53 / 144
シリウス公爵
しおりを挟む
フライブルク砦を出立した烈たちは昼夜を押して、ドイエベルン西部の大領主---シリウス公爵の住む、パバルの城まで駆け抜けた。何しろ時間との勝負である。一刻も早く、公爵を味方につける必要があった。
「とまれ! 何者だ!」
パバルの城の前まで来ると、衛兵が烈たちを制した。厳しい目を向ける衛兵に、ミアはずいっと進み出て答える。
「私はミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルトだ。パバル城主---シリウス公爵に会いに来た。取り次いでもらえないだろうか?」
「ミネビ......馬鹿を言うな! その名はこの国で最も高貴な方の名前だぞ!? それを貴様らのようなみすぼらしい連中が......」
みすぼらしいと言われて、ミアがにやりと笑った。背負っていた大剣をぶおんと振り回して、衛兵の喉にぴたりとつける。
「この大剣を、私以外の他の女が振り回せると?」
「ひっ! ま......まさか! 本当に妃殿下!?」
「だからそう言っているだろう? それで? 取り次ぐのか? 取り次がないのか?」
「た......大変申し訳ございません!! 只今お取次ぎしますので、少々お待ちください!」
「あまり待てんかもしれんぞ? みすぼらしい格好のせいで、肌寒くなってきた」
(こんなあったかいのに嫌味なこと言って......)
ミアの言葉に衛兵は青ざめて、ぴゅーっとどこかへ走り去った。烈はミアを呆れたような目で見た。それにミアは舌をぺろっと出して、悪戯が成功したように笑っていた。
しばらくすると、大通りの向こうから、数人が馬に乗ってこちらへ向かってくるのが見えた。先頭の男が、「はぁっ!」と見事な馬術で馬と周りの物たちを制止する。そして、急いで下馬すると、ミアの元に膝まづいた。
「お久しぶりです。殿下。部下がとんだ失礼をいたしました」
「ははっ! こんな格好をしているんだ。怪しげなのは間違いない。むしろ先ほどは意地悪をしてしまったからな。しっかり仕事をしていると、褒めてやってくれ」
「勿体ないお言葉。部下も殿下の寛大なお言葉に感謝するでしょう」
「もうわかったから、立ってくれ。父の頃から世話になっている公爵にいつまでも膝まづかせては、私が公爵の部下から睨まれてしまう」
「では、お言葉に甘えて」
シリウス公爵が立って、こちらを見た。
(おお......品のいいおじさんって感じだ。きれいに整えられた口ひげに、豪華じゃないが、高そうな衣装。馬も腰の剣も手入れが行き届いている......これが本当の貴族というやつか......)
烈は高貴な人とというのを初めて見た気がした。ミアもバリ国王も上品だが、それ以上に覇気があった。目の前の人はすべてが誰かの手本となるように、細部まで行き届いているような高貴な雰囲気というものを感じられた。
「殿下、わざわざいらしたということは、ここで立ち話をする内容でもないのでしょう。ぜひ我が居城にいらしてください」
「ああ、ぜひお招きにあずかろう」
そう言ってから、シリウス公爵はようやく、後ろにいた烈たちに気付いたようだ。
「その者たちは?」
「私の連れだ。皆、一騎当千の強者たちだぞ? 彼らにも私と同等の待遇を」
「承知いたしました」
そう言って、シリウス公爵は恭しく頭を下げた。
---
シリウス公爵の対応はゴードウィン男爵の時と違い、丁寧なものだった。烈たちにも一通りの着替えが与えられ、彼らは城の応接室に通された。部屋には既に公爵とミアが待っていた。烈たちが話を聞くために、部屋の長椅子に座ると、早速ミアが話を切り出した。
「さて、シリウス。改めて、私への助力をお願いしたい」
単刀直入なミアの言葉に、シリウスはふーっとため息をついた。
「申し訳ございませんが、それはできません」
「なぜだ? 兄とペルセウスの横暴は聞こえているだろう?」
「もちろんでございます。この国の筆頭貴族の一人として、陛下と侯爵を諫める必要があることも。ですが第一に、相手は『陛下』です。この国でもっとも高貴な方に、そう簡単に剣を向けることはできません」
「......」
「また、此度の内戦で我が国の半分の兵が傷つことは必至です。その状況で、我々まで手を貸してしまえば、隣国に付け入る隙を与えることになります。特にバリ王国の脅威はひしひしと感じておりますからな」
「それはわかっている。だが、私は出奔している間、バリ王国をこの目で見てきた」
「......」
「途轍もなかったぞ。将も兵も我が国と今後どんどん差は開いていくだろう。その状況で、長期的に国力を落としていては、勝てるものも勝てなくなってしまう」
「......」
「今しかないんだ。シリウス」
「......」
シリウス公爵は黙っていた。
「とまれ! 何者だ!」
パバルの城の前まで来ると、衛兵が烈たちを制した。厳しい目を向ける衛兵に、ミアはずいっと進み出て答える。
「私はミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルトだ。パバル城主---シリウス公爵に会いに来た。取り次いでもらえないだろうか?」
「ミネビ......馬鹿を言うな! その名はこの国で最も高貴な方の名前だぞ!? それを貴様らのようなみすぼらしい連中が......」
みすぼらしいと言われて、ミアがにやりと笑った。背負っていた大剣をぶおんと振り回して、衛兵の喉にぴたりとつける。
「この大剣を、私以外の他の女が振り回せると?」
「ひっ! ま......まさか! 本当に妃殿下!?」
「だからそう言っているだろう? それで? 取り次ぐのか? 取り次がないのか?」
「た......大変申し訳ございません!! 只今お取次ぎしますので、少々お待ちください!」
「あまり待てんかもしれんぞ? みすぼらしい格好のせいで、肌寒くなってきた」
(こんなあったかいのに嫌味なこと言って......)
