上 下
38 / 39

蛇足番外編 綺羅の恐怖体験のその後

しおりを挟む


イエスもブッダも、悪魔の誘惑に打ち勝ったという。つまりはそう言うことなのだ。



  その時俺は確かに"ZEN "の境地に居た。




……諦菩提薩婆訶、般ー若ー心ー経ーーぉ~ぅ……




すると、少しずつ読経のペースが落ち、締め括られた感じがした。

微かに何か余韻のような音がしているが、終わった感じがする。





ツッタンツッタンツッタンツッタン……ダダダン♪


はぁぁぁ………っと風船から空気が抜けるように、溜め息と共に全身の力が抜けていく。俺は丁度現れた信号に救われた思いで停車し、ハンドルに凭れかかって少しだけ休息を取った。

涙が出るくらい懐かしくて愛おしいEDMの電子音。

それは、イベントやモデルの仕事のBGM でも聴いたことある、割と人気の洋楽EDMだった。確か、機械の犬がレースしてたPVのヤツ……。

犬が疾走するようにトントンと、乱れに乱れた心拍数がリズミカルに少しずつ整えられていく気がする。息を吸って…吐いて……。

吸って…吐いて……。

「ふぅ……。」


己に打ち勝ったんだ!とか、無事に現世に帰ってこれたんだ…!!
みたいな謎の考えから来る幸せを噛み締めながら、俺は横でスヤスヤと眠ってる羅武を眺めた。

可愛い。

本当に無事に帰ってこれて良かった……。
いつの間にか、吹雪も治まっている……。あれは本当に何だったのか…。


と、チカチカと歩道の信号が点滅する。

休憩は終わりだ。
俺は軽く肩を上下させてから、ハンドルを握り直し、運転する態勢を整えた。

親戚のおじさんがやってるペンション迄後少し。

俺は気合いを入れ直し、安全運転を心がけてペンション迄の道を走った。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そんな事があってから暫く。


件の超怖い般若心経事件は、その後の幸せ展開にすっかり心の奥底に封印され、俺は羅武との幸せ同棲生活を満喫していた。

羅武は元々頑張り屋さんで成績も悪くはなかったし、緋狼に割いてた時間がなくなり、受験勉強はメキメキ捗った。

寧ろ、捗りすぎて残念な位。

軽くテストを作って、"時間内に80%以下の正解率ならお仕置ね♡"プレイをもっと楽しみたいのだが、最初にお仕置きと称して尿道バイブ突っ込んだまま抜かずで三発ほど抱いたら、凄く懲りてしまったらしく、以来カナリの正解率で、それからまだ二回しかお仕置プレイが出来てない。

今日は休憩日ということで1日勉強禁止で、羅武はスマホで音楽を流しながら楽しそうに漫画を読んでいる。

俺はそっと、羅武の横にカフェオレを置き、自分も隣で読みかけの推理小説を読みながらコーヒーを啜った。

はー……ほんと、幸せ♡

チラリと羅武を盗み見れば、ドキドキするサスペンス展開に瞳をキラキラさせて熱中していた。
羅武が俺の本棚の本を読みたがるので、俺も羅武の本を読んでるが、お互い、自分ではまず手に取らない表紙やタイトルなのに読むと中々面白くて…何だか良いなぁ、としみじみ思う。

近年の羅武の買った本はある程度把握していたが、好みじゃなくて売られた本、気に入った本、超気に入った本、そういった所までは判らなかったので、とても興味深かった。

トントンと洋楽のアップテンポなリズムにノリながらページをめくる羅武を愛でながらもう一口コーヒーを啜る。

と、その時だった。



仏説摩訶般若波羅蜜多心経~ぉぅ。

男性の朗々とした声。



   えっっっ


俺は余りの事に思わず固まった。


この声、これはあの時の……!!


そこから始まる爽やかなポップス般若心経に、俺が真っ青になっていると、ノリノリでリズムに乗っていた羅武がふと此方を見て、慌てた顔をした。

「あ、ごめん!いきなり般若心経でビックリしたよね。ごめんごめん。」

そういって数回タップし手を離すと、あの時俺が涙が出る程安心した洋楽EDMが流れ始めた。


つまり、あれは何の怪奇現象でもなく、ただプレイリストが順番通りに再生されただけだったんだ。


なんだ、と思うと同時に、己に打ち勝ったんだ!とか、無事に現世に帰ってこれたんだ…!!とか思った自分に顔が爆発しそうに熱くなる。

「~~~~っ!!……ねぇ、羅武、何でそのプレイリスト急にお経になるの?」

何でそんな変なプレイリスト作ったんだよ…。あの時、俺、どれだけ怖かったか……。
あの時の恐怖が羞恥を更に煽り、俺は羅武の顔を見れずに顔を手で覆って訊いたが、返答は凄くあっけらかんとしたものだった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...