上 下
94 / 144

カイエン立つ

しおりを挟む
「殿下!?」

 夕暮れになって、道場から戻ってきたアイネは一目散にミアに駆け寄った。そんなアイネをミアは優しく受け止めた。

「いてて、アイネ。そこは打ち身になってるからあまり触らないでくれ」

「きゃっ! ごめんなさい、殿下。私ったら。今すぐ塗り薬を持ってきますね!」

 そう言ってバタバタと小屋に戻っていった。先ほどとの言動のギャップにラングもルルもだらだらと冷や汗を流す。ラングがこほんと一つ咳ばらいをして、ミアを見た。

「なあ、姫サン。どうしてそんなにボロボロなんだ?」

「うん? 結局そこのじじいに10本ほど稽古に付き合わされてな。じじいの強いこと強いこと」

 親指でじじいと指さされたカイエン公爵は笑っていた。

「ほっほっほっ! まだまだだな。弟子。もっと精進せえよ」

「やかましい。さっさと弱くなれ!」

 はっはっはっと気持ちよく笑いながら、カイエン公爵は小屋に戻っていった。

 それを見届けて今度は、ラングは烈に声をかけた。

「よう。調子は戻ったかい? さっきよりは表情が晴れたみたいだが」

「どうかな? やるべきことは明確になったかもしれんが」

 烈はミアと同じようにボロボロの姿をしながら、何か吹っ切れたような顔をしていた。

 その様子を見てラングは肩をすくめた。

「ま、お前が調子悪いと俺もこんなところまで付いてきた甲斐がないからな。まだまだ楽しませてくれよ? あとお前のこと心配させたやつに謝っときな」

 ラングが顎で指し示した先にはルルがいた。烈は微笑を浮かべながら、ルルに近づいた。

「ルルも心配かけたな。もう大丈夫だから」

 ルルは少し涙ぐんでいた。それともにこっと笑い返した。

「はい! 元気が出てよかったです! 『魔剣』との戦いでちゃんと力になれなくて、私本当に申し訳なくて......レツさんには助けてもらってばかりなのに......」

「そんなことはない。あの時も俺を助けるために危険を省みず最前線で戦ってくれたじゃないか。いつもルルには助けてもらってるよ?」

「えへへ。レツさん。ありがとうございます」

 烈がルルの頭をなでると。ルルは少し顔を赤らめながらも気持ちよさそうにしてた。それをミアもラングも微笑ましく眺めていた。

「あの~申し訳ないんですけど......」

 その雰囲気に割って入る勇者がいた。小屋の中で倒れていた騎士であった。ミアが気づいたように声をかけた。

「ああ、まだいたのか。そう言えばここで何してたんだ?」

「いや~うちの上司の命令でカイエン公爵を口説き落としにですよ! あ、俺、コースって言います!」

 小太りの、金髪の騎士が必死に自分をアピールしていた。

「上司は四番目の虎か?」

「いやまあ、そんなところです。今後、殿下の戦力として必要になるからって」

 ミアたちが話している意味が分からず、他のメンバは首をひねった。

「なるほど。だが師匠は協力してくれそうにないと?」

「そうなんですよね~。どうしようか途方に暮れてるんですよ。手ぶらで帰ると小指の一本でも折りかねない上司のなんで」

「なんで小指?」

 思わずラングが突っ込んだ。いや~はっはっとコースが豪快に笑った。困っている人にはあまり見えない楽天的な様子である。

 しかし、そこでひょっこりとカイエン公爵が顔を出した。

「あ、儂戦ってもいいぞ?」

 カイエン公爵の突然の意趣返しに、ミアもコースもぽかんとしていた。

「どうしたんだ急に?」

 ミアが聞くと、カイエン公爵はふっと笑った。

「なに、ちょいとばかしその『魔剣』とやらに興味がわいたのよ。それにの......」

 カイエン公爵は夕暮れに照らされたミアを見て笑った。

「また、あの頃のように熱い時代が始まると思うとな。座ったままは勿体ないと思ったのよ」

 カイエン公爵の言葉にミアは呆れたようにため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...