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ミア対レンドーン
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「女神エリンの御心を理解せぬものよ! そこをのけい!」
レンドーンが力任せに大斧を横薙ぎに振るった。びゅおんっと唸りをあげて刃がミアの胴体に迫る。
しかし、ミアは特に慌てることもなく、大剣で大斧を受け止めた。
どかんっとまるで爆発音のような音がして、一帯にいた兵士たちが自分たちの戦闘も忘れてその一騎打ちに見入った。
「ぐぬぬぬ。馬鹿な。こともなげに我が聖戦の斧を止めるなど」
「腰も何も入っていない腕力だけの技を受け止めること等なぞ造作もないな。それより、いいのか? 今度はこっちから行くぞ?」
「なに! うお!?」
せり合いの体勢からミアが体ごとレンドーンに向かって体当たりを仕掛ける。
それだけでレンドーンは後ろに大きくたたらを踏んでしまうことになった。
「ほら? どんどん行くぞ?」
ミアは大剣とは思えない速度で、何度もその刃を振るった。ミアの大剣がかすれるたびにレンドーンの鎧は傷つき、砕け、吹っ飛ばされていった。
「ぐっ! なめるなよ!」
レンドーンは大剣を受け止め無理やり押し返すと、ミアのことを真っ二つにするつもりで大斧を大上段に構え、縦斬りにしようとまっすぐ振り下ろした。
だがミアには大振りの隙だらけの技である。半身ですっと大斧を避けて、そのままレンドーンの懐に潜り込むように前進した。
ほとんど密着体勢である。こうなるとミアの大剣も刃の根の方で斬らなければならず、意味がないはずだった。
だが、ミアはレンドーンに密着した状態でさらに体の中心線を軸として、横に一回転した。
(暴虎の爪!)
大剣が力任せに振り抜かられ、大斧の上からでもお構いなしにレンドーンを削っていった。
常識外のパワーを持つミアの技を受けて、大斧を手放さなかったレンドーンは流石である。
だが辛うじてミアの大剣が体に致命傷になることを防いだが、あまりの衝撃に吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面に転がる羽目になった。
斬られた部分から血がぼたぼたと垂れていた。致命傷ではないが立ち上がることができない。ミアとレンドーンの間に、戦士としての技量に大きな差があることは明らかであった。
「おのれ、女神エリンの名にこのような所で泥を塗ってたまるか」
ぐぐぐっと膝を押さえながら、レンドーンは立ち上がった。
「我が名は神聖騎士団第二軍軍団長『水牛』レンドーンである! 敗北も後退も許されんのだ!」
レンドーンは再度横薙ぎに大斧を振るうために力を溜め始めた。決死の一撃を叩き込むつもりである。
戦士としての覚悟を決めたレンドーンの気持ちを察し、ミアも王族としてでなく、司令官としてでもなく、ただ一介の兵士に戻った気持ちになった。
「よかろう。ドイエベルン王国王女ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルトだ。貴公の覚悟を捻りつぶした上で私は先に進ませてもらう」
ミアもレンドーンと同じように剣を横薙ぎに振るえるように力を溜め始めた。
「剣だけが取り柄の愚かな王女よ。せめてあの世で女神エリンに直接許しを請うがいい」
「神に祈るのはとうにやめたよ。いつも助けてもらえなかったのでね」
「信仰までも捨てたかよ。愚か者め」
軽口の応酬の後、二人は無言となった。あとは駆け引きのみである。
周りからは戦士たちが殺し合う怒号が聞こえるのに、二人の周りだけは無音である。
次の一撃で決着する。周りにいた誰もがそのことを予感してごくりと唾を飲んだ。
しかし大方の予想を裏切り、それが実現することはなかった。神聖騎士団の幹部たちが果敢にも二人の間に割り込んだのである。
「貴様ら! 何をしておるか! のけ! 貴様らではこやつの相手にもならん」
レンドーンの怒号にも彼らは怯むことなく、軍団長を守るために剣を抜き、ミアに突き付けた。
「レンドーン様。ここはお下がりください。再戦の機会は必ずご用意されますとも」
幹部の一人が背中越しにレンドーンに言った。
「ベルンに行きましょう。さすれば必ず名誉挽回のチャンスが巡ってきます。生きてこそです」
レンドーンは悔しそうにした。だが幹部の言い分もわかる。ゆえに彼は決断した。
「全軍、乱戦を解き、このままベルンに向かう! 用意しろ!」
