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番外編ですよ。
3: 地味令嬢、おじいちゃんのおばあちゃんになる。
しおりを挟む彼の転生先は五歳のすばしっこい、常に餓死寸前を彷徨ってるような天涯孤独のストリートチルドレンだった。
しかも、八歳のぬくぬく育ったアメリカンキッズがだよ!?
彼等、一人で公園で遊ばないし、登下校も親が車でして、親留守の時はシッターがおるんよ??!
しかも彼、姉二人に兄二人の五人兄弟末っ子で、犬と猫が室内で戯れてて、毎日ワチャワチャした環境で、セントラルヒーティングの室内で、デカイ画面でゲームしてピザ食べてレッドプール飲んでポテトバリバリ食べて、ヘイマーク!ホームワークはもう終わったの!?とか言われてるのにファックユー!とか中指立てて、それでも溜め息だけで許される位甘やかされてたのに、そんなのがいきなり貧民街に放り出されるなんて…。
さぞかし怖かったろう。
幸い、元がそんなぬくぬく家庭の末っ子だったせいか、彼は現状を認識した途端わんわん泣き出し、マーミィー!ダディー!何処!?淋しい!お腹減った!痛い!寒い!等、全ての不調と不安を口に出し、そのせいで不憫に思った老婦人に拾われたそうだ。
そして、老婦人のお家のお手伝いをしたりしてる内に気に入られて身寄りの無い老婦人の養子になり、ちょっと文字や一般教養、行儀を教わり、ある程度育った頃に奉公に出て仕送りしながら生活。
老婦人が亡くなったら、少ないながらも財産と、手をつけてない仕送りが遺してあり、それを元手に少しずつ資金を増やし、学び、増やし……。
もう、マトモに話を聞いてられなくて、私はずっとハンカチを目元に当てて聞いていた。
一回チラッとみたら、マークもハンカチで目元を押さえて泣きながら語っていた。
辛かったね、怖かったね、良く頑張ったね……。
そんな事しか言えなかったが、そんな事をずっと言って欲しかったんだ、と言われた。
気が付けば、私は彼のしわくちゃでガサガサの手を握って話を聞いていた。
レッドプールを発売して30年、誰かが自分が転生者だと見つけて接触してくれないかと待っていたらしい。
「君がマンスターを発売すると聞いて、本当に嬉しかったよ。材質なんかは違えども、マンスターという名前も、缶のデザインも、そして、試飲させてもらった味も、あの頃のモノそのものの味だったから……。」
再び泣き出したマークを、私はそっとしわくちゃな手を握り締めて慰めた。無力で幼い貧民の孤児に転生し、誰にも言えず、必死に70年頑張り、今じゃ世界的な富豪となり、金で買った爵位は侯爵位にまでなった。
その過酷な人生を支えた手は、とても筋張り、古傷が縦横無尽に走り、そして、とてもあたたかった。
「私も、マークのレッドプールを見た時は嬉しかったよ♪何でマンスターじゃないの??とは思ったけどね。」
「私こそ、何故、待ち望んでいた同郷者がMの信奉者なのかと頭を抱えたよ…HAHAHAHAHA !」
そこから、前世と今生あわせて色んな事を話した。
ショッキングな事に、私の雰囲気は何故か彼の母より彼のおばあちゃんを彷彿させるようで、グラニー…Ohhh……と泣き出されてしまった。
そうなるともう、目の前の白髪の老人が八歳の坊やにしか見えなくて、私は思わず抱き締めて、その吹き飛ばした後のタンポポの綿毛みたいな白髪を撫でた。
「泣かないで、マーク…!遅くなってごめんね…。七十年も一人で良く頑張ったね!私がこっちで貴方のおばあちゃんになるよ!だから、泣かないで…!」
気が付けばそんなとこを泣きながら口走っていて、マークと二人でわんわん泣いてしまった。もしかしたら、私も淋しかったのかもしれない。
取り敢えず断罪回避に奔走し、生きるのに困らない豪華な生活の中で、勉強だとかあれやこれやで誤魔化してたけど、アラサー迄しか思い出せない過去に、少しばかりは未練を感じていたのかも。
いつの間にか彼を、おばあちゃんに呼ばれていた愛称、ムーンパイと呼ぶことになっていた。彼も私の事をグラニーと呼ぶことに。
何だか見た目とは逆な感じだが、まぁ、彼の中の八歳で止まったマークを思えば、それも良いかなって思ってしまった。
私はどうもアラサーで死んだとは思えない前世の思い出し方だったので、彼にそれを話し、もしかしたら、何かの衝撃でそこまでの記憶がひきだされただけで、本当のムーンパイはその後、病院でしっかり治療を受け、皆に囲まれて立派に育ち、誰かを好きになって、幸せな家庭を築いて、天寿を全うしたのかも知れないよ?なんて言えば、ムーンパイは嬉しそうに微笑んだ。
「だって、貧民の孤児からスタートして、七十年で世界的な富豪にして侯爵になったんだよ??そして、安心して侯爵位や商会を任せられる子供や孫達に囲まれて悠々自適の生活でしょ?
絶対、アメリカのマークもビール・ツゲイと一緒にゲームするような大物になってるって♪」
「そうだね♪ありがとう、グラニー。」
こんなの、只の気休めだ。
でも、それでも私達はその気休めに笑いあった。
その後は、彼がギリギリ知ってたスゴい衣裳で有名な女性シンガーの悪い恋を歌った曲なんかを振り付きで歌ったり、ポケットからモンスターな話をしてそんな子供じゃないと言われてショック受けたり…。
気が付けば、とっぷり日が暮れていた。
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