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明日への誓い
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一回戦が終わると、出場者は一旦帰された。烈は解放された心地で帰路についた。
(少し疲れたな......)
ふうっと息を吐きながら、宿の前に着く。そして、ゆっくりと扉を開けると......
「よう! おかえり!」
中から歓迎する声が聞こえた。
「ラング。ミアもいたのか」
「お~う。見てたぜ。今日の試合」
「それは、恥ずかしい所を見せたな」
「そんなことねえよ。堂々の二回戦進出だ」
「いや、ぎりぎりだったさ。特にダストンは強かった」
「だが、お前なら負けるわけないだろう?」
「ミア?」
ミアが仏頂面で口を開いた。
「なぜわざと負けようとしたんだ?」
「......わざと負けようとしたわけじゃないさ」
「私の目が誤魔化せるとでも?」
「......参ったな......」
烈は頭をポリポリと掻きながら、二人のいる円卓に座った。
「確かに、途中まで負けてもいいとは思ってた」
「ほう? そりゃまたなんで?」
ラングが意外そうに聞いた。
「ダストンが......対戦相手の男なんだが、勝てば奴隷たちが解放されるっていう話だったんでな。特段勝ちたい理由もないのに、勝ってもいいものかと悩んだんだ」
「なんとまあ。100ゴルドと、何の関係もない奴隷たちの自由を天秤にかけたのかよ」
「変か?」
「まあ、変だな。普通そこで悩まんだろう。知り合いでもなし」
「かもな。だが、なんとなく、彼らがそうであることが嫌だったんだ」
「嫌だったねえ......あんまりよくわからんが、烈がそう思うんなら俺が口を出すことではないな」
「助かるよ」
「おう、で? なのにどうして勝っちまったんだ?」
「ミアさ」
「私?」
つまらなそうに聞いていたミアが、途中で名前を挙げられて怪訝そうな顔をする。
「ああ。ちらっと観客席のミアが見えたんだ」
「ほう? 私の顔で元気でも出たか? 美人に生まれてよかった」
「ははっ。いや、なんでかな? ミアを見て思ったんだ。負けるところを見せたくないって」
「......」
「なんでかな?」
「知らんよ。だがな」
その瞬間、ミアは円卓を乗り越えて、烈の胸倉をがっとつかむ。その目は何よりも雄弁に、意志を持って語りかけていた。それを烈は、穏やかな顔で、なすがままにされてる。
「お前は私が認めた男だ。私以外に負けることは何となく気に入らん。わかったか?」
「ああ、わかった。誓うよ。俺は勝つ」
「剣に誓うか?」
「ああ、剣とそしてミアに誓う」
「ならよし!」
そう言って、ミアは掴んでいた胸倉を放し、鼻歌交じりに部屋へと戻っていった。その様子を見ていたラングは難しい顔をしている。
「なあ、レツ」
「ん?」
「お前とミアは、恋人なのか?」
「いや? まさか」
「にしては距離が近い気がするな」
「そうか?」
ラングはこれ以上言っても無駄かと肩をすくめた。
「まあいいや。だが、奴隷のおっさんに勝ったのは正しかったかもしれんぞ?」
「どういうことだ?」
「あの将軍、やっぱり相当やるってことさ」
「ああ、試合を見てたのか? どうだった?」
「どうもこうもねえさ。相手はレツが予選で一緒だったキースって男だったんだが」
「キースが!? 負けたのか?」
「ああ、あいつも相当使えるみたいだったんだがな。途中までは互角に見えたんだが......」
ラングは急に歯切れが悪くなった。
「どうした?」
「いや......なんていうかな......剣を途中で見失ったようだった」
「見失った?」
「ああ、急に関係ない所で防御したりするようになったんだ。傍から見てると、変な動きをしているようにしか見えなかったよ」
「なるほど......」
烈は少し考えこむようにした。
「ミアは笑ってたから、カラクリが分かったみたいなんだが、お前にはわかるか?」
「うーん、実際にやってみないと分からないな。いくつか見当はつくが」
「俺にはさっぱりだ」
「まあ、明日の楽しみということにしとくよ」
「勝てそうか?」
「勝つさ。誓ってしまったからな」
そういう烈の顔は久しぶりに晴れ晴れとしていた。
(少し疲れたな......)
