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裏目の奇襲
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突撃する陣の中央、その先頭で烈は味方を背に道を斬り拓いていた。隣で並走するモーガンは何やら楽しそうである。
「旦那! ポーレン公国のやつら大したことないですね! 奇襲の効果ですかね? 面白いくらいに進めまさあ!」
「ああ、まるで誘い込まれているようだ」
モーガンは烈の言葉にはっとした。確かにうまく進みすぎている。
そしてその理由はすぐにわかることになった。
急に乗っていた馬がビヒヒンと怯えたようにその脚を止めた。先頭を行く烈もモーガンも急に馬が暴れだすものだから、鐙から落ちそうになってしまう。
烈はどうどうと馬を落ち着かせ、目の前をみた。そこには剣を大地に突き刺し、仁王立ちする男がいた、蒼い鎧を着た男はそこから何をするでもなく、ただまっすぐにこちらを見据えているだけである。
「なるほど、あれが......」
烈がたらりと冷や汗を流す。びりびりとした重い圧が体全体を圧し潰しそうだ。殺気でもない。闘気でもない。ただ男の人間としての圧が、烈たちにプレッシャーを与えていた。
目の前の男---『勇者』ガルランディが口を開こうとしたその時であった。
「おいおい、寂しいじゃねえか。こっちが先客だろ?」
今度は烈がその声にはっとした。ガルランディの静謐な圧とは違う、獣の殺気が真横から発せられた。
「くっ!?」
烈が咄嗟に剣でガードすると、その剣の上から鉄の拳が叩き込まれる。
折角持ち直したにもかかわらず、烈は馬上から叩き落されることになってしまった。
「旦那!?」
モーガンが慌てて下馬して駆け寄ってきた。それを烈は手で制して、目の前の敵に集中するよう視線で合図を送る。よそ見をしていてはこの男たちに一瞬で命を刈り取られるかもしれないからだ。
烈を横合いから吹っ飛ばした男---『鉄甲鬼』ゼスは舌なめずりする勢いで、口角を吊り上げて、にやりと笑った。
「久しぶりだなあ。レツぅ」
「やっぱりあんたも来てたんだな。ゼス」
「覚えてくれていて嬉しいぜ? あの日からお前と闘いたくてうずうずしてたんだからよ」
「生憎俺はそんなでもなかったよ。よくここに来るってわかったな?」
「当たり前じゃねえか。お前はお姫様の陣営の要だからな。必ず決定的な場所にいると思ってたぜ? ならあとはそこで待ち構えるだけだろ?」
「買い被りすぎだよ。ミアがここに来ることもあり得た」
「かもな。それでもお前はここにいるって信じてたぜ」
「あまり嬉しくないな......」
軽口を叩きながらも烈は打開の手を探っていた。いくらなんでも『勇者』と『鉄甲鬼』二人を同時に相手するには分が悪すぎた。
しかし、どう考えても切り抜ける方法がない。深く進軍できてしまったことが完全に裏目に出ていた。
死中に活を見出さなければいけないかと覚悟を決めようとしたその時だった。
「旦那。『鉄甲鬼』はあっしに任せてもらいやせんか?」
モーガンが驚きの提案をしてきた。烈は首を横に振らざるを得ない。
「だめだ。あの男とモーガンでは実力が違いすぎる。やり合っても勝てるとは......」
だが、言い終わる前にモーガンは烈をぎろりと睨んだ。
「舐めないでくだせえ。旦那。このモーガン、『不死身の重戦士』の二つ名は伊達じゃねえですわ。勝てないまでも旦那が『勇者』に勝つまでも時間稼ぎくらいできまさあ」
モーガンの言葉に一瞬烈は呆気に取られてぽかんとした。この男、烈がガルランディに勝つと疑っていないのだ。
烈はぷふっと吹き出した。
「俺、あんなのに必ず勝てるとは限らないんだけど?」
「勝ちまさあ」
「どうしてそこまで信用できるんだ?」
「殿下からの頼みだからでさあ」
烈は再度ぽかんとした。まさかそのような答えが返ってくると思っていなかったからだ。
「ミアの頼みだと俺は負けないのか?」
「そりゃそうでしょうよ。旦那は殿下の依頼なら必ず成し遂げる。見てりゃ分かります。結局のところ儂は勝ち馬に乗ってるだけなんでさぁ」
モーガンの率直な物言いに烈は肩の力が抜けた。たしかに烈自身、ミアの頼みなら何でもできる気がしているのだ。
「そうだな。なら少しだけ相手を頼めるか? 『勇者』を倒したらすぐに加勢するから」
「早く来てくださいよ? じゃないと儂が倒してしまうかもしれないんでね」
二人で笑い合いながら、それぞれの相手に一歩進み出る。その様子にゼスは露骨にがっかりしたように顔を歪めた。
「おい? 俺の相手はこのおっさんかよ? ずいぶん舐めてくれるじゃねえか」
