異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

文字の大きさ
上 下
122 / 144

連合軍の会議

しおりを挟む
「ちっ! なんでてめえらが来るんだよ......」

 『暁の鷲』第八軍団軍団長ゼスは不機嫌さを隠そうともしなかった。彼の苛立ちは目の前で座る二人に向けられたものだった。

「あら? それはそうでしょう? あのゼスが負けたって聞いたらどんな惨めな面しているのか見に行かないわけにはいかないじゃない」

「アンナ......てめえ......」

 アンナと呼ばれたショートの黒髪の女性は、ゼスの射殺しそうな視線を受けても、平然と微笑みながら、片方の手で紫煙をくゆらせていた。ふーっと煙を吐く姿は艶めかしく、およそ陣中に相応しくない軽装備の下に着こみワンピースのスリットからのぞく生足は、世の男性の大半を虜にするだろう。

 だがその色気が効かない数少ない例外がゼスである。

 席をがたりと立って詰め寄ろうとするも、それを大きな手がせき止めた。

「どけよ。ボンズ」

 ボンズと呼ばれたのは大柄な男である。ゼスも背が高いが、この男はけた違いであった。一度立つと天井に頭が着いてしまう。鎧も合うサイズがないのであろう。上半身はほぼ裸に近い状態で、急所を守る防具を着込んでいるだけであった。

 その男が体格に見合った大きな手の平で、ゼスとアンナの間に手を差し込み、ゼスの動きを押しとどめていた。

 二人とも『暁の鷲』の部隊長である。

「でぃっしっし! ゼス負けた。俺もゼスの負け顔見たかった」

「いい度胸じゃねえか。二人とも表出ろよ。第四隊も第七隊も飲み込んでやるよ」

「あなたに? できるの?」

「でぃっしっし! ゼスは弱っちいから無理」

「殺す......」

 本来仲間であるはずの彼らの雰囲気はどんどん剣呑なものになっていた。

 部隊長たちが今にも殺し合いをはじめそうで、外からのぞき見ていた団員たちははらはらと事の成り行きを見守っていたのだが、意外にもそれを治めたのは団の外部の人間だった。

「おお!? どうした? なにゆえ仲間内でそのように殺気を出し合っておる! 女神エリンも嘆いておるぞ!」

 団員たちを押しのけて、ずかずかとゼスの天幕に入ってきたのは、ボンズに勝るとも劣らない大男であった。だが、ボンズと違い白と金の装飾をあしらった鎧を着こみ、白いマントを颯爽とたなびかせていた。

 明らかに、『暁の鷲』とは違う正規兵、しかも同時に聖職者の雰囲気を漂わせていた。

 大男は快活に笑いながら、どっこいせと地面に座った。

「どれ? 儂がそなたらの悩みを聞いてやろう。なに心配するな。これでも司祭の資格をもっておる。悩み事を聞くのはお手の物だ。それで? アンナ殿の気持ちはどうなんだ?」

「レンドーン。気持ちというのはどういうこと?」

 アンナは何を聞かれているのか分からず首を傾げた。

 気持ちといえばゼスをどうやって排除しようかしかないのだが......

「決まっておろう。ゼス殿とボンズ殿どちらを選ぶのかということだ。男が二人、女が一人、とくれば痴情のもつれと相場が決まっておる。大方二人に迫られたアンナ殿にどちらかを選ばせようと強いていたのであろう。だがこういうことはもっと時間をかけてゆっくりとだな......うん?」

 饒舌に語っていたところで、レンドーンと呼ばれた男は『暁の鷲』の三人の顔がうげっと気持ち悪そうになっていることに気付いた。全員何を想像したのか、今にも吐き出しそうである。

「う~む。どうやら違ったか?」

 頭をポリポリと掻いて、レンドーンは三人に謝罪した。神聖騎士団『水牛』レンドーンと言えば、出陣しただけで各国の軍も逃げ出すと言われるほどの名将なのだが、今はそんな雰囲気もない。

「当たり前だ......」

 ゼスは頭を抱えながら、よろよろと先ほどまで座っていた椅子に座り直した。

「失礼する」

 その時さらに来客があった。その男が入ってきた瞬間『暁の鷲』の団長は一気に警戒態勢に入った。

 それもそのはず、その男の纏う雰囲気は明らかに他と違った。押し潰されそうな圧を全身から発している。

 蒼の鎧を着こみ、長剣を腰に佩く姿は、彼がひとかどならぬ戦士であることを証明していた。

「おお、ガルランディ殿も来たか!」

 そんな戦士に臆する様子は全くなく、レンドーンは声をかけ、自分の隣に座るように促した。ガルランディもそれに文句を言うことなく、黙って地面に座した。

 彼こそ、ポーレン公国にその人ありと言われ、ミアたちが今もっとも警戒する『勇者』ガルランディである。

「さて、全員そろったことだ。そろそろ今後の動きを決めたいと思ってな」

 レンドーンがぱんっと手の平を叩いて自分に注目させた。

「今後の動き? 私たちはハイデッカー公爵が麗しの姫君を倒すまでこの城を包囲し続けるんじゃないの?」

「無論だ。だがこのまま何もしないのも兵の士気にかかわる。特にお主たちはそうであろう?」

 話を振られた『暁の鷲』の部隊長たちは苦笑いした。確かに彼らは我慢が得意ではない。
 
「それはそうだが、なら御三家とやらの援軍に行くか?」

 ゼスの目的は烈である。この前の雪辱に燃えており、それ以外の戦に今は興味ないのだが、レンドーンは首を横に振った。

「いや、今我らを遠くで包囲している周りの公爵家の兵を削ろうと思う」

「ほう?」

「ミッテラン公爵はいい領主のようだ。自領の兵がみすみすやられていくのを黙っていることはできないだろう。城から出てきたところを叩き、異変に気付いたカイエン公も叩いて、ドイエベルンの南一帯を手に入れてしまおうではないか」

「随分血なまぐさいことを言うのね。聖職者のくせに」

 アンナの言葉にレンドーンは彼女の方を向いてにっこりと笑って言った。

「教皇が攻めよと言われたのだ。ならば我々は信仰の邪魔をするすべてを排除するだけよ」

 顔は笑っているが、目の奥が笑っていない。狂信者とまで言われる神聖騎士団の一片を垣間見た気がして、アンナはぞくりとした。

 だがこれから具体的な攻め方をしようというときに、それは唐突に遮られることになった。

「注進! 注進!」

 ゼスの天幕に神聖騎士団の伝令が入ってきた。

 なにやら随分と慌てているようだ。

「どうした? 何があった?」

 レンドーンがすかさず事情を聞くと、伝令は息せき切って叫んだ。

「北より兵三千! こちらへ向かってきております。従えるは王女ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルトのようです。ご指示を!」

 その場にいた全員がぎょっとした。しかし、その中でゼスだけは目的の人物が来たと、にいっと獣の顔で笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...