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 ラングは鼻歌混じりに闘技場の受付まで来ていた。

 武術大会の列に並び、エントリーの順番を待ちながら、辺りの参加者の値踏みをする。

(ふうん?)

 ラングは意外だった。そこまで強そうなのはいないと踏んでいたのだが、中々どうして、実力者が何人か紛れているようだった。

(これは何かあったかな?)

 いくつか思考をめぐらすうちにラングの番になった。ラングは軽快に受付の女の人に挨拶をする。

「よう! こんにちは」

「はい! こんにちは。武術大会の受付ですか?」

「ああ、そんなもんだ」

「かしこまりました。こちらの用紙にお名前など必須事項などお書きいただけますでしょうか?」

「ああ、申し訳ないんだが、俺は代理なんだ」

「代理......ですか? 失礼ですが、委任状や招待状のようなものはお持ちでしょうか?」

「いや、そういうものもないな」

「そうしますと、こちらでは受付するのが難しいのです......」

「まあまあ、お姉さん。早とちりしないでくれよ。ちょっと、これを見てくれないか?」

「はあ、これは......」

 そういうと、受付の女性の動きが止まった。そして、徐に立ち上がったかと思うと、近くの衛兵に何やら耳打ちした。衛兵は女性の話を聞くと驚いた顔をし、すぐにどこかへと駆けていった。「少々お待ちくださいませ」という女性に、ラングは「あいよ」と返した。

 そうして、しばらく待っていると、一人、初老の男性がやってきた。

「大変申し訳ございません。主人がお会いしたいとのことなので、こちらの方へお越し願いますでしょうか?」

「ああ、もちろんさ」

 そうして、ラングはその男に別室に通された。別室は簡素な部屋だった。中央に事務仕事をしている男が一人いて、そこに机と椅子があるだけである。男はいかにも貴族という、荘厳な雰囲気を漂わせていた。いつの間にか、初老の男は去り、部屋にはラングと貴族が残された。貴族は厳しい目でじろりと一度、ラングを睨むとそのまま事務仕事を続ける。ラングは肩をすくめた。

「お初にお目にかかります。ラングと言います。領主閣下」

「貴様らのことは好いておらん」

 突然の辛らつな言葉に、ラングはくすりと笑った。

「これはこれは。手厳しいですね」

「当たり前であろう? こちらが築き上げたものを利用することしか考えていないのが貴様らだ。バリ王国の歴史なぞ、糞か何かだと思っているんだろう?」

「いえいえ、まさか?」

 ラングの慇懃無礼な態度に領主閣下と呼ばれた男......マルサ領主はふんっと、鼻を鳴らす。

(この御仁は、こんなにいかめしい面をしているのに、誰にでも面と向かって文句を言うから憎めないんだよな)

 一方のラングは頭を垂れながらも、その顔は吹き出す寸前であった。なんとか平静を保ちつつ、ラングはこほんと一つ咳ばらいをした。

「それで? エントリーしていただけるんですかい?」

「断ることなぞできまい。王印なぞを持ち出しおって」

「申し訳ありません。少々強引にでも話を進めたかったもので」

「そういうところが気に食わんのよ。それで? 一人でいいのか?」

「は、レツ、レツ・タチバナというものをエントリーしていただけると」

「一人エントリーさせるくらいどうにでもなるだろう。強いのか?」

「強いです。に迫る勢いかと」

「ほう? 何者だ?」

「それを測るためにも、エントリーさせていただきたいのです」

「分かった。だが勝たせることはできんぞ?」

「それは問題なく。ただもしや強者がエントリーしておりますか?」

「ああ、すこぶるな。これを見てみろ」

 そういって、マルサ領主はエントリー者の名簿をラングに差し出した。ラングは恭しくそれを受取り、内容を確認する。そして、ある名前のところで止まった。

(なんて運の悪い。いやこの場合いいと考えるべきなのか?)

 ラングは苦笑しながら天を仰いでいた。
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