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アイネ対マルカネン
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アイネは目にも止まらぬ速度で駆けだした。あまりに速すぎるので、マルカネンの目にはまだ立っていた時の残像が残っていたほどである。
「うおおっ!?」
アイネの初撃を防げたのは、これまでのマルカネンの戦歴と、馬上にいたために少しだけ刃が彼に届くのに時間がかかったからであった。マルカネンは何とか戦斧の柄でアイネの刃を防ぎ、返す刃を横薙ぎに振るった。
斧が凶悪な速度でぶんっとうなりをあげてアイネに襲い掛かった。しかし、彼女にとってはハエが止まるかのような遅さであった。冷静にバックステップで躱すと、今度は一気に逆方向へ駆けだした。
「うぐっ! くそっ!?」
今度は三連撃だ。一撃、二撃目は防いだが、三撃目はマルカネンの肩鎧をばきんっと砕いた。マルカネンはちいっと牽制で戦斧を振り回すのが精いっぱいの反撃だった。それと同時に体勢を大きく崩し、落馬してしまう。マルカネンは隙を見せぬように急いで立ち上がり、戦斧を構えなおした。その様子をアイネは悠然と見守っていた。
先ほどと同じように距離と間合いを測りながら、マルカネンは「はっはっ」と荒く息遣いをしていた。
「まさか、これほど強いとはな」
マルカネンの額に嫌な汗が流れた。だが......
「お嬢様、戦場は初めてかい?」
マルカネンは口元をにっとゆがませた。
「? そうですが、何か?」
「だよな。普通ここで手を緩めるなんてありえねえ。戦場慣れしてない証拠だ」
「ご忠告ありがとう。なら次は確実に斬って捨ててあげるわ?」
そう言いながらアイネはさらに速度を上げて、マルカネンへと肉薄した。最高速で五連撃、剣を縦横無尽にふるった。マルカネンも然るもの、二撃は受けてみせたが、それでも残りは食らってしまい、鎧や肉を斬られた。アイネはマルカネンの横を通り過ぎたと思ったら、今度は逆側から襲い掛かった。また同じようにマルカネンはいくつか防ぎ、いくつかは食らう。それを数回繰り返すころには、マルカネンの見た目は血だらけになっていた。
「へへっ」
その圧倒的に不利な状況にもかかわらず、マルカネンは笑った。それがアイネには不快でたまらなかった。
「変態です?」
「違うわ。お嬢様の攻撃が全然効かねえからついこっちも気が緩んじまったんだよ」
アイネがちっと舌打ちした。確かにこれだけ攻撃をしていても致命傷となる一撃は防がれていた。
(この作戦の要は横道に進んだ敵兵の戦意をどれだけ早く挫けるかだ。この場でもたもたしていては殿下や父上の期待を裏切ってしまうことになる)
アイネの焦りを見透かされたように、マルカネンはにやついている。アイネは苛立ちが募っていた。
「これで最後だ」
そしてアイネはまた雷光となった。また五連撃、マルカネンをなます切りにする。だが、今回は通り過ぎずに力を溜めて剣を振るった。
「ぐわっ!」
予想外の攻撃を食らったマルカネンは地面をもんどりうった。大地に転がされたマルカネンを今度は逃がすまいと、アイネは剣が大振りになった。
それがマルカネンの狙いだった。
「おらっ!」
いつの間にか手に握られていた砂がアイネにぶちまけられた。アイネはその古典的な目つぶしを食らい目標を見失い剣を空ぶった。
それと同時にマルカネンはアイネの腹目掛けて蹴りを見舞った。元来アイネとマルカネンでは大人と子供ほども体格差がある。アイネはゴロゴロと地面を転がった。
(しまった!? 早く起きなければ!?)
アイネは自分の迂闊さを呪った。マルカネンの言葉はすべてアイネの行動を誘導していたのだ。立ち上がろうとする気持ちに、アイネの体は付いていかなかった。
「がはっ! ごほっ!」
ざっざっとゆっくりとマルカネンが近づいてくるのが視界の端に映っていた。アイネは呼吸を整えようとするが間に合いそうになかった。
「やっぱり、戦場の経験がないのは痛かったな。お嬢様」
血の混じった涎を口の端から垂らし、アイネは必死に顔を上げた。目の前には油断なく近づき、確実に自分を消そうとするマルカネンの姿があった。
マルカネンはゆっくりと戦斧を振り上げた。
(ここまでか!? 申し訳ありません。姫様! 父上!)