ふうっと息を吐きながら、宿の前に着く。そして、ゆっくりと扉を開けると......
「よう! おかえり!」
中から歓迎する声が聞こえた。
「ラング。ミアもいたのか」
「お~う。見てたぜ。今日の試合」
「それは、恥ずかしい所を見せたな」
「そんなことねえよ。堂々の二回戦進出だ」
「いや、ぎりぎりだったさ。特にダストンは強かった」
「だが、お前なら負けるわけないだろう?」
「ミア?」
ミアが仏頂面で口を開いた。
「なぜわざと負けようとしたんだ?」
「......わざと負けようとしたわけじゃないさ」
「私の目が誤魔化せるとでも?」
「......参ったな......」
烈は頭をポリポリと掻きながら、二人のいる円卓に座った。
「確かに、途中まで負けてもいいとは思ってた」
「ほう? そりゃまたなんで?」
ラングが意外そうに聞いた。
「ダストンが......対戦相手の男なんだが、勝てば奴隷たちが解放されるっていう話だったんでな。特段勝ちたい理由もないのに、勝ってもいいものかと悩んだんだ」
「なんとまあ。100ゴルドと、何の関係もない奴隷たちの自由を天秤にかけたのかよ」
「変か?」
「まあ、変だな。普通そこで悩まんだろう。知り合いでもなし」
「かもな。だが、なんとなく、彼らがそうであることが嫌だったんだ」
「嫌だったねえ......あんまりよくわからんが、烈がそう思うんなら俺が口を出すことではないな」
「助かるよ」
「おう、で? なのにどうして勝っちまったんだ?」
「ミアさ」
「私?」
つまらなそうに聞いていたミアが、途中で名前を挙げられて怪訝そうな顔をする。
「ああ。ちらっと観客席のミアが見えたんだ」
「ほう? 私の顔で元気でも出たか? 美人に生まれてよかった」
「ははっ。いや、なんでかな? ミアを見て思ったんだ。負けるところを見せたくないって」
「......」
「なんでかな?」
「知らんよ。だがな」
その瞬間、ミアは円卓を乗り越えて、烈の胸倉をがっとつかむ。その目は何よりも雄弁に、意志を持って語りかけていた。それを烈は、穏やかな顔で、なすがままにされてる。
「お前は私が認めた男だ。私以外に負けることは何となく気に入らん。わかったか?」
「ああ、わかった。誓うよ。俺は勝つ」
「剣に誓うか?」
「ああ、剣とそしてミアに誓う」
「ならよし!」
そう言って、ミアは掴んでいた胸倉を放し、鼻歌交じりに部屋へと戻っていった。その様子を見ていたラングは難しい顔をしている。
「なあ、レツ」
「ん?」
「お前とミアは、恋人なのか?」
「いや? まさか」
「にしては距離が近い気がするな」
「そうか?」
ラングはこれ以上言っても無駄かと肩をすくめた。
「まあいいや。だが、奴隷のおっさんに勝ったのは正しかったかもしれんぞ?」
「どういうことだ?」
「あの将軍、やっぱり相当やるってことさ」
「ああ、試合を見てたのか? どうだった?」
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「キースが!? 負けたのか?」
「ああ、あいつも相当使えるみたいだったんだがな。途中までは互角に見えたんだが......」
ラングは急に歯切れが悪くなった。
「どうした?」
「いや......なんていうかな......剣を途中で見失ったようだった」
「見失った?」
「ああ、急に関係ない所で防御したりするようになったんだ。傍から見てると、変な動きをしているようにしか見えなかったよ」
「なるほど......」
烈は少し考えこむようにした。
「ミアは笑ってたから、カラクリが分かったみたいなんだが、お前にはわかるか?」
「うーん、実際にやってみないと分からないな。いくつか見当はつくが」
「俺にはさっぱりだ」
「まあ、明日の楽しみということにしとくよ」
「勝てそうか?」
「勝つさ。誓ってしまったからな」
そういう烈の顔は久しぶりに晴れ晴れとしていた。
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