36 / 144
裏の動き
しおりを挟む
烈たちを見送った後、ミアは何食わぬ顔でその場を離れた。ゆっくりと、気配を消して物陰に入ると、彼女の後ろから声を掛けるものがいた。
「お久しぶりです」
男の声だ。ミアは後ろを振りむかなかった。誰だか声を掛けずともわかっているようであった。
「キースか。この前のあれは何だ?」
ミアの後ろにいたのは、長身で細身の、赤毛の男---烈とともに武術大会の予選を勝ち抜いた男、キースが膝まずいていた。だが、今の彼に予選の時のような軽薄な雰囲気はなく、ただ職務を全うしようとする裏の気配のする人間のそれだった。
「あれと言いますと?」
その時、ミアはゆっくりと振り返った。怒気によって、目が爛々と輝いている。その眼光の強さだけで、何人か殺せそうだった。キースが緊張で身震いする。彼は慎重に言葉を選んで答えた。
「申し訳ありません。差し出がましいことをしました」
「そうだな。言いたいことがあるならはっきり言えばいい」
「では、僭越ながら。御身は大勝負を控えた大事な身、徒に側に素性の知れぬものを置くのはどうかと思いまする」
「......なるほどな。それで?」
「それで? とは?」
「お前がそんなことを気にする男ではないことは知っている。キースとしての言葉を言えと言っているのだ」
「......ははぁ。流石、誤魔化せませんねえ♪」
そういうキースの表情は、武術大会の時のそれであった。
「まあ、どんな奴か見てみようと思ったのは冗談じゃありませんよ? なんたってこの一年、供のものを頑なに拒んできたのに、急に二人も連れる気になったんですからね」
ミアもキースの雰囲気が柔らかくなったのを機に、相好を崩した。
「まあ、色々あってな。タイミングというやつさ」
「ははぁ。ま、あのラングという男を取り込んだのはすぐにわかりますがね? レツは謎だったんですよ」
「どう思った?」
「レツのことです?」
「ああ」
「そうですね、どことなく貴方に似ているかと」
そう言って、ミアはにんまりと笑った。まるで悪戯が成功した子供みたいである。
「お前もそう思うなら、私の人を見る目は確かだな」
「なるほど......まあ、そこは置いておいて、本題に入らせてもらいます♪」
「うむ、で? どうだ?」
「はい、ハイデッカー公、ロンベルク伯、マヌア候を始めとした方々は殆どが軟禁状態で連絡も取れないです。また、東西南北の主要拠点の要人たちの殆ども抑えられ、動きが取れない状態です」
「ルードブルクはどうだ?」
その質問にキースはにやりと笑った。
「相も変わらずです。どうにか首都の要請を、のらりくらりとかわしていますよ♪」
「ふっ、流石だな。キース」
「はい」
「皆に伝えろ。近日中に反撃の狼煙をあげるとな」
「かしこまりました♪ 団員一同、今か今かと舌なめずりをしながら待っていますよ♪」
「ああ、楽しみにしていろ」
鮮烈なミアの笑みに対して、キースはぺこりとお辞儀をすると、静かにミアとは逆の方向へ去っていった。
それを見ながらミアは、遠くドイエベルンの首都、ベルンに思いを馳せた。
「待っていろ、兄上。もうすぐだ」
ミアはまた、猛獣のような、戦士の笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです」
男の声だ。ミアは後ろを振りむかなかった。誰だか声を掛けずともわかっているようであった。
「キースか。この前のあれは何だ?」
ミアの後ろにいたのは、長身で細身の、赤毛の男---烈とともに武術大会の予選を勝ち抜いた男、キースが膝まずいていた。だが、今の彼に予選の時のような軽薄な雰囲気はなく、ただ職務を全うしようとする裏の気配のする人間のそれだった。
「あれと言いますと?」
その時、ミアはゆっくりと振り返った。怒気によって、目が爛々と輝いている。その眼光の強さだけで、何人か殺せそうだった。キースが緊張で身震いする。彼は慎重に言葉を選んで答えた。
「申し訳ありません。差し出がましいことをしました」
「そうだな。言いたいことがあるならはっきり言えばいい」
「では、僭越ながら。御身は大勝負を控えた大事な身、徒に側に素性の知れぬものを置くのはどうかと思いまする」
「......なるほどな。それで?」
「それで? とは?」
「お前がそんなことを気にする男ではないことは知っている。キースとしての言葉を言えと言っているのだ」
「......ははぁ。流石、誤魔化せませんねえ♪」
そういうキースの表情は、武術大会の時のそれであった。
「まあ、どんな奴か見てみようと思ったのは冗談じゃありませんよ? なんたってこの一年、供のものを頑なに拒んできたのに、急に二人も連れる気になったんですからね」
ミアもキースの雰囲気が柔らかくなったのを機に、相好を崩した。
「まあ、色々あってな。タイミングというやつさ」
「ははぁ。ま、あのラングという男を取り込んだのはすぐにわかりますがね? レツは謎だったんですよ」
「どう思った?」
「レツのことです?」
「ああ」
「そうですね、どことなく貴方に似ているかと」
そう言って、ミアはにんまりと笑った。まるで悪戯が成功した子供みたいである。
「お前もそう思うなら、私の人を見る目は確かだな」
「なるほど......まあ、そこは置いておいて、本題に入らせてもらいます♪」
「うむ、で? どうだ?」
「はい、ハイデッカー公、ロンベルク伯、マヌア候を始めとした方々は殆どが軟禁状態で連絡も取れないです。また、東西南北の主要拠点の要人たちの殆ども抑えられ、動きが取れない状態です」
「ルードブルクはどうだ?」
その質問にキースはにやりと笑った。
「相も変わらずです。どうにか首都の要請を、のらりくらりとかわしていますよ♪」
「ふっ、流石だな。キース」
「はい」
「皆に伝えろ。近日中に反撃の狼煙をあげるとな」
「かしこまりました♪ 団員一同、今か今かと舌なめずりをしながら待っていますよ♪」
「ああ、楽しみにしていろ」
鮮烈なミアの笑みに対して、キースはぺこりとお辞儀をすると、静かにミアとは逆の方向へ去っていった。
それを見ながらミアは、遠くドイエベルンの首都、ベルンに思いを馳せた。
「待っていろ、兄上。もうすぐだ」
ミアはまた、猛獣のような、戦士の笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる