異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

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 開始と同時に闘技場は怒号に包まれた。

「待てこらぁ!!」

「逃げんじゃねえ!!」

「さっきまでの威勢はどぉしたぁ!!」

 同じ鎧姿をした男たち---第三軍の連中がたった一人の男を、血走った眼をして追いかけまくる。

「はいはい......と!」

 烈は追いかけながらも、その快足で時に刃を躱し、時に弾き飛ばすことで、多人数相手にも飄々と戦うことができていた。

「あらよ!」

 もちろん隙あらば、倒しておくことも忘れない。

「く......くそっ! 追いつけねえ!」

「鎧を着てないからだ。俺らより疲れないんだ」

「脱ぐか?」

「馬鹿を言え! 第三軍の誇りだぞこれは! 回り込むんだ!」

 広いとはいえ、今いる人数ならば、追い詰めることはできるはずだった。それなのに、一向に差が縮まらない。

「おいおい? そんなんでよく王軍が名乗れるな? もしかして、あの将軍も大したことないんじゃないか?」

 しかも、時折挑発までしてくる始末だ。

「なんだと! 将軍はすごいんだ! ちょっとドジだが!」

「そうだ! たまに料理を失敗して塩と火薬を間違えるくらいだ!」

「あと、稽古で剣を忘れて、物干し竿を持ってくるとか!」

「たまに寝間着で王城に来てしまうところとか可愛いんだぞ!」

「まごうことなきバカじゃないか」

「「「なんだと貴様!!!」」」

 どこかで誰かが怒り狂う声(「お前ら全員減給だぁぁぁ!」)と、それを必死で止めようとする声(「将軍いけません! 乱入すれば失格です!!」)がする。

(あいつら、この予選を通過しても殺されるんじゃないかな?)

 烈が第三軍の連中に少しだけ同情した。だが、彼らの数は徐々に数を減らしていった。原因は烈が少しづつ倒していったこともあるが......

「お前だあああ!」

 突如として、グッチが咆哮をあげる。その瞬間、鋼が殴り合う音が聞こえた。

「やべっ」

 鼻息を荒くする、グッチの眼前には、一人の軽薄そうな男がいた。

「貴様ぁ。さっきから追いかける我らを後ろから殴り追って。卑怯者! 名を名乗れ!!」

「いやぁ、合戦なら普通だろ? そっちの土俵で戦っているんだから文句は言わんでほしいな」

「なんだとぉ......」

 グッチがじりじりと男---キースとの間合いを詰める。

「ところでいいのか?」

「何がだ!!?」

「あんたのお仲間は一人も立っていないようだが?」

「何!?」

 グッチが後ろを振り返る。そこには騒ぐグッチに気を取られて隙だらけになっていた連中を、一人残した烈が余裕綽々と言った感じで立っていた。

「な!......な!......な!......」

「はい。ご苦労さんと」

 あまりのことに声を失っているグッチに対して、キースは剣の腹でごつんとグッチの頭を叩く。そこでグッチは目を回して気絶した。後に残っているのは烈とキースだけである。

「予選第5試合、勝者! レツ・タチバナとキース」

 あまりにもひどい戦い方に観客からはブーイングが飛ぶ。

「キース。こんなんでよかったのか?」

「最高だったぜ! レツ! 圧勝だったろ!」

「それはそうなんだが......色々と視線が痛い」

「まままま、気にすんなって。勝てばいいのさ!」

 そう言って、キースは烈の肩に腕を回した。烈もどこか釈然としない心持ながら、まあいっかと言った感じで、二人して控室へ戻っていった。
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