106 / 144
大剣の錆落とし
しおりを挟む
ミアの元には100名の雷迅衆が集められた。ドイエベルン王国最強の部隊である雷迅衆の中でも、さらに武力に秀でたものたちが今この場に集まり、ミアの命令を待っていた。先頭にはミントレアもいる。
(生半可な覚悟ではいかんな。師匠並みの覇気を見せつけねば)
ミアはその達人たちの視線を一身に受け止めて、そして腹の中に落とした。ふーっと一つ息を飲み込む。そして、かっと目を見開いた。
「聞け! 雷迅衆の精鋭たちよ!」
ミアの声が味方の陣営にバリバリと雷鳴のように響き渡る。並の兵士であればそれだけで拳を握り固めてしまいそうな大音声であった。
「諸君らはかつてドイエベルン王国で最強ともてはやされたものたちだ! その武勲の伝説は枚挙にいとまがない! 諸君らが来るというだけで裸足で逃げ出すものがおったほどだ。それが今ではどうだ!」
話の展開に雷神衆はざわつきだした。
「雷迅衆の名前を恐れるものは少なくなり、戦えば勝てるかも思う人間が出始めた。伝説を過去のものだと考える輩が出始めたのだ! あれを見ろ!」
ミアがばっと敵陣で突撃を繰り返すバウワーを指差した。
「あの分不相応にも近衛総司令などという役職を手にした男は、次に雷迅衆とそれを率いる『雷鳴戦鬼』の首級が欲しいらしい。たかだが三倍の兵力差でそれができると思っている! 仲間がやられ、裸の王様になったにもかかわらず、まだ私たちの首が取れると思っているのがいい証拠だ。端的に言おう。舐められているのだ諸君らは!」
ミアの激に熱がこもり、雷迅衆の目は明らかに怒りを伴うものになってきた。
「私は許せない! 誇りある我が国の最強戦力があの程度の、戦略もわからぬ豚に見下されるなど! 諸君らも悔しいだろ! 怒りがこみあげて来るだろう! ならば私に続け!」
ミアが大剣を頭上に掲げ、そして剣先をバウワーに向けて振り下ろした。
「雷迅衆が健在であると世に知らしめよう! 最強であるとわからせてやろう! 私は勝手にやる! 諸君らに誇りがあるのならば私について来い!」
「おおおっ!」っと雷迅衆はミアの激に乗り、声をあげた。たった百人の声が万の戦場全体に響き渡るような気合の声だった。
その声と共にミアと雷迅衆が突撃した。味方は道を開け、敵はその突撃をまともに食らった。
少しづつ乱されていた前線はそれで完全に決壊した。ミアたちはバウワーの陣営をバターのように簡単に切り裂いていく。中でも圧巻だったのは先頭に立つミアであった。
「どけえ! 死にたくなければ道を開けろ! 我が目的はバウワーただ一人! その道を邪魔するならば誰であろうとこの大剣で両断してくれよう!」
殺気のこもったミアの目に敵はたじたじとなった。段々と抵抗する気力もなぎ倒され、進撃にわが身をさらしたくないと道を開けてしまう。少し後ろでフォローに付くミントレアが遅れるほどの勢いだった。
数刻ほどで、ミアはバウワーの姿を視認するまでに至った。ミアは虎の如き大声で吠えた。
「そこか、バウワー! 地位の簒奪者め! 近衛総司令という位が貴様にふさわしくないということを私が手ずから教えてやろう!」
ミアの挑発にバウワーは簡単に乗った。棍棒を振り回して馬をミアの方へをと向ける。
「何を雌猫! 貴様こそ王宮で大人しくしておればいいものを陛下とペルセウス殿に逆らいおって! しつけてくれるわ!」
かくして両者は急速に接近した。二人とも大きな獲物を構えた。先に手を出したのは意外にもバウワーの方であった。
「ほれほれ! どうした! 手も出ないか!」
一合二合と棍棒を左右に振ってミアの剣に叩きつけた。流石の力でミアの剣に棍棒が当たるだけで、轟音が戦場に響き渡った。これはいけるのではとバウワーは段々と嗜虐的な笑みになっていた。
