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フランツの憂鬱
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「しくじったな。まさかカイエン公がこっちに残るとは......」
ベルンでの活動をルードブルクとレームに任せ、フランツは予定通り『紫鷹団』を率いて、やる気もないミアの討伐に出向いていた。
本陣にて、指揮官用の椅子に座り、肘をつきながら目の前の光景にため息をついている。
目の前には『雷迅衆』の証である、雷と紫陽花の団旗がなびいていた。
「おや? さしもの『炎鷹』もドイエベルン最強の男には逃げ腰ですか?」
そんなフランツを煽るように、隣で起立しながら話しかけた男がいた。フランツも若いが、この男も若い。騎士というには線が細く見えるが、これでも『紫鷹団』の副団長---ジェイク・キーランであった。
若さの先行しがちなフランツのブレーキ役として、団の副団長に抜擢されただけあって、常に冷静な判断をすることで定評のある人である。
「馬鹿を言え。まともにやったら負けんよ」
フランツはむっとした表情をしながらも、叱責することなく返答した。
「随分はっきりと言い切るのですね。バウワー近衛総司令が侮って負けたのを知りませんか?」
「あのバカと俺を一緒にするな。カイエン公と1対1をするならともかく、『雷迅衆』と『紫鷹団』の戦いなら間違いなくうちが勝つ」
「ほう? なぜそう言い切るのですか?」
「兵の戦術理解度の差だ。『雷迅衆』は個人一人一人は恐ろしく強い。うちの団の幹部がようやく『雷迅衆』の下っ端といい勝負ができる程度だろう。だが陣を組めば集団の強さが物をいう。突撃は脅威だがそれをいなすこともうちの団員なら指示しなくてもやれる。武術大会をしようというんじゃないんだ。戦場ならうちが勝つだろう」
「ですが、相手にはミントレア子爵がいますよ? あの方はそういったものも熟知しています」
「かもな。だが、結局のところ相手の勝ち筋はカイエン公が先頭に立つ突撃だけだ。その瞬間を見誤らなければ負ける道理がない」
「ははあ。なるほどですな」
ジェイクは素直に感心した。激情家の一面が知られがちなフランツだが、王国の主要騎士団を率いるに相応しい確かな戦術眼を持っているのだ。この人に負けるわけないと言われれば確かに負ける気がしなかった。
「ではしくじったとはどういうことです? こちらが有利であれば戦場をいかようにもコントロールできるでしょう?」
ジェイクに言われて、フランツは重くため息をついた。
「普通ならな。だがカイエン公だと嚙み合いすぎるのだ」
「というと?」
「元々『紫鷹団』も攻撃が好きな騎士団だ。戦術もどこか相手を打ち倒すことによりがちだ。相手が『鉄百合団』なら我々が程よく戦っても実力が拮抗している上に、得意な戦術も真逆だからそこまで被害はないのだが......」
「なるほど。お互い攻撃し合って被害が甚大になるということですね」
後を引き取ったジェイクにフランツはこくりと頷いた。
「ああ、心苦しいが殿下にロザリーをどうにかしてもらうまで兵を減らすわけにはいかん。だが相手はあのカイエン公だ。いつしびれを切らして突撃してくるかわからん」
ははっとジェイクは乾いた笑い声をあげた。確かにあのカイエン公が我慢をしている姿など想像しにくかった。
フランツもジェイクもいまだ沈黙を守り続ける『雷迅衆』を不気味に見ながら、なるべく大人しくしていくれと祈ることしかできなかった。
ベルンでの活動をルードブルクとレームに任せ、フランツは予定通り『紫鷹団』を率いて、やる気もないミアの討伐に出向いていた。
本陣にて、指揮官用の椅子に座り、肘をつきながら目の前の光景にため息をついている。
目の前には『雷迅衆』の証である、雷と紫陽花の団旗がなびいていた。
「おや? さしもの『炎鷹』もドイエベルン最強の男には逃げ腰ですか?」
そんなフランツを煽るように、隣で起立しながら話しかけた男がいた。フランツも若いが、この男も若い。騎士というには線が細く見えるが、これでも『紫鷹団』の副団長---ジェイク・キーランであった。
若さの先行しがちなフランツのブレーキ役として、団の副団長に抜擢されただけあって、常に冷静な判断をすることで定評のある人である。
「馬鹿を言え。まともにやったら負けんよ」
フランツはむっとした表情をしながらも、叱責することなく返答した。
「随分はっきりと言い切るのですね。バウワー近衛総司令が侮って負けたのを知りませんか?」
「あのバカと俺を一緒にするな。カイエン公と1対1をするならともかく、『雷迅衆』と『紫鷹団』の戦いなら間違いなくうちが勝つ」
「ほう? なぜそう言い切るのですか?」
「兵の戦術理解度の差だ。『雷迅衆』は個人一人一人は恐ろしく強い。うちの団の幹部がようやく『雷迅衆』の下っ端といい勝負ができる程度だろう。だが陣を組めば集団の強さが物をいう。突撃は脅威だがそれをいなすこともうちの団員なら指示しなくてもやれる。武術大会をしようというんじゃないんだ。戦場ならうちが勝つだろう」
「ですが、相手にはミントレア子爵がいますよ? あの方はそういったものも熟知しています」
「かもな。だが、結局のところ相手の勝ち筋はカイエン公が先頭に立つ突撃だけだ。その瞬間を見誤らなければ負ける道理がない」
「ははあ。なるほどですな」
ジェイクは素直に感心した。激情家の一面が知られがちなフランツだが、王国の主要騎士団を率いるに相応しい確かな戦術眼を持っているのだ。この人に負けるわけないと言われれば確かに負ける気がしなかった。
「ではしくじったとはどういうことです? こちらが有利であれば戦場をいかようにもコントロールできるでしょう?」
ジェイクに言われて、フランツは重くため息をついた。
「普通ならな。だがカイエン公だと嚙み合いすぎるのだ」
「というと?」
「元々『紫鷹団』も攻撃が好きな騎士団だ。戦術もどこか相手を打ち倒すことによりがちだ。相手が『鉄百合団』なら我々が程よく戦っても実力が拮抗している上に、得意な戦術も真逆だからそこまで被害はないのだが......」
「なるほど。お互い攻撃し合って被害が甚大になるということですね」
後を引き取ったジェイクにフランツはこくりと頷いた。
「ああ、心苦しいが殿下にロザリーをどうにかしてもらうまで兵を減らすわけにはいかん。だが相手はあのカイエン公だ。いつしびれを切らして突撃してくるかわからん」
ははっとジェイクは乾いた笑い声をあげた。確かにあのカイエン公が我慢をしている姿など想像しにくかった。
フランツもジェイクもいまだ沈黙を守り続ける『雷迅衆』を不気味に見ながら、なるべく大人しくしていくれと祈ることしかできなかった。
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