烈は打開の手を探っていた。いくらなんでも『勇者』と『鉄甲鬼』二人を同時に相手するには分が悪すぎた。
しかし、どう考えても切り抜ける方法がない。深く進軍できてしまったことが完全に裏目に出ていた。
死中に活を見出さなければいけないかと覚悟を決めようとしたその時だった。
「旦那。『鉄甲鬼』はあっしに任せてもらいやせんか?」
モーガンが驚きの提案をしてきた。烈は首を横に振らざるを得ない。
「だめだ。あの男とモーガンでは実力が違いすぎる。やり合っても勝てるとは......」
だが、言い終わる前にモーガンは烈をぎろりと睨んだ。
「舐めないでくだせえ。旦那。このモーガン、『不死身の重戦士』の二つ名は伊達じゃねえですわ。勝てないまでも旦那が『勇者』に勝つまでも時間稼ぎくらいできまさあ」
モーガンの言葉に一瞬烈は呆気に取られてぽかんとした。この男、烈がガルランディに勝つと疑っていないのだ。
烈はぷふっと吹き出した。
「俺、あんなのに必ず勝てるとは限らないんだけど?」
「勝ちまさあ」
「どうしてそこまで信用できるんだ?」
「殿下からの頼みだからでさあ」
烈は再度ぽかんとした。まさかそのような答えが返ってくると思っていなかったからだ。
「ミアの頼みだと俺は負けないのか?」
「そりゃそうでしょうよ。旦那は殿下の依頼なら必ず成し遂げる。見てりゃ分かります。結局のところ儂は勝ち馬に乗ってるだけなんでさぁ」
モーガンの率直な物言いに烈は肩の力が抜けた。たしかに烈自身、ミアの頼みなら何でもできる気がしているのだ。
「そうだな。なら少しだけ相手を頼めるか? 『勇者』を倒したらすぐに加勢するから」
「早く来てくださいよ? じゃないと儂が倒してしまうかもしれないんでね」
二人で笑い合いながら、それぞれの相手に一歩進み出る。その様子にゼスは露骨にがっかりしたように顔を歪めた。
「おい? 俺の相手はこのおっさんかよ? ずいぶん舐めてくれるじゃねえか」
ゼスの文句に烈は首を振って応えた。
「倒せたら相手してやるよ? 無理だと思うがな」
「ああ~ん? おもしれえ。なら速攻で終わらせてやるよ」
ゼスが大地を蹴って、モーガンに肉薄した。
「旦那! ポーレン公国のやつら大したことないですね! 奇襲の効果ですかね? 面白いくらいに進めまさあ!」
「ああ、まるで誘い込まれているようだ」
モーガンは烈の言葉にはっとした。確かにうまく進みすぎている。
そしてその理由はすぐにわかることになった。
急に乗っていた馬がビヒヒンと怯えたようにその脚を止めた。先頭を行く烈もモーガンも急に馬が暴れだすものだから、鐙から落ちそうになってしまう。
烈はどうどうと馬を落ち着かせ、目の前をみた。そこには剣を大地に突き刺し、仁王立ちする男がいた、蒼い鎧を着た男はそこから何をするでもなく、ただまっすぐにこちらを見据えているだけである。
「なるほど、あれが......」
烈がたらりと冷や汗を流す。びりびりとした重い圧が体全体を圧し潰しそうだ。殺気でもない。闘気でもない。ただ男の人間としての圧が、烈たちにプレッシャーを与えていた。
目の前の男---『勇者』ガルランディが口を開こうとしたその時であった。
「おいおい、寂しいじゃねえか。こっちが先客だろ?」
今度は烈がその声にはっとした。ガルランディの静謐な圧とは違う、獣の殺気が真横から発せられた。
「くっ!?」
烈が咄嗟に剣でガードすると、その剣の上から鉄の拳が叩き込まれる。
折角持ち直したにもかかわらず、烈は馬上から叩き落されることになってしまった。
「旦那!?」
モーガンが慌てて下馬して駆け寄ってきた。それを烈は手で制して、目の前の敵に集中するよう視線で合図を送る。よそ見をしていてはこの男たちに一瞬で命を刈り取られるかもしれないからだ。
烈を横合いから吹っ飛ばした男---『鉄甲鬼』ゼスは舌なめずりする勢いで、口角を吊り上げて、にやりと笑った。
「久しぶりだなあ。レツぅ」
「やっぱりあんたも来てたんだな。ゼス」
「覚えてくれていて嬉しいぜ? あの日からお前と闘いたくてうずうずしてたんだからよ」
「生憎俺はそんなでもなかったよ。よくここに来るってわかったな?」