レンドーンは肩で息をしながら馬に乗り、ミアの方をちらりと見た。そして何か言うことなく、憎悪の眼だけを向けて、自陣の奥に下がっていった。
レンドーンが力任せに大斧を横薙ぎに振るった。びゅおんっと唸りをあげて刃がミアの胴体に迫る。
しかし、ミアは特に慌てることもなく、大剣で大斧を受け止めた。
どかんっとまるで爆発音のような音がして、一帯にいた兵士たちが自分たちの戦闘も忘れてその一騎打ちに見入った。
「ぐぬぬぬ。馬鹿な。こともなげに我が聖戦の斧を止めるなど」
「腰も何も入っていない腕力だけの技を受け止めること等なぞ造作もないな。それより、いいのか? 今度はこっちから行くぞ?」
「なに! うお!?」
せり合いの体勢からミアが体ごとレンドーンに向かって体当たりを仕掛ける。
それだけでレンドーンは後ろに大きくたたらを踏んでしまうことになった。
「ほら? どんどん行くぞ?」
ミアは大剣とは思えない速度で、何度もその刃を振るった。ミアの大剣がかすれるたびにレンドーンの鎧は傷つき、砕け、吹っ飛ばされていった。
「ぐっ! なめるなよ!」
レンドーンは大剣を受け止め無理やり押し返すと、ミアのことを真っ二つにするつもりで大斧を大上段に構え、縦斬りにしようとまっすぐ振り下ろした。
だがミアには大振りの隙だらけの技である。半身ですっと大斧を避けて、そのままレンドーンの懐に潜り込むように前進した。
ほとんど密着体勢である。こうなるとミアの大剣も刃の根の方で斬らなければならず、意味がないはずだった。
だが、ミアはレンドーンに密着した状態でさらに体の中心線を軸として、横に一回転した。
(暴虎の爪!)
大剣が力任せに振り抜かられ、大斧の上からでもお構いなしにレンドーンを削っていった。
常識外のパワーを持つミアの技を受けて、大斧を手放さなかったレンドーンは流石である。
だが辛うじてミアの大剣が体に致命傷になることを防いだが、あまりの衝撃に吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面に転がる羽目になった。
斬られた部分から血がぼたぼたと垂れていた。致命傷ではないが立ち上がることができない。ミアとレンドーンの間に、戦士としての技量に大きな差があることは明らかであった。
「おのれ、女神エリンの名にこのような所で泥を塗ってたまるか」
ぐぐぐっと膝を押さえながら、レンドーンは立ち上がった。
「我が名は神聖騎士団第二軍軍団長『水牛』レンドーンである! 敗北も後退も許されんのだ!」
レンドーンは再度横薙ぎに大斧を振るうために力を溜め始めた。決死の一撃を叩き込むつもりである。
戦士としての覚悟を決めたレンドーンの気持ちを察し、ミアも王族としてでなく、司令官としてでもなく、ただ一介の兵士に戻った気持ちになった。
「よかろう。ドイエベルン王国王女ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルトだ。貴公の覚悟を捻りつぶした上で私は先に進ませてもらう」
ミアもレンドーンと同じように剣を横薙ぎに振るえるように力を溜め始めた。
「剣だけが取り柄の愚かな王女よ。せめてあの世で女神エリンに直接許しを請うがいい」
「神に祈るのはとうにやめたよ。いつも助けてもらえなかったのでね」
「信仰までも捨てたかよ。愚か者め」
軽口の応酬の後、二人は無言となった。あとは駆け引きのみである。
周りからは戦士たちが殺し合う怒号が聞こえるのに、二人の周りだけは無音である。
次の一撃で決着する。周りにいた誰もがそのことを予感してごくりと唾を飲んだ。
しかし大方の予想を裏切り、それが実現することはなかった。神聖騎士団の幹部たちが果敢にも二人の間に割り込んだのである。
「貴様ら! 何をしておるか! のけ! 貴様らではこやつの相手にもならん」
レンドーンの怒号にも彼らは怯むことなく、軍団長を守るために剣を抜き、ミアに突き付けた。
「レンドーン様。ここはお下がりください。再戦の機会は必ずご用意されますとも」
幹部の一人が背中越しにレンドーンに言った。
「ベルンに行きましょう。さすれば必ず名誉挽回のチャンスが巡ってきます。生きてこそです」
レンドーンは悔しそうにした。だが幹部の言い分もわかる。ゆえに彼は決断した。
「全軍、乱戦を解き、このままベルンに向かう! 用意しろ!」
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