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『剛力』
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「グオォォォォォ!」
巨体が猛然と突っ込んでくる。ラングはそれを落ち着いて躱した。だが、その巨体が持っている大鉈までは躱しきることができない。
「ちっ!」
ラングは迫りくる大鉈を剣で受け止めた。だがけた違いのパワーがラングを襲い、体ごと吹っ飛ばされた。
「ちょ! ちょっと待ちってぇ!」
吹っ飛ばされた先にはフィズがいた。突然迫ってくるラングの体を受け止めようとワタワタしたが、結局二人してもんどりうって地面に倒れ込む羽目になってしまった。
二人ともふらふらと頭を揺らしながら立ち上がった。そして、ラングが忌々し気に毒づいた。
「くそっ! なんて硬い奴だ。あんな半裸のくせに手にはめた鉄甲だけでこっちの攻撃のほとんどを防ぎやがる」
噂の巨体---『暁の鷲』のボンズはぎろりとこちらを振り返った。
その様子を見ながら、フィズが慌てた。
「やべえ! また来るっすよ! ラングさん! 俺の矢もあの筋肉の鎧で全然効かねえしどうしする!?」
「つってもあの突進を止めなきゃな。あいつさっきから鉄甲目の前でクロスさせて、突っ込んできて、通り過ぎそうになったら大鉈を振るうしかやってないぞ?」
「シンプルだけど、厄介ですよね~。技なんて力さえあればいらないっていう感じで」
「まさにな。お前、その弓であいつの急所とか狙えないのかよ?」
「まっさか~そんなん出来るわけないじゃないっすか! あんな動いてるもの正確にあてるなんて。俺なんて人よりちょっと手数が多いくらいっすよ?」
「あ~なるほど~」
事実、ボンズの体はフィズの矢でハリネズミのようになっていた。しかし、どれも分厚い筋肉に阻まれて致命傷にはなっていない。それどころか動きもそこまで鈍っていなかった。
「ルルがいりゃあな~」
ラングは今頃陣の反対側で戦う仲間に思いを馳せた。彼女がいればこの相手にそこまで苦戦することはなかっただろう。
その様子を見たボンズはにやりと口を歪ませた。
「でぃっしっし! 小男は弱いな」
「あ~ん?」
ラングは気だるげに肩をぽきぽきと鳴らしながら返事をした。
「でぃっしっし! お前ら弱いけど俺相手にだいぶ粘ったから、俺の名前教えてやる。俺はボンズ。『暁の鷲』の第四部隊隊長『剛力』ボンズだ。よく覚えておけよ」
「あ~どうもどうも。俺はラングだ、覚えなくていいぜ?」
「でぃっしっし! 安心しろ。 ボンズは弱い男の名前覚えない。お前のこともすぐに忘れる」
「ありがたいね。俺も名前を覚えてもらうなら綺麗なおねえさんがいい」
「でぃっしっし! お前弱いから誰にも覚えられない。可哀そう」
「てめぇ......」
相手の嘲笑に苛つきながらも、ラングは内心苦笑していた。
(名前を覚えない......か......俺みたいなもんにはそっちの方が都合いいんだが......まさかこいつそのことに気付いて?)
ラングははっとして、ボンズのことを見た。片手の指でこちらを差し、もう片方の手で口元を隠して笑っている。
どうやらラングの正体に気付いたとかではなさそうである。
(俺は何を考えているやら......)