「降参するならば今のうちですぞ? 殿下! 女だてらに戦場に出て、そんな振れもしない大剣など持つからいけないのです! これでわかったでしょう!」
「......」
ミアは黙っていた。その様子を見て、バウワーはこれまでの殿下の武勇は誇張されたものにすぎないと確信した。所詮自分の力には勝てないのだとさらに攻勢を強めた。
「さあ! もう腕も痺れたでしょう! 許してあげますから剣を収めなさい」
その時、ミアは初めて、バウワーの棍棒を止めた。急に抵抗する力が強くなったことでバウワーは戸惑ったような表情を浮かべた。
「な......なんだ!? 急に! びくともしない!」
バウワーは棍棒をいくら押してもミアの大剣は微動だにしなかった。それどころか徐々に押し込まれ始めた。ここへきて初めてバウワーは手加減されていたことを知った。
焦り、押し込まれて仰け反るバウワーをミアは冷たい目で見下ろした。
「もしかしたら、貴様に何かとんでもない能力があり、それを買ってペルセウスは貴様をその地位に就けたのかもと疑ったのだが......どうやら本当にただの捨て駒のようだな」
「な......なんだと!?」
バウワーは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。筋肉が隆起し、額に青筋を浮かべる。それでもミアの大剣はまったく動かなかった。
「時間の無駄だな。貴様のせいで死んだ兵士たちにあの世で詫びてこい」
そう言ってミアは大剣を持つ両手にさらに力を込めた。バウワーは棍棒ごと体を押し付けられ、棍棒はギシギシと悲鳴を上げ始めた。
「こ......こんな!?」
「はあっ!」
ミアの気合と共に、棍棒もバウワーも大剣で両断された。どさりと落ちたバウワーに見向きすることもなく、ミアは大剣を掲げた。
「錆落としにもならなかったな」
後を引き取ったのはミントレアだった。
「殿下が敵総大将を討ち取ったぞ! 我が軍の勝利だ!」
バウワーの棍棒を拾い上げ、高々と勝利を叫ぶと、味方の歓声が戦場に響き渡った。
(生半可な覚悟ではいかんな。師匠並みの覇気を見せつけねば)
ミアはその達人たちの視線を一身に受け止めて、そして腹の中に落とした。ふーっと一つ息を飲み込む。そして、かっと目を見開いた。
「聞け! 雷迅衆の精鋭たちよ!」
ミアの声が味方の陣営にバリバリと雷鳴のように響き渡る。並の兵士であればそれだけで拳を握り固めてしまいそうな大音声であった。
「諸君らはかつてドイエベルン王国で最強ともてはやされたものたちだ! その武勲の伝説は枚挙にいとまがない! 諸君らが来るというだけで裸足で逃げ出すものがおったほどだ。それが今ではどうだ!」
話の展開に雷神衆はざわつきだした。
「雷迅衆の名前を恐れるものは少なくなり、戦えば勝てるかも思う人間が出始めた。伝説を過去のものだと考える輩が出始めたのだ! あれを見ろ!」
ミアがばっと敵陣で突撃を繰り返すバウワーを指差した。
「あの分不相応にも近衛総司令などという役職を手にした男は、次に雷迅衆とそれを率いる『雷鳴戦鬼』の首級が欲しいらしい。たかだが三倍の兵力差でそれができると思っている! 仲間がやられ、裸の王様になったにもかかわらず、まだ私たちの首が取れると思っているのがいい証拠だ。端的に言おう。舐められているのだ諸君らは!」
ミアの激に熱がこもり、雷迅衆の目は明らかに怒りを伴うものになってきた。
「私は許せない! 誇りある我が国の最強戦力があの程度の、戦略もわからぬ豚に見下されるなど! 諸君らも悔しいだろ! 怒りがこみあげて来るだろう! ならば私に続け!」
ミアが大剣を頭上に掲げ、そして剣先をバウワーに向けて振り下ろした。
「雷迅衆が健在であると世に知らしめよう! 最強であるとわからせてやろう! 私は勝手にやる! 諸君らに誇りがあるのならば私について来い!」
