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勢力図
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烈たち四人は伝令兵に連れられて、団長室の扉の前まで来た。伝令兵が「では私はこれで」と持ち場に戻っていくと、ドーンが代表して、扉をこんこんとノックする。中から「入れ」と声がすると、ドーンは「失礼します」と言って、ガチャリと扉を開けた。
中にはミアやクリスの他に、恐らく鉄百合団の幹部たちであろう騎士たちが難しい顔をして、真ん中のテーブルを囲っていた。
「お? 来たか。こっちに来て意見を聞かせてくれ」
ミアが手を挙げて、烈たちを手招きする。烈たちは近づいて、ミアと向かい合うように立った。
「これは?」
そこで、烈は真ん中のテーブルに広がっているものに気付いた。
「地図だ。このドイエベルン王国のな」
「へー。これが」
烈が地図を覗き込んだ。大きな地図の上に、色が付けられた駒が乗っている。
「青色と黄色が多いんだな」
「その通りだ」
ミアがにやりと笑って、席を立つ。
「まずこの青い駒が、兄王ドネルと、ペルセウスの麾下の者たちだ」
「大半だな......」
烈が言う通り、青い駒が全体の五割程度---特に国の東側の地域に多く集まっていた。
「まあ、当然だな。ペルセウス自身、先王時代の大戦の功労者で王国の東地域の大領主だ、それに加えて王直属の近衛兵団もいる。加えて......厄介なのがここだ!」
ミアが地図の真ん中にある、城のミニチュアらしき駒の近くをバンと叩いた。
「ドイエベルン王国の首都---ベルン。建国以来、陥落したことのない、難攻不落の城塞だ。我々の最終目的はここを落とすことにある」
言葉にされて、周りの騎士たちの空気が一気に重くなる。どうやら彼らにとって、それを成し遂げるのは余程の偉業であるようだった。
逆に外国人の烈やラング、ルルはあまりピンと来ていなかった。その様子を知ってか知らずか、ミアは話を続けた。
「そして、それに続く勢力が、黄色の駒たち。王国を支える三大公爵の勢力だ」
「三大公爵?」
「ああ、ドイエベルンの大領主たちだ。ゴードウィン男爵みたいな小物と違って、全員先王の時代に武功を立ててきた猛者たちでもある。彼らはまあ中立だな。さっさとこの内戦を終わらせろと思ってる連中だ」
黄色の駒は国の東以外に広がっていた。
「とすると、残る赤色の駒が?」
「そう、ここフライブルク砦を始めとした、私に協力を誓ってくれているものたちだ」
「なるほど......どうやら戦局はあまりよくないようだな」
「図星になることを言うな」
ミアが腕組みをしながら苦笑した。
「確かに、数の上では負けている。将の質も、近衛兵団が味方にいる以上、互角といったところだろう。だが......」
ミアはそこで言葉を切った。周りの物たちは静かにその続きを待つ。
「彼らには芯がない。士気も高くないだろう。ならば付け入れる隙はある」
騎士たちの目に、光が戻った。
「何より、諸君には常勝不敗の私と、『双剣』の一角---クリス・アーヴィング、そして、マルタの武術大会であの『剣姫』を倒した。レツ・タチバナがいる!」
ばっと、ミアが突然、烈を指さした。名前を呼ばれると思ってなかった烈は目を丸くした。だが、烈の動揺とは裏腹に、騎士たちはざわつく。
「なんと! あの女丈夫を!」
「『三剣』の一人を倒したものがこちらにいるとすれば、中立派の領主たちもすこしこちらになびくかもしれん」
「流石は殿下。潜伏中に強い味方をみつけたものです」
騎士たちが口々に賞賛の声をあげた。先ほどの絶望的だった雰囲気も、いくらか明るくなっている。
「だが、実際問題、兵力差5対1だろう? どう埋めるんだい?」
ラングが空気も読まずに発言した。自分たちの空元気を自覚していた騎士たちもきっと睨む。ラングは「おお、こわ」と烈の後ろに隠れてしまった。