ラングは「はぁっ」と自分が大分ペースを乱されていることを察してため息をついた。
それから肩をぐりぐりと回して、剣を肩に担いだ。
「おい、フィズ」
「どうした!? ラングさん!」
「お前、当たらなくてもいいから足を狙え」
「だけど、それだといくら撃っても致命傷にならないぜ?」
「ああ、だが大丈夫だ。動きを鈍らせれればいい」
ラングは剣をひゅっと振って、剣先をボンズに向けた。
「後は俺がやる」
巨体が猛然と突っ込んでくる。ラングはそれを落ち着いて躱した。だが、その巨体が持っている大鉈までは躱しきることができない。
「ちっ!」
ラングは迫りくる大鉈を剣で受け止めた。だがけた違いのパワーがラングを襲い、体ごと吹っ飛ばされた。
「ちょ! ちょっと待ちってぇ!」
吹っ飛ばされた先にはフィズがいた。突然迫ってくるラングの体を受け止めようとワタワタしたが、結局二人してもんどりうって地面に倒れ込む羽目になってしまった。
二人ともふらふらと頭を揺らしながら立ち上がった。そして、ラングが忌々し気に毒づいた。
「くそっ! なんて硬い奴だ。あんな半裸のくせに手にはめた鉄甲だけでこっちの攻撃のほとんどを防ぎやがる」
噂の巨体---『暁の鷲』のボンズはぎろりとこちらを振り返った。
その様子を見ながら、フィズが慌てた。
「やべえ! また来るっすよ! ラングさん! 俺の矢もあの筋肉の鎧で全然効かねえしどうしする!?」
「つってもあの突進を止めなきゃな。あいつさっきから鉄甲目の前でクロスさせて、突っ込んできて、通り過ぎそうになったら大鉈を振るうしかやってないぞ?」
「シンプルだけど、厄介ですよね~。技なんて力さえあればいらないっていう感じで」
「まさにな。お前、その弓であいつの急所とか狙えないのかよ?」
「まっさか~そんなん出来るわけないじゃないっすか! あんな動いてるもの正確にあてるなんて。俺なんて人よりちょっと手数が多いくらいっすよ?」
「あ~なるほど~」
事実、ボンズの体はフィズの矢でハリネズミのようになっていた。しかし、どれも分厚い筋肉に阻まれて致命傷にはなっていない。それどころか動きもそこまで鈍っていなかった。
「ルルがいりゃあな~」
ラングは今頃陣の反対側で戦う仲間に思いを馳せた。彼女がいればこの相手にそこまで苦戦することはなかっただろう。
その様子を見たボンズはにやりと口を歪ませた。
「でぃっしっし! 小男は弱いな」
「あ~ん?」
ラングは気だるげに肩をぽきぽきと鳴らしながら返事をした。
「でぃっしっし! お前ら弱いけど俺相手にだいぶ粘ったから、俺の名前教えてやる。俺はボンズ。『暁の鷲』の第四部隊隊長『剛力』ボンズだ。よく覚えておけよ」
「あ~どうもどうも。俺はラングだ、覚えなくていいぜ?」
「でぃっしっし! 安心しろ。 ボンズは弱い男の名前覚えない。お前のこともすぐに忘れる」
「ありがたいね。俺も名前を覚えてもらうなら綺麗なおねえさんがいい」
「でぃっしっし! お前弱いから誰にも覚えられない。可哀そう」
「てめぇ......」
相手の嘲笑に苛つきながらも、ラングは内心苦笑していた。
(名前を覚えない......か......俺みたいなもんにはそっちの方が都合いいんだが......まさかこいつそのことに気付いて?)
ラングははっとして、ボンズのことを見た。片手の指でこちらを差し、もう片方の手で口元を隠して笑っている。
どうやらラングの正体に気付いたとかではなさそうである。
(俺は何を考えているやら......)
ラングは「はぁっ」と自分が大分ペースを乱されていることを察してため息をついた。
それから肩をぐりぐりと回して、剣を肩に担いだ。
「おい、フィズ」
「どうした!? ラングさん!」
「お前、当たらなくてもいいから足を狙え」
「だけど、それだといくら撃っても致命傷にならないぜ?」
「ああ、だが大丈夫だ。動きを鈍らせれればいい」
ラングは剣をひゅっと振って、剣先をボンズに向けた。
「後は俺がやる」
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