ゼスの文句に烈は首を振って応えた。
「倒せたら相手してやるよ? 無理だと思うがな」
「ああ~ん? おもしれえ。なら速攻で終わらせてやるよ」
ゼスが大地を蹴って、モーガンに肉薄した。
「旦那! ポーレン公国のやつら大したことないですね! 奇襲の効果ですかね? 面白いくらいに進めまさあ!」
「ああ、まるで誘い込まれているようだ」
モーガンは烈の言葉にはっとした。確かにうまく進みすぎている。
そしてその理由はすぐにわかることになった。
急に乗っていた馬がビヒヒンと怯えたようにその脚を止めた。先頭を行く烈もモーガンも急に馬が暴れだすものだから、鐙から落ちそうになってしまう。
烈はどうどうと馬を落ち着かせ、目の前をみた。そこには剣を大地に突き刺し、仁王立ちする男がいた、蒼い鎧を着た男はそこから何をするでもなく、ただまっすぐにこちらを見据えているだけである。
「なるほど、あれが......」
烈がたらりと冷や汗を流す。びりびりとした重い圧が体全体を圧し潰しそうだ。殺気でもない。闘気でもない。ただ男の人間としての圧が、烈たちにプレッシャーを与えていた。
目の前の男---『勇者』ガルランディが口を開こうとしたその時であった。
「おいおい、寂しいじゃねえか。こっちが先客だろ?」
今度は烈がその声にはっとした。ガルランディの静謐な圧とは違う、獣の殺気が真横から発せられた。
「くっ!?」
烈が咄嗟に剣でガードすると、その剣の上から鉄の拳が叩き込まれる。
折角持ち直したにもかかわらず、烈は馬上から叩き落されることになってしまった。
「旦那!?」
モーガンが慌てて下馬して駆け寄ってきた。それを烈は手で制して、目の前の敵に集中するよう視線で合図を送る。よそ見をしていてはこの男たちに一瞬で命を刈り取られるかもしれないからだ。
烈を横合いから吹っ飛ばした男---『鉄甲鬼』ゼスは舌なめずりする勢いで、口角を吊り上げて、にやりと笑った。
「久しぶりだなあ。レツぅ」
「やっぱりあんたも来てたんだな。ゼス」
「覚えてくれていて嬉しいぜ? あの日からお前と闘いたくてうずうずしてたんだからよ」
「生憎俺はそんなでもなかったよ。よくここに来るってわかったな?」
「当たり前じゃねえか。お前はお姫様の陣営の要だからな。必ず決定的な場所にいると思ってたぜ? ならあとはそこで待ち構えるだけだろ?」
「買い被りすぎだよ。ミアがここに来ることもあり得た」
「かもな。それでもお前はここにいるって信じてたぜ」
「あまり嬉しくないな......」
軽口を叩きながらも烈は打開の手を探っていた。いくらなんでも『勇者』と『鉄甲鬼』二人を同時に相手するには分が悪すぎた。
しかし、どう考えても切り抜ける方法がない。深く進軍できてしまったことが完全に裏目に出ていた。
死中に活を見出さなければいけないかと覚悟を決めようとしたその時だった。
「旦那。『鉄甲鬼』はあっしに任せてもらいやせんか?」
モーガンが驚きの提案をしてきた。烈は首を横に振らざるを得ない。
「だめだ。あの男とモーガンでは実力が違いすぎる。やり合っても勝てるとは......」
だが、言い終わる前にモーガンは烈をぎろりと睨んだ。
「舐めないでくだせえ。旦那。このモーガン、『不死身の重戦士』の二つ名は伊達じゃねえですわ。勝てないまでも旦那が『勇者』に勝つまでも時間稼ぎくらいできまさあ」
モーガンの言葉に一瞬烈は呆気に取られてぽかんとした。この男、烈がガルランディに勝つと疑っていないのだ。
烈はぷふっと吹き出した。
「俺、あんなのに必ず勝てるとは限らないんだけど?」
「勝ちまさあ」
「どうしてそこまで信用できるんだ?」
「殿下からの頼みだからでさあ」
烈は再度ぽかんとした。まさかそのような答えが返ってくると思っていなかったからだ。
「ミアの頼みだと俺は負けないのか?」
「そりゃそうでしょうよ。旦那は殿下の依頼なら必ず成し遂げる。見てりゃ分かります。結局のところ儂は勝ち馬に乗ってるだけなんでさぁ」
モーガンの率直な物言いに烈は肩の力が抜けた。たしかに烈自身、ミアの頼みなら何でもできる気がしているのだ。
「そうだな。なら少しだけ相手を頼めるか? 『勇者』を倒したらすぐに加勢するから」
「早く来てくださいよ? じゃないと儂が倒してしまうかもしれないんでね」
二人で笑い合いながら、それぞれの相手に一歩進み出る。その様子にゼスは露骨にがっかりしたように顔を歪めた。
「おい? 俺の相手はこのおっさんかよ? ずいぶん舐めてくれるじゃねえか」
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