「そこだが、やはりどうしても三大公爵の切り崩しは必須だ。そこで烈、ラング、ルル。お前たち三人と私で彼らの元に直接交渉に向かおうと思う」
「!? だが、ミアは軍の総大将だろう? そんな勝手をしていいのか?」
「もちろんいいわけありません」
そこで話にクリスが割り込んだ。
「ですが、殿下もおっしゃる通り、どなたかが、三大公爵に会わなければいけません。気位の高い彼らに、この場で少しでも会ってもらえるだろう確率があるのは、殿下と私ですが......私は軍をまとめて東進しつつ、フライブルク砦に少しの兵を残して、西の脅威にも備えなければいけません。ならば殿下が直接赴くのは、もはや致し方ないことなのです」
「そういうことだ」
ミアが話を引き継いだ。
「これにはスピードも重視される。グズグズすれば、ベルンから討伐軍が派遣されるからな。それを考えると、一人一人が一騎当千の強者のお前たちの方が都合がいいというわけさ」
ミアに賞賛されて、三人とも悪い気はしなかった。騎士たちの中には面白くなさそうにしているものもいたが、クリスの目線で黙殺されていた。
「私は、レツさんに救ってもらったのでついてきました! レツさんの行くところについていきますよ?」
「俺もまあ、あんたらが面白そうだから、ここにいるわけだしな。レツと殿下で決めてくれ」
ミアが「お前はどうだ?」と目線で烈に問う。烈はその目を見て笑った。「決まり切っていることを聞くな」ということであった。ミアもつられて笑った。二人の間に余計な言葉はいらなかった。
「よし! 決まったな! クリス、すぐに軍備を整えろ。ただし、行軍は遅くだ。そうだな。フーリックが決戦場になるようにしてくれ」
「かしこまりました。途中、この日のために口説き落とした領主勢も加えれば、5千の軍勢にはなるかと思います」
「うむ、その辺は委細任せた。レツ、ラング、ルル! 着いたばかりで申し訳ないが、すぐに出立する。まずは西の大領主---シリウス公爵のもとへ向かうぞ!」
「「「おう!(はい!)」」」
ミアが動き出すと、その場にエネルギーが満ちるような感じがした。絶望的な戦力差にもかかわらず、全く負ける気のしない大戦が始まろうとしていた。
中にはミアやクリスの他に、恐らく鉄百合団の幹部たちであろう騎士たちが難しい顔をして、真ん中のテーブルを囲っていた。
「お? 来たか。こっちに来て意見を聞かせてくれ」
ミアが手を挙げて、烈たちを手招きする。烈たちは近づいて、ミアと向かい合うように立った。
「これは?」
そこで、烈は真ん中のテーブルに広がっているものに気付いた。
「地図だ。このドイエベルン王国のな」
「へー。これが」
烈が地図を覗き込んだ。大きな地図の上に、色が付けられた駒が乗っている。
「青色と黄色が多いんだな」
「その通りだ」
ミアがにやりと笑って、席を立つ。
「まずこの青い駒が、兄王ドネルと、ペルセウスの麾下の者たちだ」
「大半だな......」
烈が言う通り、青い駒が全体の五割程度---特に国の東側の地域に多く集まっていた。
「まあ、当然だな。ペルセウス自身、先王時代の大戦の功労者で王国の東地域の大領主だ、それに加えて王直属の近衛兵団もいる。加えて......厄介なのがここだ!」
ミアが地図の真ん中にある、城のミニチュアらしき駒の近くをバンと叩いた。
「ドイエベルン王国の首都---ベルン。建国以来、陥落したことのない、難攻不落の城塞だ。我々の最終目的はここを落とすことにある」
言葉にされて、周りの騎士たちの空気が一気に重くなる。どうやら彼らにとって、それを成し遂げるのは余程の偉業であるようだった。
逆に外国人の烈やラング、ルルはあまりピンと来ていなかった。その様子を知ってか知らずか、ミアは話を続けた。
「そして、それに続く勢力が、黄色の駒たち。王国を支える三大公爵の勢力だ」
「三大公爵?」
「ああ、ドイエベルンの大領主たちだ。ゴードウィン男爵みたいな小物と違って、全員先王の時代に武功を立ててきた猛者たちでもある。彼らはまあ中立だな。さっさとこの内戦を終わらせろと思ってる連中だ」
黄色の駒は国の東以外に広がっていた。
「とすると、残る赤色の駒が?」
「そう、ここフライブルク砦を始めとした、私に協力を誓ってくれているものたちだ」
「なるほど......どうやら戦局はあまりよくないようだな」
「図星になることを言うな」
ミアが腕組みをしながら苦笑した。
「確かに、数の上では負けている。将の質も、近衛兵団が味方にいる以上、互角といったところだろう。だが......」
ミアはそこで言葉を切った。周りの物たちは静かにその続きを待つ。
「彼らには芯がない。士気も高くないだろう。ならば付け入れる隙はある」
騎士たちの目に、光が戻った。
「何より、諸君には常勝不敗の私と、『双剣』の一角---クリス・アーヴィング、そして、マルタの武術大会であの『剣姫』を倒した。レツ・タチバナがいる!」
ばっと、ミアが突然、烈を指さした。名前を呼ばれると思ってなかった烈は目を丸くした。だが、烈の動揺とは裏腹に、騎士たちはざわつく。
「なんと! あの女丈夫を!」
「『三剣』の一人を倒したものがこちらにいるとすれば、中立派の領主たちもすこしこちらになびくかもしれん」
「流石は殿下。潜伏中に強い味方をみつけたものです」
騎士たちが口々に賞賛の声をあげた。先ほどの絶望的だった雰囲気も、いくらか明るくなっている。
「だが、実際問題、兵力差5対1だろう? どう埋めるんだい?」
ラングが空気も読まずに発言した。自分たちの空元気を自覚していた騎士たちもきっと睨む。ラングは「おお、こわ」と烈の後ろに隠れてしまった。
「そこだが、やはりどうしても三大公爵の切り崩しは必須だ。そこで烈、ラング、ルル。お前たち三人と私で彼らの元に直接交渉に向かおうと思う」
「!? だが、ミアは軍の総大将だろう? そんな勝手をしていいのか?」
「もちろんいいわけありません」
そこで話にクリスが割り込んだ。
「ですが、殿下もおっしゃる通り、どなたかが、三大公爵に会わなければいけません。気位の高い彼らに、この場で少しでも会ってもらえるだろう確率があるのは、殿下と私ですが......私は軍をまとめて東進しつつ、フライブルク砦に少しの兵を残して、西の脅威にも備えなければいけません。ならば殿下が直接赴くのは、もはや致し方ないことなのです」
「そういうことだ」
ミアが話を引き継いだ。
「これにはスピードも重視される。グズグズすれば、ベルンから討伐軍が派遣されるからな。それを考えると、一人一人が一騎当千の強者のお前たちの方が都合がいいというわけさ」
ミアに賞賛されて、三人とも悪い気はしなかった。騎士たちの中には面白くなさそうにしているものもいたが、クリスの目線で黙殺されていた。
「私は、レツさんに救ってもらったのでついてきました! レツさんの行くところについていきますよ?」
「俺もまあ、あんたらが面白そうだから、ここにいるわけだしな。レツと殿下で決めてくれ」
ミアが「お前はどうだ?」と目線で烈に問う。烈はその目を見て笑った。「決まり切っていることを聞くな」ということであった。ミアもつられて笑った。二人の間に余計な言葉はいらなかった。
「よし! 決まったな! クリス、すぐに軍備を整えろ。ただし、行軍は遅くだ。そうだな。フーリックが決戦場になるようにしてくれ」
「かしこまりました。途中、この日のために口説き落とした領主勢も加えれば、5千の軍勢にはなるかと思います」
「うむ、その辺は委細任せた。レツ、ラング、ルル! 着いたばかりで申し訳ないが、すぐに出立する。まずは西の大領主---シリウス公爵のもとへ向かうぞ!」
「「「おう!(はい!)」」」
ミアが動き出すと、その場にエネルギーが満ちるような感じがした。絶望的な戦力差にもかかわらず、全く負ける気のしない大戦が始まろうとしていた。
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