「おおおっ!」っと雷迅衆はミアの激に乗り、声をあげた。たった百人の声が万の戦場全体に響き渡るような気合の声だった。
その声と共にミアと雷迅衆が突撃した。味方は道を開け、敵はその突撃をまともに食らった。
少しづつ乱されていた前線はそれで完全に決壊した。ミアたちはバウワーの陣営をバターのように簡単に切り裂いていく。中でも圧巻だったのは先頭に立つミアであった。
「どけえ! 死にたくなければ道を開けろ! 我が目的はバウワーただ一人! その道を邪魔するならば誰であろうとこの大剣で両断してくれよう!」
殺気のこもったミアの目に敵はたじたじとなった。段々と抵抗する気力もなぎ倒され、進撃にわが身をさらしたくないと道を開けてしまう。少し後ろでフォローに付くミントレアが遅れるほどの勢いだった。
数刻ほどで、ミアはバウワーの姿を視認するまでに至った。ミアは虎の如き大声で吠えた。
「そこか、バウワー! 地位の簒奪者め! 近衛総司令という位が貴様にふさわしくないということを私が手ずから教えてやろう!」
ミアの挑発にバウワーは簡単に乗った。棍棒を振り回して馬をミアの方へをと向ける。
「何を雌猫! 貴様こそ王宮で大人しくしておればいいものを陛下とペルセウス殿に逆らいおって! しつけてくれるわ!」
かくして両者は急速に接近した。二人とも大きな獲物を構えた。先に手を出したのは意外にもバウワーの方であった。
「ほれほれ! どうした! 手も出ないか!」
一合二合と棍棒を左右に振ってミアの剣に叩きつけた。流石の力でミアの剣に棍棒が当たるだけで、轟音が戦場に響き渡った。これはいけるのではとバウワーは段々と嗜虐的な笑みになっていた。
「降参するならば今のうちですぞ? 殿下! 女だてらに戦場に出て、そんな振れもしない大剣など持つからいけないのです! これでわかったでしょう!」
「......」
ミアは黙っていた。その様子を見て、バウワーはこれまでの殿下の武勇は誇張されたものにすぎないと確信した。所詮自分の力には勝てないのだとさらに攻勢を強めた。
「さあ! もう腕も痺れたでしょう! 許してあげますから剣を収めなさい」
その時、ミアは初めて、バウワーの棍棒を止めた。急に抵抗する力が強くなったことでバウワーは戸惑ったような表情を浮かべた。
「な......なんだ!? 急に! びくともしない!」
バウワーは棍棒をいくら押してもミアの大剣は微動だにしなかった。それどころか徐々に押し込まれ始めた。ここへきて初めてバウワーは手加減されていたことを知った。
焦り、押し込まれて仰け反るバウワーをミアは冷たい目で見下ろした。
「もしかしたら、貴様に何かとんでもない能力があり、それを買ってペルセウスは貴様をその地位に就けたのかもと疑ったのだが......どうやら本当にただの捨て駒のようだな」
「な......なんだと!?」
バウワーは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。筋肉が隆起し、額に青筋を浮かべる。それでもミアの大剣はまったく動かなかった。
「時間の無駄だな。貴様のせいで死んだ兵士たちにあの世で詫びてこい」
そう言ってミアは大剣を持つ両手にさらに力を込めた。バウワーは棍棒ごと体を押し付けられ、棍棒はギシギシと悲鳴を上げ始めた。
「こ......こんな!?」
「はあっ!」
ミアの気合と共に、棍棒もバウワーも大剣で両断された。どさりと落ちたバウワーに見向きすることもなく、ミアは大剣を掲げた。
「錆落としにもならなかったな」
後を引き取ったのはミントレアだった。
「殿下が敵総大将を討ち取ったぞ! 我が軍の勝利だ!」
バウワーの棍棒を拾い上げ、高々と勝利を叫ぶと、味方の歓声が戦場に響き渡った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる