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番外編ですよ。
VD ヤンキー、うっかり喧嘩を買う。
しおりを挟む「アレクサンドロ、此処に居たのか…。」
ザグリと砂利を踏みしめる音がして、背後から少し高めの男の声がした。
フェローが《法律と判例》の武官に関する項目をいまいち理解出来てないようだったから、理解の手助けになりそうな問題を幾つか作っておいてやろう…なんて思い、久々に人気のない庭園の東屋で本とノートを広げていれば、お邪魔虫に見つかったようだ。
はぁ、2月のテスト前の午前中に何故こんな所にくる?
俺、アレクサンドロ・オブシディアンは幼馴染みのロンドミオ・トパーズを溜め息混じりに見上げた。
「何の用だ。」
俺と入れ替わったフェローにこっぴどくやられて以来、暫く俺には近付かなかったのに、俺が武芸祭で房飾りを自慢して以来、コイツは又ちょくちょくちょっかいをかけてくるようになった。
流石にもう、パライヴァの側近にと誘う事は無いが、何だか今日も下らない事を言いに来た気がする。
「いや、別に……特にお前に用があって探していたとかではないんだ。ちょっと…、ちょっと休憩に静かな所でゆっくり菓子でも味わおうと思ってな!ァハハッ…」
……白々しい…。
そう思ってじっとり睨む俺の向かいに、薦めてもないのにストンと腰を下ろしたロンドミオは、いそいそと懐から真っピンクの包みを取り出した。桃色!という感じの包み紙にキャンディピンクのリボン……。
中から取り出したクッキーかビスケットの様なモノを、ロンドミオが嬉しそうに眺め、チラチラ此方を気にしながら齧る。
パキッボリゴリゴリ……と健康的な音が東屋に響いた。
「…………ほっほう…。」
スーーーッと感情が冷えていくのを感じながら、俺は呟いた。
そんな俺を、ロンドミオが嬉しそうに見返す。
曰く、もーすぐバレンタインデーとやらで?ヒロイン殿、今日は寮のオーブンの使い勝手を知るためにクッキーを焼いたんだそうだ。クッキー。へーぇ。クッキーね、クッキー……。ふっうーーん。
「……それで、自慢しようにもお前らグループ全員に配られてるから自慢しようがなくて、
わざわざ、俺を探して、今、目の前で、自慢のクッキー見せびらかして、御託並べて、自慢しまくってるワケだな?………どうだ?御満足か?ロンドミオォ……」
散々聞きたくない自慢話をされて苛苛しながら俺はロンドミオに問い返した。
「だって……これ、手作りなんだぞ?!凄くないか?!ヒロイン嬢があの可憐な手でこれを作ってくれたんだ……。嗚呼、こんなにも幸せな食い物があるか?アレクサンドロ…。」
皮肉にもロンドミオは熱く食い付いてくる。勘弁してくれよ……。
「……そこらの店で売ってる菓子だって、職人達の愛やら職人魂やらの籠った手作りだぞ?ロンドミオ。」
「判ってないなぁ!アレクサンドロ、令嬢が手作りするものがどれ程幸せをくれるか!君は令嬢の手作りなんて食べたことないだろう??ああ、ごめんね……幾らアレクサンドロでも、このクッキーは分けてあげれないんだ……♡」
「いらねーよ……。」
自慢は判ったからとっとあっち行ってくれ…。なんて思う位に辟易してる俺に、あろうことかロンドミオは更に言い募った。
「ああ、本当に……手作りとは素晴らしいものだよ……。
君もどなたかご令嬢に房飾りを手作りされて知った気になってると思うが……、食べてしまえばなくなってしまう儚いモノだけど、手作りの料理やお菓子は手芸品とは全然違うモノだよ…。
だってほら、考えてもみてくれよ……。刺繍や手芸は令嬢達の嗜みだけど、料理は高貴な人たちはしないものだろう?
それを敢えて、俺の為にしてくれたんだよ?……ほら、見て。♡形、可憐だろう??」
「………はぁ?? お前、喧嘩売ってんのか……。」
怒りの滲んだ声で低く問い返せば、ふんむ、と鼻息荒く此方を見返すロンドミオ。
呆れた……。つまり、コイツはハナから惚気じゃなくて、房飾りの件を根に持って喧嘩売りに来たってワケだ……。
「ロンドミオ、お前……、後悔するぞ……?」
俺が言い返せば、ロンドミオは嬉しそうに更にふんむ、ふんむ、と鼻息を荒くした。
全く、雉も鳴かずば討たれまいってのに……。
「バレンタインデーにも、菓子を手作りしてくれるそうなんだよ…♡」
そう嬉しそうに言い残してロンドミオは去っていった。
さて、喧嘩を買ってしまったものの、どうしようか…。
だからと言ってフェローに泣き付いて手作りをねだるのもなぁ……。
俺は問題作りを再開しながら、そっと長い溜め息を吐いた。
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