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逃走
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満身創痍の烈にゼスが肉薄しようとしたその時であった。
「いまだ!」
おもむろにラングが持っていた松明を振り回して、炎でなにか合図を送った。すると、烈たちが向かおうとしていた方向から、ピュゥっと風切り音が聞こえた。
気づいた時にはゼスの目の前に矢の先端が迫っていた。
「チイッ!」
不意をつかれたゼスは慌てて矢を振り払う。足を止め、体勢を崩したぜスは大きな隙を作った。それを見逃す烈ではない。
「うおおおっ!」
烈はその長身を活かして、大上段から力任せに剣を振るった。
「クソッタレ!」
ぜスは辛うじて残った腕でガードしたが、流石に分が悪かったのか、大きく吹き飛ばされることになった。
大地に転がるゼスを傍目にラングが叫んだ。
「レツ! こっちだ!」
言うと同時にラングが1番近くにいた敵を切り裂く。
「ぐわっ!?」
「なにっ!?」
その間にも『暁の鷲』目掛けて矢が襲いかかっていた。
「気をつけろ! 伏兵がいるぞ!」
団員たちは矢を恐れて、木の陰に隠れた。それを見計らっていたのか、レイアを担いでいたラフィも、ガバッと起き上がって走り出す。
「あ!?」
「待て!」
制止する敵兵を先頭のランクが切り倒す。次いでラフィ、そして殿の烈が敵を牽制しながら包囲網を抜けた。
『暁の鷲』の団員達はそれでも追おうとした。副将らしき人物が各員に指示を飛ばそうとしたその時であった。
「やめろ!! 追うんじゃねえ!」
鋭く、その行動を制止する声が、団員たちの喧騒の中を響き渡った。
「ゼス様!? なぜですか!!?」
倒れ伏したまま空を見上げるゼスに、副官は焦った声を上げた。今ならまだ捕らえることはできたはずだ。にもかかわらず、自分たちの軍団長は制止の声を上げる。副官にはそのことが信じられなかった。
「今ならまだ間に合います」
「だろうな」
「でしたらなぜ!?」
「くっくっくっ......」
「ゼス様?」
ゼスが不気味に笑っていた。周りにいた団員が薄気味悪さにあとじさった。
「久しぶりじゃねえか、こんな獲物はよぉ」
「また、そのようなことを......」
「うるせぇ、とにかくあいつらを追うんじゃねえ。あれは俺の獲物だ」
「ですが、公爵の件はどうします? まんまと人質に逃げられましたよ?」
「ああ、そりゃあもういい。どうせ軍勢が夜のうちに向かってきてる」
「!?」
「驚くことか? 王女側の密偵がこっちに来てるんだ。奪還したらすぐに攻撃されるさ」
「ならグズグズしてる暇ないじゃないですか! 早く戦支度を……」
「慌てる必要はねえよ」
「しかし!?」
「あいつらと合流したことで足は鈍るさ。しかも追手もないとありゃ警戒するに決まってる」
「あっ!......」
ゼスの思惑に気付いて、副官は唖然とした。武一辺倒のように見せて、この戦略眼こそゼスを部隊長まで押し上げた要因であった。
「まあ、ぐずぐずしてらんねぇのは確かだ」
どっこいせとゼスは疲れた体を持ち上げた。その際、ぷるぷると振るえる自分の手足を見てふっと笑う。
「とりあえず西に向かう。そこで機を待つぞ。あと本隊に連絡して俺の武具を新調して届けさせろ」
「ははっ!」
副官は最敬礼して、すぐに行動に移った。周りの者に指示を出しながら出立の準備を整える。それを横目に、ゼスは東の空が徐々に明るくなるのを見てまた清々しそうに笑った。
「いまだ!」
おもむろにラングが持っていた松明を振り回して、炎でなにか合図を送った。すると、烈たちが向かおうとしていた方向から、ピュゥっと風切り音が聞こえた。
気づいた時にはゼスの目の前に矢の先端が迫っていた。
「チイッ!」
不意をつかれたゼスは慌てて矢を振り払う。足を止め、体勢を崩したぜスは大きな隙を作った。それを見逃す烈ではない。
「うおおおっ!」
烈はその長身を活かして、大上段から力任せに剣を振るった。
「クソッタレ!」
ぜスは辛うじて残った腕でガードしたが、流石に分が悪かったのか、大きく吹き飛ばされることになった。
大地に転がるゼスを傍目にラングが叫んだ。
「レツ! こっちだ!」
言うと同時にラングが1番近くにいた敵を切り裂く。
「ぐわっ!?」
「なにっ!?」
その間にも『暁の鷲』目掛けて矢が襲いかかっていた。
「気をつけろ! 伏兵がいるぞ!」
団員たちは矢を恐れて、木の陰に隠れた。それを見計らっていたのか、レイアを担いでいたラフィも、ガバッと起き上がって走り出す。
「あ!?」
「待て!」
制止する敵兵を先頭のランクが切り倒す。次いでラフィ、そして殿の烈が敵を牽制しながら包囲網を抜けた。
『暁の鷲』の団員達はそれでも追おうとした。副将らしき人物が各員に指示を飛ばそうとしたその時であった。
「やめろ!! 追うんじゃねえ!」
鋭く、その行動を制止する声が、団員たちの喧騒の中を響き渡った。
「ゼス様!? なぜですか!!?」
倒れ伏したまま空を見上げるゼスに、副官は焦った声を上げた。今ならまだ捕らえることはできたはずだ。にもかかわらず、自分たちの軍団長は制止の声を上げる。副官にはそのことが信じられなかった。
「今ならまだ間に合います」
「だろうな」
「でしたらなぜ!?」
「くっくっくっ......」
「ゼス様?」
ゼスが不気味に笑っていた。周りにいた団員が薄気味悪さにあとじさった。
「久しぶりじゃねえか、こんな獲物はよぉ」
「また、そのようなことを......」
「うるせぇ、とにかくあいつらを追うんじゃねえ。あれは俺の獲物だ」
「ですが、公爵の件はどうします? まんまと人質に逃げられましたよ?」
「ああ、そりゃあもういい。どうせ軍勢が夜のうちに向かってきてる」
「!?」
「驚くことか? 王女側の密偵がこっちに来てるんだ。奪還したらすぐに攻撃されるさ」
「ならグズグズしてる暇ないじゃないですか! 早く戦支度を……」
「慌てる必要はねえよ」
「しかし!?」
「あいつらと合流したことで足は鈍るさ。しかも追手もないとありゃ警戒するに決まってる」
「あっ!......」
ゼスの思惑に気付いて、副官は唖然とした。武一辺倒のように見せて、この戦略眼こそゼスを部隊長まで押し上げた要因であった。
「まあ、ぐずぐずしてらんねぇのは確かだ」
どっこいせとゼスは疲れた体を持ち上げた。その際、ぷるぷると振るえる自分の手足を見てふっと笑う。
「とりあえず西に向かう。そこで機を待つぞ。あと本隊に連絡して俺の武具を新調して届けさせろ」
「ははっ!」
副官は最敬礼して、すぐに行動に移った。周りの者に指示を出しながら出立の準備を整える。それを横目に、ゼスは東の空が徐々に明るくなるのを見てまた清々しそうに笑った。
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