異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

文字の大きさ
上 下
128 / 144

『剛力』

しおりを挟む
「グオォォォォォ!」

 巨体が猛然と突っ込んでくる。ラングはそれを落ち着いて躱した。だが、その巨体が持っている大鉈までは躱しきることができない。

「ちっ!」

 ラングは迫りくる大鉈を剣で受け止めた。だがけた違いのパワーがラングを襲い、体ごと吹っ飛ばされた。

「ちょ! ちょっと待ちってぇ!」

 吹っ飛ばされた先にはフィズがいた。突然迫ってくるラングの体を受け止めようとワタワタしたが、結局二人してもんどりうって地面に倒れ込む羽目になってしまった。

 二人ともふらふらと頭を揺らしながら立ち上がった。そして、ラングが忌々し気に毒づいた。

「くそっ! なんて硬い奴だ。あんな半裸のくせに手にはめた鉄甲だけでこっちの攻撃のほとんどを防ぎやがる」

 噂の巨体---『暁の鷲』のボンズはぎろりとこちらを振り返った。

 その様子を見ながら、フィズが慌てた。

「やべえ! また来るっすよ! ラングさん! 俺の矢もあの筋肉の鎧で全然効かねえしどうしする!?」

「つってもあの突進を止めなきゃな。あいつさっきから鉄甲目の前でクロスさせて、突っ込んできて、通り過ぎそうになったら大鉈を振るうしかやってないぞ?」

「シンプルだけど、厄介ですよね~。技なんて力さえあればいらないっていう感じで」

「まさにな。お前、その弓であいつの急所とか狙えないのかよ?」

「まっさか~そんなん出来るわけないじゃないっすか! あんな動いてるもの正確にあてるなんて。俺なんて人よりちょっと手数が多いくらいっすよ?」

「あ~なるほど~」

 事実、ボンズの体はフィズの矢でハリネズミのようになっていた。しかし、どれも分厚い筋肉に阻まれて致命傷にはなっていない。それどころか動きもそこまで鈍っていなかった。

「ルルがいりゃあな~」

 ラングは今頃陣の反対側で戦う仲間に思いを馳せた。彼女がいればこの相手にそこまで苦戦することはなかっただろう。

 その様子を見たボンズはにやりと口を歪ませた。

「でぃっしっし! 小男は弱いな」

「あ~ん?」

 ラングは気だるげに肩をぽきぽきと鳴らしながら返事をした。

「でぃっしっし! お前ら弱いけど俺相手にだいぶ粘ったから、俺の名前教えてやる。俺はボンズ。『暁の鷲』の第四部隊隊長『剛力』ボンズだ。よく覚えておけよ」

「あ~どうもどうも。俺はラングだ、覚えなくていいぜ?」

「でぃっしっし! 安心しろ。 ボンズは弱い男の名前覚えない。お前のこともすぐに忘れる」

「ありがたいね。俺も名前を覚えてもらうなら綺麗なおねえさんがいい」

「でぃっしっし! お前弱いから誰にも覚えられない。可哀そう」

「てめぇ......」

 相手の嘲笑に苛つきながらも、ラングは内心苦笑していた。

(名前を覚えない......か......俺みたいなもんにはそっちの方が都合いいんだが......まさかこいつそのことに気付いて?)

 ラングははっとして、ボンズのことを見た。片手の指でこちらを差し、もう片方の手で口元を隠して笑っている。

 どうやらラングのに気付いたとかではなさそうである。

(俺は何を考えているやら......)

 ラングは「はぁっ」と自分が大分ペースを乱されていることを察してため息をついた。

 それから肩をぐりぐりと回して、剣を肩に担いだ。

「おい、フィズ」

「どうした!? ラングさん!」

「お前、当たらなくてもいいから足を狙え」

「だけど、それだといくら撃っても致命傷にならないぜ?」

「ああ、だが大丈夫だ。動きを鈍らせれればいい」

 ラングは剣をひゅっと振って、剣先をボンズに向けた。

「後は俺がやる」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...