ミアの言葉に衛兵は青ざめて、ぴゅーっとどこかへ走り去った。烈はミアを呆れたような目で見た。それにミアは舌をぺろっと出して、悪戯が成功したように笑っていた。
しばらくすると、大通りの向こうから、数人が馬に乗ってこちらへ向かってくるのが見えた。先頭の男が、「はぁっ!」と見事な馬術で馬と周りの物たちを制止する。そして、急いで下馬すると、ミアの元に膝まづいた。
「お久しぶりです。殿下。部下がとんだ失礼をいたしました」
「ははっ! こんな格好をしているんだ。怪しげなのは間違いない。むしろ先ほどは意地悪をしてしまったからな。しっかり仕事をしていると、褒めてやってくれ」
「勿体ないお言葉。部下も殿下の寛大なお言葉に感謝するでしょう」
「もうわかったから、立ってくれ。父の頃から世話になっている公爵にいつまでも膝まづかせては、私が公爵の部下から睨まれてしまう」
「では、お言葉に甘えて」
シリウス公爵が立って、こちらを見た。
(おお......品のいいおじさんって感じだ。きれいに整えられた口ひげに、豪華じゃないが、高そうな衣装。馬も腰の剣も手入れが行き届いている......これが本当の貴族というやつか......)
烈は高貴な人とというのを初めて見た気がした。ミアもバリ国王も上品だが、それ以上に覇気があった。目の前の人はすべてが誰かの手本となるように、細部まで行き届いているような高貴な雰囲気というものを感じられた。
「殿下、わざわざいらしたということは、ここで立ち話をする内容でもないのでしょう。ぜひ我が居城にいらしてください」
「ああ、ぜひお招きにあずかろう」
そう言ってから、シリウス公爵はようやく、後ろにいた烈たちに気付いたようだ。
「その者たちは?」
「私の連れだ。皆、一騎当千の強者たちだぞ? 彼らにも私と同等の待遇を」
「承知いたしました」
そう言って、シリウス公爵は恭しく頭を下げた。
---
シリウス公爵の対応はゴードウィン男爵の時と違い、丁寧なものだった。烈たちにも一通りの着替えが与えられ、彼らは城の応接室に通された。部屋には既に公爵とミアが待っていた。烈たちが話を聞くために、部屋の長椅子に座ると、早速ミアが話を切り出した。
「さて、シリウス。改めて、私への助力をお願いしたい」
単刀直入なミアの言葉に、シリウスはふーっとため息をついた。
「申し訳ございませんが、それはできません」
「なぜだ? 兄とペルセウスの横暴は聞こえているだろう?」
「もちろんでございます。この国の筆頭貴族の一人として、陛下と侯爵を諫める必要があることも。ですが第一に、相手は『陛下』です。この国でもっとも高貴な方に、そう簡単に剣を向けることはできません」
「......」
「また、此度の内戦で我が国の半分の兵が傷つことは必至です。その状況で、我々まで手を貸してしまえば、隣国に付け入る隙を与えることになります。特にバリ王国の脅威はひしひしと感じておりますからな」
「それはわかっている。だが、私は出奔している間、バリ王国をこの目で見てきた」
「......」
「途轍もなかったぞ。将も兵も我が国と今後どんどん差は開いていくだろう。その状況で、長期的に国力を落としていては、勝てるものも勝てなくなってしまう」
「......」
「今しかないんだ。シリウス」
「......」
シリウス公爵は黙っていた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる