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小屋に残っていたラングとルルはお茶を飲みながら今後について話をしていた。
「しかしシリウス公爵もそうだったが、カイエン公爵も難しいね」
「と言いますと? ラングさん」
「だって協力すればいいじゃないかよ。別にペルセウス侯爵に恩義があるとか、現国王に忠誠を誓ってるとかそういう感じなわけでもないからな。なら弟子に協力してくれてもよさそうなものなのにな」
「そうですねぇ。なんで協力してくれないんでしょう?」
ルルはお茶を飲みながら、むーっと唇を尖らせていた。ラングはポリポリと頭を掻きながら、それを知っていそうな人に声をかけることにした。
「なあ、アイネちゃん。どうして君の父親は姫サンに協力してくれないんだい?」
「喋りかけないでください。豚野郎」
「......」
「......」
ラングもルルも何を言われたのかわからなかった。思わず耳に何か詰まっているのかと、掃除をし始めた。ラングは嫌な予感をしながらも、再度話を振った。
「え~っと、すまん。お父さんの件なんだが......」
「聞こえませんでしたか? 虫けら。話かけるなと言ったんですが?」
今度は言っていることをはっきりと認識できた。しかしラングもルルも状況は理解できない。
「え~っと、アイネサン?」
「ふうっ。どうやらお耳がお腐り遊ばしているようですね?」
アイネは飲んでいたお茶を置いてラングたちに向き直った。その目は極北の氷よりもなお冷たさを放っていた。
「殿下に免じて、御前だけは敬意を表してあげますが、話しかけないでいただけますか? あの至高かつ高貴な殿下と共に旅をしているというだけでも業腹だというのに、なんですかさっきのレツ・タチバナという男は? 殿下に個人的に目をかけられてるなどと......殿下さえ近くにいなければ我が一刀で首を切り離して差し上げて、悩みも全部解決させてあげるというのに......」
ラングは頭を抱えた。
(あー......こういうタイプか......)
「戻ったら殿下を置いて、とっととそこで倒れている豚も連れて帰っていただけません?」
アイネが指を差すと、ラングたちの後ろでカイエン公爵に気絶させられた騎士がタイミングよく---いや、悪く「う~ん」っと身じろぎした。その仕草すら癇に障るのか、アイネは可愛らしい顔立ちを歪めて「ちっ」と一つ舌打ちをした。
ラングは苦笑いを浮かべながらなんとかアイネに話しかけた。
「だ......だが、俺らが帰ってその後姫サンはどうするんだ? まさか一人で帰るというわけにもいかないだろう?」
「当然です」
アイネはお茶を一口、口に含んだ。
「護衛もこれからの戦争も、父上直轄の『雷迅衆』がします。あなたたちは不要です」
「『雷迅衆』!? 『雷迅戦鬼』の直属部隊か! まだいるのか?」
「当然です。父上が彼らの兵力を落とすことはありません」
「だが、カイエン公爵は協力してくれないんだろう?」
「そんなもの。今後一切お酒を出さないとでも言えばすぐに出陣の準備を始めるでしょう」
「おいおい? いくらなんでもそれは......」
「権力争いに興味がないと言っているのであれば、興味があるものを人質にとってやればいいのです」
そう言ってまたずずっと一口お茶を飲んだ。
「それでも父上が動かないというのであれば......」
アイネが言葉を切った。それと同時に後ろにいた騎士がむくりと起き上がった。
「んが。ここはどこだ~」
完全に寝ぼけている。頭の上には虫が止まっていた。
その瞬間アイネが立て掛けてあった剣の柄を握った、ズガンっと大地を蹴る音がしたと同時に、ラングルルの間を一迅の稲妻が駆け抜けた。
ラングたちが振り返ると、そこには剣を横薙ぎに振り終えたアイネがいた。その切っ先からはぽたりと半分に分けられた虫が落ちた。頭上を剣が通過した騎士は何が起きたか分からずぽかんと口を開けていた。
アイネは剣をぴゅっと振って、汚れを払いのけた。そして自分に言い聞かせるように独り言ちた。
「私が殿下の剣となり、すべてを払いのけてみせましょう」
「しかしシリウス公爵もそうだったが、カイエン公爵も難しいね」
「と言いますと? ラングさん」
「だって協力すればいいじゃないかよ。別にペルセウス侯爵に恩義があるとか、現国王に忠誠を誓ってるとかそういう感じなわけでもないからな。なら弟子に協力してくれてもよさそうなものなのにな」
「そうですねぇ。なんで協力してくれないんでしょう?」
ルルはお茶を飲みながら、むーっと唇を尖らせていた。ラングはポリポリと頭を掻きながら、それを知っていそうな人に声をかけることにした。
「なあ、アイネちゃん。どうして君の父親は姫サンに協力してくれないんだい?」
「喋りかけないでください。豚野郎」
「......」
「......」
ラングもルルも何を言われたのかわからなかった。思わず耳に何か詰まっているのかと、掃除をし始めた。ラングは嫌な予感をしながらも、再度話を振った。
「え~っと、すまん。お父さんの件なんだが......」
「聞こえませんでしたか? 虫けら。話かけるなと言ったんですが?」
今度は言っていることをはっきりと認識できた。しかしラングもルルも状況は理解できない。
「え~っと、アイネサン?」
「ふうっ。どうやらお耳がお腐り遊ばしているようですね?」
アイネは飲んでいたお茶を置いてラングたちに向き直った。その目は極北の氷よりもなお冷たさを放っていた。
「殿下に免じて、御前だけは敬意を表してあげますが、話しかけないでいただけますか? あの至高かつ高貴な殿下と共に旅をしているというだけでも業腹だというのに、なんですかさっきのレツ・タチバナという男は? 殿下に個人的に目をかけられてるなどと......殿下さえ近くにいなければ我が一刀で首を切り離して差し上げて、悩みも全部解決させてあげるというのに......」
ラングは頭を抱えた。
(あー......こういうタイプか......)
「戻ったら殿下を置いて、とっととそこで倒れている豚も連れて帰っていただけません?」
アイネが指を差すと、ラングたちの後ろでカイエン公爵に気絶させられた騎士がタイミングよく---いや、悪く「う~ん」っと身じろぎした。その仕草すら癇に障るのか、アイネは可愛らしい顔立ちを歪めて「ちっ」と一つ舌打ちをした。
ラングは苦笑いを浮かべながらなんとかアイネに話しかけた。
「だ......だが、俺らが帰ってその後姫サンはどうするんだ? まさか一人で帰るというわけにもいかないだろう?」
「当然です」
アイネはお茶を一口、口に含んだ。
「護衛もこれからの戦争も、父上直轄の『雷迅衆』がします。あなたたちは不要です」
「『雷迅衆』!? 『雷迅戦鬼』の直属部隊か! まだいるのか?」
「当然です。父上が彼らの兵力を落とすことはありません」
「だが、カイエン公爵は協力してくれないんだろう?」
「そんなもの。今後一切お酒を出さないとでも言えばすぐに出陣の準備を始めるでしょう」
「おいおい? いくらなんでもそれは......」
「権力争いに興味がないと言っているのであれば、興味があるものを人質にとってやればいいのです」
そう言ってまたずずっと一口お茶を飲んだ。
「それでも父上が動かないというのであれば......」
アイネが言葉を切った。それと同時に後ろにいた騎士がむくりと起き上がった。
「んが。ここはどこだ~」
完全に寝ぼけている。頭の上には虫が止まっていた。
その瞬間アイネが立て掛けてあった剣の柄を握った、ズガンっと大地を蹴る音がしたと同時に、ラングルルの間を一迅の稲妻が駆け抜けた。
ラングたちが振り返ると、そこには剣を横薙ぎに振り終えたアイネがいた。その切っ先からはぽたりと半分に分けられた虫が落ちた。頭上を剣が通過した騎士は何が起きたか分からずぽかんと口を開けていた。
アイネは剣をぴゅっと振って、汚れを払いのけた。そして自分に言い聞かせるように独り言ちた。
「私が殿下の剣となり、すべてを払いのけてみせましょう」
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