上 下
68 / 144

合流

しおりを挟む
 馬上の人となりながら、烈たちはルルを褒め称えた。

「流石、ルル。まさかあの暗闇でも正確に狙えるとは。助かったよ」

「今回ばかりは同感だな。あの狙撃がなかったら俺たち今頃八つ裂きだったかもしれん」

「うんうん。僕も死ぬかと思ったよ~」

 烈、ラング、ラフィの順番に褒められて、ルルがえへへと照れる。戦いの最中、ゼスを含む『暁の鷲』を狙撃したのは案の定ルルであった。砦の中に入っても怪しまれると判断した烈は、ルルをわざと砦の外に配置し、必殺の切り札として残したのであった。

「でも、レツさんは大丈夫ですか? かなり傷だらけですが」

「ああルル。心配いらないよ。この程度ならミアの所までは無事に届くさ」

 烈はそう言いながら、片手で手綱を持ち、もう片方の手で自分の体をぐっと抱きしめた。

「でも......ぼろぼろじゃないですか......レツさんにここまでダメージを与えるなんて

「ああ、確かに相当強かったな。シバ将軍と同じらいかもしくはそれ以上かもしれない」

「とんでもねえな。流石『暁の鷲』の部隊長クラスだ」

 ラングが横から会話に入った。

「確か八人いるんだったか?」

「ああ、あんなのが八人だ。しかもその上に団長もいやがる。大陸最強の傭兵団の名は伊達じゃねえってことだな」

「一度に相手するのは勘弁したいな」

「わかんねえぜ? あいつらどこの戦場にも湧きやがるからな」

「それはぞっとしないな」

 烈はゼスが八人目の前にいる姿を想像して乾いた笑いを浮かべた。

「私の矢も防がれてしまいました。完全に不意をうったはずなのに......」

「俺との戦いの中でも常に神経を張り巡らせていたみたいだからな。まだまだ余裕がありそうだ」

「やだねえ。そんなのとも戦わなきゃいけないのかよ」

「必要ならな。だけど......」

 烈がちらりとラングの顔を見た。ラングはとぼけた顔で「ん?」と返した。それを見て烈は諦めたように首を振った。

「あ! あれ、ミアさんの軍じゃないですか!」

 まだ遠いが、ルルが指し示す方向には丘がそびえ立っていた。その頂上付近に多くの人だかりが見えた。烈たちは警戒しながらその軍勢と思しき人だかりに近づいていく。

 物見が烈たちに気付いたのか、丘の上があわただしくなる。そして烈たちが軍勢に近づく前に、あちらの方から二騎近づいてきた。片方はミアである。紅い髪を風にたなびかせて、こちらへと疾駆してくる。その見事な手綱さばきに遅れずについてきたのは、なんとシリウス公爵であった。貴族らしからぬ機敏な動きで烈たちに近寄り、ラフィが背中に背負っているものを見た瞬間、悲鳴をあげた。

「レイア! レイア! 無事か!」

「落ち着け、シリウス。眠っているだけだ」

「おお、おお!......」

 ラフィからレイアを受け取った公爵は、彼女を抱きしめながら感涙にむせび泣いた。一度は諦めた娘が戻ってきたのだ。その感動はいかほどだろうか。

「無事......とはいかなかったようだな」

 ミアが烈たちのぼろぼろの姿を見て、ミアは心配そうにしていた。

「ああ、少し苦戦した」

「『鉄甲鬼』か?」

「あんなのがこの世界にはいるんだな」

「楽しかったか?」

 ミアに問われて烈はふっと笑った。

「まさか? 痛いだけだよ」

「本当か?」

「ああ、もちろん」

 両手を挙げて降参の意を示す烈に、ミアはかっかっかっと笑った。そして、そのまま両手を広げて、烈をぎゅっと抱きしめた。

「王女がこんなことをするのはまずいんじゃないか?」

「構うもんか。今は王女ではなく戦士として、戦友に最大限の感謝の意を示しているのだ」

 無茶苦茶な言い分に烈は苦笑して、ぽんぽんとミアの背中を叩き返した。

「レツ」

「なんだ?」

「私は勝つぞ?」

「ああ、当然だ」

「疑わないのか?」

「もちろん」

「相手は私らよりもはるかに強大だぞ?」

「だから? ミアが負けるわけない」

「どうしてそんなに私のことを信じられるんだ?」

 ミアがきょとんと烈を見つめる。烈はその顔を見つめて笑って返した。

「戦士の仕事は勝つことだろう? 俺はミア以上の戦士を知らない。だから誰が来ても勝つさ」

「そうか......私以上はいないか......」

 ミアはそれを聞いてふっふっふっと肩を震わせた。その震えが段々と大きくなり、いつの間にか大きな笑い声となっていた。笑い声は既に高くなった晴天へと昇って吸い込まれていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...