アイネが覚悟を決めて目を瞑った。マルカネンは慈悲もなく戦斧を振り下ろした。
その時、横合いから黒い影がアイネをかっさらった。マルカネンの戦斧は空振り、彼は驚いて黒い影を見た。
「誰だ!?」
アイネは何があったのかと恐る恐る目を開けた。そこには敵を睨みつけて、自分を抱きかかえている烈の顔があった。
「うおおっ!?」
アイネの初撃を防げたのは、これまでのマルカネンの戦歴と、馬上にいたために少しだけ刃が彼に届くのに時間がかかったからであった。マルカネンは何とか戦斧の柄でアイネの刃を防ぎ、返す刃を横薙ぎに振るった。
斧が凶悪な速度でぶんっとうなりをあげてアイネに襲い掛かった。しかし、彼女にとってはハエが止まるかのような遅さであった。冷静にバックステップで躱すと、今度は一気に逆方向へ駆けだした。
「うぐっ! くそっ!?」
今度は三連撃だ。一撃、二撃目は防いだが、三撃目はマルカネンの肩鎧をばきんっと砕いた。マルカネンはちいっと牽制で戦斧を振り回すのが精いっぱいの反撃だった。それと同時に体勢を大きく崩し、落馬してしまう。マルカネンは隙を見せぬように急いで立ち上がり、戦斧を構えなおした。その様子をアイネは悠然と見守っていた。
先ほどと同じように距離と間合いを測りながら、マルカネンは「はっはっ」と荒く息遣いをしていた。
「まさか、これほど強いとはな」
マルカネンの額に嫌な汗が流れた。だが......
「お嬢様、戦場は初めてかい?」
マルカネンは口元をにっとゆがませた。
「? そうですが、何か?」
「だよな。普通ここで手を緩めるなんてありえねえ。戦場慣れしてない証拠だ」
「ご忠告ありがとう。なら次は確実に斬って捨ててあげるわ?」
そう言いながらアイネはさらに速度を上げて、マルカネンへと肉薄した。最高速で五連撃、剣を縦横無尽にふるった。マルカネンも然るもの、二撃は受けてみせたが、それでも残りは食らってしまい、鎧や肉を斬られた。アイネはマルカネンの横を通り過ぎたと思ったら、今度は逆側から襲い掛かった。また同じようにマルカネンはいくつか防ぎ、いくつかは食らう。それを数回繰り返すころには、マルカネンの見た目は血だらけになっていた。
「へへっ」
その圧倒的に不利な状況にもかかわらず、マルカネンは笑った。それがアイネには不快でたまらなかった。
「変態です?」
「違うわ。お嬢様の攻撃が全然効かねえからついこっちも気が緩んじまったんだよ」
アイネがちっと舌打ちした。確かにこれだけ攻撃をしていても致命傷となる一撃は防がれていた。
(この作戦の要は横道に進んだ敵兵の戦意をどれだけ早く挫けるかだ。この場でもたもたしていては殿下や父上の期待を裏切ってしまうことになる)
アイネの焦りを見透かされたように、マルカネンはにやついている。アイネは苛立ちが募っていた。
「これで最後だ」
そしてアイネはまた雷光となった。また五連撃、マルカネンをなます切りにする。だが、今回は通り過ぎずに力を溜めて剣を振るった。
「ぐわっ!」
予想外の攻撃を食らったマルカネンは地面をもんどりうった。大地に転がされたマルカネンを今度は逃がすまいと、アイネは剣が大振りになった。
それがマルカネンの狙いだった。
「おらっ!」
いつの間にか手に握られていた砂がアイネにぶちまけられた。アイネはその古典的な目つぶしを食らい目標を見失い剣を空ぶった。
それと同時にマルカネンはアイネの腹目掛けて蹴りを見舞った。元来アイネとマルカネンでは大人と子供ほども体格差がある。アイネはゴロゴロと地面を転がった。
(しまった!? 早く起きなければ!?)
アイネは自分の迂闊さを呪った。マルカネンの言葉はすべてアイネの行動を誘導していたのだ。立ち上がろうとする気持ちに、アイネの体は付いていかなかった。
「がはっ! ごほっ!」
ざっざっとゆっくりとマルカネンが近づいてくるのが視界の端に映っていた。アイネは呼吸を整えようとするが間に合いそうになかった。
「やっぱり、戦場の経験がないのは痛かったな。お嬢様」
血の混じった涎を口の端から垂らし、アイネは必死に顔を上げた。目の前には油断なく近づき、確実に自分を消そうとするマルカネンの姿があった。
マルカネンはゆっくりと戦斧を振り上げた。
(ここまでか!? 申し訳ありません。姫様! 父上!)
アイネが覚悟を決めて目を瞑った。マルカネンは慈悲もなく戦斧を振り下ろした。
その時、横合いから黒い影がアイネをかっさらった。マルカネンの戦斧は空振り、彼は驚いて黒い影を見た。
「誰だ!?」
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