「当たり前じゃねえか。お前はお姫様の陣営の要だからな。必ず決定的な場所にいると思ってたぜ? ならあとはそこで待ち構えるだけだろ?」
「買い被りすぎだよ。ミアがここに来ることもあり得た」
「かもな。それでもお前はここにいるって信じてたぜ」
「あまり嬉しくないな......」
軽口を叩きながらも烈は打開の手を探っていた。いくらなんでも『勇者』と『鉄甲鬼』二人を同時に相手するには分が悪すぎた。
しかし、どう考えても切り抜ける方法がない。深く進軍できてしまったことが完全に裏目に出ていた。
死中に活を見出さなければいけないかと覚悟を決めようとしたその時だった。
「旦那。『鉄甲鬼』はあっしに任せてもらいやせんか?」
モーガンが驚きの提案をしてきた。烈は首を横に振らざるを得ない。
「だめだ。あの男とモーガンでは実力が違いすぎる。やり合っても勝てるとは......」
だが、言い終わる前にモーガンは烈をぎろりと睨んだ。
「舐めないでくだせえ。旦那。このモーガン、『不死身の重戦士』の二つ名は伊達じゃねえですわ。勝てないまでも旦那が『勇者』に勝つまでも時間稼ぎくらいできまさあ」
モーガンの言葉に一瞬烈は呆気に取られてぽかんとした。この男、烈がガルランディに勝つと疑っていないのだ。
烈はぷふっと吹き出した。
「俺、あんなのに必ず勝てるとは限らないんだけど?」
「勝ちまさあ」
「どうしてそこまで信用できるんだ?」
「殿下からの頼みだからでさあ」
烈は再度ぽかんとした。まさかそのような答えが返ってくると思っていなかったからだ。
「ミアの頼みだと俺は負けないのか?」
「そりゃそうでしょうよ。旦那は殿下の依頼なら必ず成し遂げる。見てりゃ分かります。結局のところ儂は勝ち馬に乗ってるだけなんでさぁ」
モーガンの率直な物言いに烈は肩の力が抜けた。たしかに烈自身、ミアの頼みなら何でもできる気がしているのだ。
「そうだな。なら少しだけ相手を頼めるか? 『勇者』を倒したらすぐに加勢するから」
「早く来てくださいよ? じゃないと儂が倒してしまうかもしれないんでね」
二人で笑い合いながら、それぞれの相手に一歩進み出る。その様子にゼスは露骨にがっかりしたように顔を歪めた。
「おい? 俺の相手はこのおっさんかよ? ずいぶん舐めてくれるじゃねえか」
ゼスの文句に烈は首を振って応えた。
「倒せたら相手してやるよ? 無理だと思うがな」
「ああ~ん? おもしれえ。なら速攻で終わらせてやるよ」
ゼスが大地を蹴って、モーガンに肉薄した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
適正異世界
sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男
「今から君たちには異世界に行ってもらう」
そんなこと急に言われても…
しかし良いこともあるらしい!
その世界で「あること」をすると……
「とりあいず帰る方法を探すか」
まぁそんな上手くいくとは思いませんけど
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記
砂嶋真三
SF
WEB小説「巨乳戦記」を愛する男は、目覚めると太陽系を治めるモブ領主になっていた。
蛮族の艦隊が迫る中、夢だと思い込んだ男は、原作知識を活かし呑気に無双する。
巨乳秘書、巨乳メイド、巨乳艦長、そしてロリまでいる夢の世界であった。
――と言いつつ、割とガチ目の戦争する話なのです。
・あんまり科学しませんので、難しくないです。
・巨乳美女、合法ロリ、ツン美少女が出ますが、えっちくありません。
・白兵戦は、色々理由を付けて剣、槍、斧で戦います。
・艦隊戦は、色々理由を付けて陣形を作って戦います。
・わりとシリアスに残酷なので、電車で音読すると捕まります。
・何だかんだと主人公は英雄になりますが、根本的には悪党です。
書いている本人としては、ゲーム・オブ・スローンズ的な展開かなと思っています。
追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる