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番外編ですよ。
VD マウントヤンキーと護衛騎士の友チョコにして逆チョコにして義理チョコ。
しおりを挟む「もう、ケインたら!ずっとポケットにクッキー入れっぱなしなの?!酷いわ!粉になっちゃうじゃない!
折角ムンストーン様がムンストーン領のバターと小麦粉を分けてくださって作ったクッキーなのに!
他のご令嬢方と一緒にレシピを教わって作ったのだけど、やっぱり、一人で頑張って作ったものをケインに食べてほしくて…。
ムンストーン様にお願いしてバターと小麦粉を分けていただいて一生懸命作ったのに!ずっとポケットに入れっぱなしだったなんて!」
「ごめんよ、ジャスミン…!
でも、入れっぱなしだった訳じゃないんだ。只ずっと持ち歩いてただけなんだよ…!
ジャスミンの手作りクッキー、凄く美味しくて、でも一気に食べるのも勿体無くて、こうやって持ち歩いてちょっとずつ食べるのが一番長く楽しめる気がするんだ。
あ、後、砕けないようにスッゴク気を付けてるから、粉にはならないよ♡」
「もう!ケインたら……♡
そうだったのね、ごめんなさい。私ったら早とちりで…♡
そうなのね、チマチマチマチマ食べてたから、昨日から、いつキスしても貴方の唇、お砂糖みたいに甘いのね…♡」
「ジャスミン……♡」
前方の小路のトピアリー裏から聞こえてきた、同学年の子爵令息&令嬢カップルのデカイ戯れ言。
偶々絶妙なタイミングで差し掛かっていたパライヴァが厭そうな顔をしたのを見て、俺、アレクサンドロ・オブシディアンはニンマリ満面の笑みを浮かべてしまった。
背後でデクスターが鼻で嗤った音も聞こえる。
「…………!」
小路を抜けた先、庭園中央にある休憩スペースに、俺とデクスターが待ち構えているのに気付いたパライヴァが小さく身動ぎをした。
フッフッフッ……恐れ戦けパライヴァよ!多分お前の予想は当たってるぞ!
「っ!アレクサンドロ…!?と、お前はサンストーン令嬢の…!
知り合いだったのか?」
動きを止めたパライヴァの後ろから、せかせかとロンドミオが出てきて俺達の組合せに驚きの声を上げる。
まぁ、そりゃそうか。
「デクスターです。お久し振りです、トパーズ令息。先日、カメリアお嬢様の護衛で手作り茶会に参加しまして…彼とはその際に知り合いました。」
「護衛のバイトで呼ばれた先でデクスターと意気投合してな…。」
何の用だと睨む桃色組共に、俺達は悠然と嗤って見せた。
「ほら、受け取れよ♪」
スッとデクスターが俺の方に指で押した包みと俺の包みを風魔法でパライヴァの元に飛ばす。
黒い薄葉紙に包み、黄緑とモカブラウン、金と紫のリボンで括ったラッピングは勿論、先日見せびらかされたクッキーへのオマージュだ。
「わ、ナンだよ、コレ?」
手元に飛ばされて思わず出したパライヴァの手の内に、ぽそっと包みを乗せれば、興味津々といった顔でスチュアートが覗き込む。
「え、何々?ナニコレェ?」「……甘い、匂い。」「ンだぁ??」
「パライヴァ様は手が塞がってますしぃ、スチュアート殿が開けてくださいよぉ…!」
後ろから更にわらわらと群がってきた奴等が口々に興味を示し、ロンドミオとスチュアートが包みを開ける。
「「「「「「「…………………。」」」」」」」
ガサガサと包みを開けて出てきたのは一口サイズのココアクッキーにアイシングで装飾文字が書かれたクッキー。思わず全員が無言で見つめる。
その様子を確認して、俺は満を持して口を開いた。
「俺とデクスターからお裾分けだ。ちょっと作りすぎちまったんでな♪」
「……は?」
俺の言葉にパライヴァが訝しげに聞き返す。
「ほら、今年のバレンタインは令嬢達が手作りしたクッキーを恋人に贈ったり、令嬢方で一緒に作ったりして楽しんでるだろ?」
「元々は、どこぞの男爵令嬢のお裾分けクッキーが、令嬢が食べるには大きすぎた為に、ムンストーンご令嬢が食べやすいサイズにして、他のお菓子と一緒に温め直してお茶の時に美味しく頂いたのがキッカケでこの手作りブームになったそうですね…。」
どーせパライヴァ御一行は知らないだろうが、当然知ってるだろ、と言わんばかりの口調で言えば、パライヴァの眉がピクリと跳ね上がる。
それにしても、デクスターも中々イイ当て擦りをするじゃないか。
俺は俯いて口角が震えるのを隠した。
「こないだロンドミオから聞いたんだけどよ、食べてしまえばなくなってしまう儚いモノだけど、凄く幸せな食い物なんだろ?手作りの菓子は。」
「確かに、幸せな食べ物ですよね……。」
何とか笑いをやり過ごして言えば、デクスターが一瞬蕩けた顔してぽそりと呟く。ハイハイ、この初々カップルめ。
「ここ数日、自分の婚約者の友人方の手作りまで回ってくるようなヤツも居るってのに、そんな事を言いながらお前らはそういう気配もなさそーだし、手作りに飢えてるんじゃないかと思ってな。こういうのは友チョコって言うらしいぞ♪」
「折角なのでレックス殿と一緒に作ったんですが、つい、作りすぎてしまいまして…。良かったらご賞味下さい♡」
「ぇ……どれどれ…。お、結構ウマぐっ……」「バカ!皮肉言われてンのに食べんなよ…!バカスチュ!」
俺の言葉に、クスクス笑いながらデクスターがクッキーを薦め、スチュアートが素直に一つ齧り、ロードクロソートが怒って小突く。
背後は楽しそうだか、パライヴァは随分厭そうだ。俺達も何だかどんどん楽しくなってくる。
「確かに、この装飾字体アレクサンドロの筆跡だけど、でも、クッキーは料理人が焼いたンでしょ?ふんっ!ボク達はヒロインから愛情たっぷりの手作りチョコクッキー貰ったんだもん!飢えてなんかないよ!」
紫の髪を掻き上げ、黄緑の瞳でキッと此方を睨み付けてエメラルダス・ヘリオドールが言う。実に悔しそうだ。腹が震える。
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