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バリ国王

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 勝ち名乗りを上げられた後は、表彰式であった。闘技場は円形状になっており、正面の大門と真反対に、来賓用の席とそこへ通じる階段があった。烈は会場中から拍手を浴び、マルサ領主に誘われて、国王の待つ座へと階段を踏みしめながら、登って行った。

(流石に、一国の王に会うというのは緊張するな。ダストンは残酷な王と評していたが果たして......)

 烈は嫌な予感がしながらも、階段を進んだ。両側には第三軍の連中がおり、剣でアーチを作っている。

(どいつもこいつも殺すような目つきで見てくるな。まあその軍の将軍を倒してしまったわけだから無理もないが......俺、このまま斬られるんじゃないか?)

 烈はひたいに冷や汗を流しなら、階段を登り切った。どうやら国王は天幕の中にいるようだった。顔は見えず、豪奢な衣装を着ているところしか見えない。傍らには、初老の男性がひっそりと控えていた。烈はマルサ領主に指示されたところまで歩み、膝をつく。この世界の礼儀作法など知らないが、なるようになれという気持ちだった。

「第二十七代国王。ドラモンド・オーラ・リーバス陛下であられます。頭を下げてください」

 烈はマルサ領主に指示された。

 一瞬の沈黙が永遠に感じる。烈は天幕から下がる薄いベールで覆われている国王が声をかけてくれるまで待った。

「お前、名はなんと言った?」

 やがて、奥から男の声がした。壮年の男だろう。伸びやかな声で深みのある声が、その人物の器の大きさを表しているようであった。

「はっ! レツ・タチバナと申します」

「そうか......シバ将軍を倒したその腕、見事であった」

「ありがたきお言葉です」

「うむ......どうだ? 私の下に来ぬか? お前に将軍の位を用意してもいい」

「陛下!?」

 国王の横にいる初老の男が血相を変えて叫ぶ。

「我が軍をこのどこの誰かもわからぬ男に託すというのですか!? お戯れが過ぎまする!!」

 その諌言をを国王は片手を挙げることで制した。

「構わんだろう。シバ将軍を倒したのは剣の腕だけにあらず、その兵法もだ。これほどの男ならば使ってみる価値はある」

「しかし!......」

「私が構わんと言っているのだ。ランド候」

 ランド候と言われた初老の男は、それっきり黙ってしまった。国王は手で頬杖を突きながら、再度意識を烈に向けた。

「それで? どうだ?」

 烈はごくりと喉を鳴らした。

「ありがたきお言葉です。しかし、それは叶いません」

「貴様! 無礼な!!」

 初老の男が語気を強める。

「よい、ランド候。黙っていろ......」

「......ははっ。差し出がましいことをいたしました」

「うむ。だが、レツ。私も気になるな。大陸七国の一角に数えられる私の誘いを断るというのは、中々豪胆なことだぞ?」

「はっ、俺......私はまだ誰かに使えようとは思えないからです」

「ふむ? つまり私では使えるに値しないと?」

「いえ! 決してそういうわけでは......」

「ははっ。意地の悪いことを言った。許せ。おい! 誰かレツに賞金を渡せ」

「お待ちください。陛下。賞金はいりませぬ」

「うん? というと?」

「はい。代わりに一つお願いがございます」

「ほう? 言ってみろ」

「はい。ここに囚われている奴隷たちを解放していただきたいのです」

「ふむ......奴隷たちをか」

「貴様! 先ほどから聞いていいれば図に乗りおって。ここで叩斬ってくれる!」

 ついにランド候の堪忍袋の緒が切れたようであった。剣の柄に手をかけ、こちらへ近づこうとする。しかし、それを止めたのも、また国王であった。

「ランド候、下がれ」

「ですが、陛下。こやつは陛下の慈愛につけ込み、ことをなそうとする極悪人ですぞ」

「ランド候......私は下がれといったのだ」

 国王の視線を受けて、ランド候は本格的に黙った。

(やはりこの国王、威厳と威圧を兼ね備えている。強い国王だ)

 すると、おもむろに国王がすくりと立ち上がって、ベールからでてきたではないか。烈は国王の姿を見た。

(青い目に、整えられた髭。偉丈夫だな。だがその眼光はどこまでも鋭い。残酷というより、敏腕経営者といった感じの方が強いな)

「配下が失礼をしたな。レツ」

「いえ! 決してそのようなことは」

「うむ。それでだ、レツ。奴隷解放のことだがな、少々釣り合っていないように思うのだ」

「というと? うむ、知ってか知らずか、彼らは亡国の戦士たちでな。我々もあの戦に勝つのにそれなりの犠牲を払ったのだ。しかも王族までいる。たかが、100ゴルドでは釣り合いがとれんのよ」

「......」

「そこでだ!」

 バリ国王が烈に顔をぐいっと近づける。

「レツ。解放に当たって条件がある」

「な......なんでしょう?」

「うむ! 私が助けを求めたときに一度だけ、助力をしろ! それが例え---例えば敵同士であったとしてもだ」

「助力ですか? しかし、そのような口約束でよろしのですか?」

「レツは戦士であろう? 戦士としてここに誓え。さすれば口約束で構わん」

「......承知いたしました。では戦士の剣と誇りに掛けて、今日このご恩に報いるため、レツ・タチバナは陛下に一度だけ助力することを誓います」

「うむ! それでいい。領主!」

「ははっ! ここに!」

 自分が呼ばれると思っていたのか、マルス領主は冷静に国王の下知を待つ格好となった。

「レツの望み通り、今いる奴隷はすべて解放しろ」

「承知いたしました。早速手続きに入ります」

「うむ。ああそれと、100ゴルドも渡してやれ」

 そして国王は烈に向き直った。

「ではな。レツ。また会う日を楽しみにしている。はっはっはっ!」

 国王は高笑いをしながら後ろへと去っていった。

(あれは大物だな......)

 烈は伝え聞いていた国王の印象と違うことに、少なからず好感を覚えるのであった。
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