46 / 144
低俗な夢
しおりを挟む
暗闇の中を烈たちはわき目もふらずに、馬を疾走させる。途中横に伸びた枝などが、ほほをかすめ、切り傷をつけるが、気にしている余裕はない。背中からは、自分たちを探すゴードウィン男爵麾下の兵士たちの怒号が聞こえる。
「ミア! 見えているのか!?」
烈は叫んだ。もうすでに辺りはほとんど見えない。木々の間を縫って、木漏れ出る月明かりに照らされるミアの姿を、見失わないようにするのが精いっぱいである。
「ちくしょう! これじゃいつか落馬しちまうぜ!」
「むぐぅぅぅ。ラングさん。もっと優しく走ってくださいぃ~」
「できるか!!?」
ラングとルルが後ろで悪戦苦闘する声が聞こえる。会話の内容と裏腹に、彼らも必死であろう。
「ミア!」
「もうすぐだ!」
焦る烈の声に、ミアが鋭く返す。烈が前方を確認すると、うっすらと森の手口が見えた。えいっと三匹の馬がスピードを上げる。彼らは森に入った時の勢いのまま、森を抜け出た。
目の前には、草原が広がっていた。
「ミア、これは......」
「おいおい、これはちょっとまずいんじゃないか?」
烈とラングが口々に絶望の声を上げた。遮蔽物も何もない草原である。追ってきているうちはいいが、矢を射かけられたら終わりだった。
「構わん! 走れ!」
ミアははっと馬に鞭を入れた。仕方なく、烈とラングもそれに続く。そうこうしているうちに、領主の軍勢が、森を迂回してきた。先頭のものが、こちらを指さし何事かを叫んでいる。すると、奥から弓を番えた者たちが出てきた。やはり、こちらを射殺す気のようだ。
「ルル! あの先頭で指示を出している男を狙えるか!」
ルルは言われたばっと振り向く。そして、間髪入れずに弓を構え、狙いを定める。距離にして約200m。通常ならば狙ってところにあたる距離ではない。
「はっ!!」
だが、ルルは『破軍弓』だ。その矢は吸い込まれるように、先頭の指揮官の頭に命中した。
「流石だ!」
烈が走りながら、ルルを誉め称える。ルルは馬上でえへんっと胸を張っていた。
「止まれ!」
その時、ミアが叫んだ。烈がはっと前を向くと、前から弓兵隊が出てくる。
「伏兵か!?」
烈たちの足が止まる。完全に挟撃の体勢となってしまっていた。しかも。前後ともに弓で狙われている。これでは近づく前にハリネズミにされてしまうだろう。烈の額に嫌な汗が流れた。
「さて、お二人さん? どうする?」
ラングが顔を強張らせつつも、不敵に笑う。
「ミア、どうする? 一か八かしてみるか? 正面の敵の方が少なそうだが......」
「いや、待て」
ミアが片手で制する。すると、後方からゴードウィン男爵が悠々と出てきた。その顔にはいやらしい笑みを張り付けている。
「困りますな。殿下」
「......」
「あなたをしっかりと始末しないと、私の夢が叶わなくなってしまうのですよ?」
「ほう? 不忠者の夢とは何か知りたいものだな?」
「ふっふっふ。まあ、最期なので教えて進ぜましょう。私はあなたを始末すれば、ペルセウス侯爵殿から中央の地位を約束さえているのですよ」
「ほーう? 中央でやりたいことがあるとは思わなんだ。具体的に何がしたいんだ?」
「無論、我がゴードウィン家の永遠の繁栄のためにですよ」
「それが、お前の夢か?」
「もちろん。女の殿下にはわからんかもしれないですが、男の、それも家長に生まれたからには、家を盛り立てるのは当然のことです。我が家はここ最近貴族になったばかりの家格ですからな。上に行くチャンスを逃すわけにはいかないのです」
「......下らんな」
「何をおっしゃる?」
「下らんといったのよ。低俗で浅はかでもある。夢というばかりで何も思い描けていないではないか。その程度ではペルセウスに始末されるのがオチであろうな」
「なんとでもおっしゃい。この状況であなたはどうすることもできますまい。観念してほしいものですな」
「それはどうかな?」
「何?」
ミアが獣のように笑うと、ゴードウィン男爵が怪訝そうな顔をする。その時であった。ミアたちの後方から鬨の声が上がった。烈たちが振り向くと、そこには構えていた弓兵隊の後ろから、騎士たちが出てきて弓兵隊を蹂躙する姿があった。騎士たちは不意を突いたこともあり、弓兵たちを次々と打倒していく。彼らは百合の旗を掲げていた。
「あれは、まさか鉄百合団!? なぜこのような所に!!?」
ゴードウィン男爵の顔が恐怖に歪んだ。
「ミア! 見えているのか!?」
烈は叫んだ。もうすでに辺りはほとんど見えない。木々の間を縫って、木漏れ出る月明かりに照らされるミアの姿を、見失わないようにするのが精いっぱいである。
「ちくしょう! これじゃいつか落馬しちまうぜ!」
「むぐぅぅぅ。ラングさん。もっと優しく走ってくださいぃ~」
「できるか!!?」
ラングとルルが後ろで悪戦苦闘する声が聞こえる。会話の内容と裏腹に、彼らも必死であろう。
「ミア!」
「もうすぐだ!」
焦る烈の声に、ミアが鋭く返す。烈が前方を確認すると、うっすらと森の手口が見えた。えいっと三匹の馬がスピードを上げる。彼らは森に入った時の勢いのまま、森を抜け出た。
目の前には、草原が広がっていた。
「ミア、これは......」
「おいおい、これはちょっとまずいんじゃないか?」
烈とラングが口々に絶望の声を上げた。遮蔽物も何もない草原である。追ってきているうちはいいが、矢を射かけられたら終わりだった。
「構わん! 走れ!」
ミアははっと馬に鞭を入れた。仕方なく、烈とラングもそれに続く。そうこうしているうちに、領主の軍勢が、森を迂回してきた。先頭のものが、こちらを指さし何事かを叫んでいる。すると、奥から弓を番えた者たちが出てきた。やはり、こちらを射殺す気のようだ。
「ルル! あの先頭で指示を出している男を狙えるか!」
ルルは言われたばっと振り向く。そして、間髪入れずに弓を構え、狙いを定める。距離にして約200m。通常ならば狙ってところにあたる距離ではない。
「はっ!!」
だが、ルルは『破軍弓』だ。その矢は吸い込まれるように、先頭の指揮官の頭に命中した。
「流石だ!」
烈が走りながら、ルルを誉め称える。ルルは馬上でえへんっと胸を張っていた。
「止まれ!」
その時、ミアが叫んだ。烈がはっと前を向くと、前から弓兵隊が出てくる。
「伏兵か!?」
烈たちの足が止まる。完全に挟撃の体勢となってしまっていた。しかも。前後ともに弓で狙われている。これでは近づく前にハリネズミにされてしまうだろう。烈の額に嫌な汗が流れた。
「さて、お二人さん? どうする?」
ラングが顔を強張らせつつも、不敵に笑う。
「ミア、どうする? 一か八かしてみるか? 正面の敵の方が少なそうだが......」
「いや、待て」
ミアが片手で制する。すると、後方からゴードウィン男爵が悠々と出てきた。その顔にはいやらしい笑みを張り付けている。
「困りますな。殿下」
「......」
「あなたをしっかりと始末しないと、私の夢が叶わなくなってしまうのですよ?」
「ほう? 不忠者の夢とは何か知りたいものだな?」
「ふっふっふ。まあ、最期なので教えて進ぜましょう。私はあなたを始末すれば、ペルセウス侯爵殿から中央の地位を約束さえているのですよ」
「ほーう? 中央でやりたいことがあるとは思わなんだ。具体的に何がしたいんだ?」
「無論、我がゴードウィン家の永遠の繁栄のためにですよ」
「それが、お前の夢か?」
「もちろん。女の殿下にはわからんかもしれないですが、男の、それも家長に生まれたからには、家を盛り立てるのは当然のことです。我が家はここ最近貴族になったばかりの家格ですからな。上に行くチャンスを逃すわけにはいかないのです」
「......下らんな」
「何をおっしゃる?」
「下らんといったのよ。低俗で浅はかでもある。夢というばかりで何も思い描けていないではないか。その程度ではペルセウスに始末されるのがオチであろうな」
「なんとでもおっしゃい。この状況であなたはどうすることもできますまい。観念してほしいものですな」
「それはどうかな?」
「何?」
ミアが獣のように笑うと、ゴードウィン男爵が怪訝そうな顔をする。その時であった。ミアたちの後方から鬨の声が上がった。烈たちが振り向くと、そこには構えていた弓兵隊の後ろから、騎士たちが出てきて弓兵隊を蹂躙する姿があった。騎士たちは不意を突いたこともあり、弓兵たちを次々と打倒していく。彼らは百合の旗を掲げていた。
「あれは、まさか鉄百合団!? なぜこのような所に!!?」
ゴードウィン男爵の顔が恐怖に歪んだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~
草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。
無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。
死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。
竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。
ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。
エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。
やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。
これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語!
※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
最強剣士異世界で無双する
夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。
ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過
殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ
熊吉(モノカキグマ)
ファンタジー
こんなアラフォーになりたい。そんな思いで書き始めた作品です。
以下、あらすじとなります。
────────────────────────────────────────
令和の世に、[サムライ]と呼ばれた男がいた。
立花 源九郎。
[殺陣]のエキストラから主役へと上り詰め、主演作品を立て続けにヒットさせた男。
その名演は、三作目の主演作品の完成によって歴史に刻まれるはずだった。
しかし、流星のようにあらわれた男は、幻のように姿を消した。
撮影中の[事故]によって重傷を負い、役者生命を絶たれたのだ。
男は、[令和のサムライ]から1人の中年男性、田中 賢二へと戻り、交通警備員として細々と暮らしていた。
ささやかながらも、平穏な、小さな幸せも感じられる日々。
だが40歳の誕生日を迎えた日の夜、賢二は、想像もしなかった事態に巻き込まれ、再びその殺陣の技を振るうこととなる。
殺陣を極めたおっさんの異世界漫遊記、始まります!
※作者より
あらすじを最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
熊吉(モノカキグマ)と申します。
本作は、カクヨムコン8への参加作品となります!
プロット未完成につき、更新も不定期となりますが、もし気に入っていただけましたら、高評価・ブックマーク等、よろしくお願いいたします。
また、作者ツイッター[https://twitter.com/whbtcats]にて、製作状況、おススメの作品、思ったことなど、呟いております。
ぜひ、おいで下さいませ。
どうぞ、熊吉と本作とを、よろしくお願い申し上げます!
※作者他作品紹介・こちらは小説家になろう様、カクヨム様にて公開中です。
[メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記]
偶然公爵家のメイドとなった少女が主人公の、近世ヨーロッパ風の世界を舞台とした作品です。
戦乱渦巻く大陸に、少年公爵とメイドが挑みます。
[イリス=オリヴィエ戦記]
大国の思惑に翻弄される祖国の空を守るべく戦う1人のパイロットが、いかに戦争と向き合い、戦い、生きていくか。
濃厚なミリタリー成分と共に書き上げた、100万文字越えの大長編です。
もしよろしければ、お手に取っていただけると嬉しいです!
レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】
あもんよん
ファンタジー
地上の支配権をかけた神々の戦争が終りを告げ、「秩序」という信仰の元『世界』は始まった。
戦に負け、その座を追われた神は黒猫に転生し、唯一の従者と『世界』を巡る旅に出る。
膨大な魔力を持つかつての神「黒猫タロ」と、その神より絶大な力を授かった「従者アリス」。
だが、アリスはタロの魔力なしでは力を行使できず、タロもまた魔力しか持たず力は発揮できない。
そんな一人と一匹の冒険は多くの人との出会いや別れを繰り返し、やがて『世界』と『神』を巻き込んだ物語へと繋がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる