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御三家

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 烈たちが今後の方針を決めていたころ、時を同じくして、ミアの陣営から南東に50km程度のところで噂の御三家もまた、今後のことについて協議をしていた。約二万の軍勢の迫力は圧倒的であり、兵士たちは公爵家付でもあるため、規律もしっかりしたものであったが、どこか緊張感に欠けているところもあった。

 天幕の隙間からその様子を伺っていた、中肉中背の男が愚痴を漏らした。

「いかんな。どうにも士気が上がらん、相手は殿下やカイエン公爵を始めとした歴戦の猛者であるというのに......」

 男の名はタグワイネ・ラートン男爵という。ハイデッカー公の御三家の一人であり、公爵の遠縁にあたる人であった。茶髪に口ひげと、今年40に届こうかという年齢になるはずなのだが、元来の童顔のせいか、若く見られることが多かった。だが、中身は先代ハイデッカー公爵の副将と紫鷹団の副将を同時に務めた武将であり、派手さはなくとも堅実な用兵で数々の武勲を立てた男でもあった。

「ほっほっほっ。仕方あるまいて。この兵力だけでなく、紫鷹団にも控えているということだからのう。兵が弛緩するのも無理はない。我々にできるのは兵力を維持したまま、当主に届けることじゃて」

 ラートン男爵に答えたのは、白髪の老人であった。杖を持ってはいるが、体を支えるためではなく、齢相応の格好をしているだけなのだろう。それが証拠にがっしりとした鎧を身に着けて平然と笑っている。彼もまた御三家の一人、ドマンタ・ダッフワーズ侯爵であった。先代公爵の大叔父に当たる人物であり、鷹揚な性格と、天才的な後方支援で人望も厚いご意見番であった。

「のう? ボーギャン公?」

 話題を振られたこの中でもっとも体つきが大きい男---オズワルド・ボーギャン公爵は頷いた。

「しかり。そもそも殿下に率いられている時点で、彼の軍勢など恐れるるに足らず。我らは公爵家の一員として堂々と進軍すればよい」

 明らかさまな王族批判をしたボーギャンは先代公爵の弟であった。当時から血筋はハイデッカー家の方が王族より優れていると公言してはばからない男である。この発言にはラートンも眉をひそめたが、いまさら言っても無駄とそれについて追及することはなかった。代わりに今のことについて話をすることにした。

「しかし、今になって当主が殿下に敵対することになろうとは。いくらミッテラン公のことがあるとはいえ」

 ラートンが頭を抱えると、ダッフワーズも大きくため息をついた。

「確かにの。当主は殿下を慕っておった。今の進軍も恐らく本意じゃなかろうて」

「ふんっ! くだらない!」

 二人の意見をボーギャンは鼻息荒く一蹴した。

「むしろ当主はようやく目覚めたかという気がしてならぬわ! これまで散々あの女に飼いならされたかのように尻尾を振りおって、やきもきしていたわ。さっさと叩き潰してやるのが今後のためというものよ」

「ボーギャン公! 不敬ですぞ!」

 ラートンが流石にと窘めると、ボーギャンはそっぽ向けて、のしのしと天幕を出て行ってしまった。ラートンはまた「はあっ」とため息をついた。

「申し訳ありませぬ。ダッフワーズ候。お見苦しい所を」

「なんのなんの。こうなる気はしとったわい」

 ほっほっほと笑うダッフワーズを見て、ラートンは少し心を落ち着かせることができた。

「だがこのままでは二万の軍勢が機能しませぬ。どうにか三人だけでも意思を一つにしないと......」

「あるいはそれが狙いかもしれんぞ?」

「え?」

 ラートンが聞き返すが、老将はただ鷹揚に笑うのみだった。
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