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時は来た!断罪の卒業記念パーティー!

321: ヤンキー、地味令嬢の秘密を目撃。

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そして、決定打になったのは、彼女を観察して2週間ほど経った日の昼下がりだった。

その曜日、彼女は午前にはこないので、俺はいつものように根城の中2階最奥で仮眠していた。
連日家業の隠密護衛を手伝ったせいで疲れて居たのだろう、うっかり昼下がりまで寝てしまい、起き抜けに、彼女はもう来ているだろうかと階下を覗いた俺は、衝撃で術が解けるかと思う位動揺した。

ポカポカとした陽溜まりの中、ぬくぬくと官能小説を読んでいた彼女は、ひっつめ髪をほどき、色眼鏡を外していたのだ。



正直最初は誰かと思った。テーブルにあの特徴的な色眼鏡が置いてあったので、それでやっと彼女だと確信を持てた位だ。

陽だまりの彼女は、ふわふわした白金の巻き毛が陽を浴びてキラキラ煌めき、金の睫毛に縁取られたアクアマリンの瞳はくるくると表情を変えながら真剣に小説の行を追い掛けていた。

余りに可憐で、思わず、手摺を飛び越え、風魔法でそっと近くに降り立ってしまった。

「お前、可愛いのに、態々変な眼鏡と飾り気の無い髪型で隠してたんだな……。」

彼女の実力では俺の認識阻害諸々は破れない。その確信があった為、堂々と斜向かいの椅子に腰掛け、呟いた。

それは、何だか心が落ち着く空間だった。
気取らない彼女が、俺の傍で読書してる。変に社交辞令や様式めいた会話を求められない心地好さ。

認識阻害を解除してもこんな関係を築けたら良いのに。

俺に気付けば他の令嬢達みたいに社交辞令や様式めいた会話を求めるかもしれない。だが、何だか彼女はそうではない気がして。


俺は、彼女は婚約者や想い人は居るのだろうか、なんて考えてしまっていた。

その時だった。彼女の雰囲気がガラリと変わったのは。

ごくり、と喉を鳴らし、アクアマリンの瞳を爛々と輝かせ、齧り付くように、貪るように行を読み進めていく。
その艶やかな唇が小さく動いて、音を発さずに何かを読み上げる。

これ以上勝手にレディのこんな姿を見てはいけない。

心の中の紳士な俺が警鐘を鳴らすが、俺は動けなかった。いや、動かなかった。
目が離せなかった。離したくなかった。

さっきまでの、日光浴をしている猫のような長閑な雰囲気は何処へやら。
唇を舐め、興奮した面持ちで字面を追うその姿をもっと見ていたかった。

彼女は、瞳を小説に釘付けにしたまま、髪を撫で、唇を指先でなぞり、ぷるり、と弾いてそのまま指を顎から首筋へと滑らせていく。

アクアマリンの瞳に憧れと欲を孕んだ光を灯し、麗らかな日射しも手伝った上気した顔でうっそりと微笑んで小説を読み進めていて……。
その半開きの唇から、舌がちろりと見えた。

右手で本を持ったまま、ゾクゾクした気持ちが抑えられない、と云うように下唇を噛み、何事か唇だけで読み上げ、己の太腿を撫でる。

彼女は官能小説の世界を空想し、俺は、そんな彼女を抱く空想をした。

こんな事は初めてだった。
女を知らない訳では無かったし、娼館等で淫らな事を見せ付けて誘ってくる女も何度か遭遇した。

だが、そのどんな経験よりも、今、日だまりでドキドキしながら空想を逞しくしている彼女の方が心を、欲を、掻き立てた。

その後、いつどうやってその場を離れたか良く覚えていない。
見てはいけない個人的な姿を覗き見てしまった申し訳無さもあったが、それ以上に彼女の衝撃的な姿が目に焼き付いて、その日は隠密護衛任務も身が入らなかった。

色眼鏡とひっつめの無い彼女は美しく、可愛かった。
そして、官能的なシーンに没頭していたであろう彼女は、官能に憧れる少女の危うさと小悪魔的な魅力を持ち合わせていて…。

あの時、彼女は空想の中で、どんな男とどんな行為に耽っていたのか知りたくなった。

俺を見たらどんな表情をするのか。

俺が触れたらどんな表情をするのか。

どんな声で喋り、どんな声で啼くのか。

官能小説以外では何が好きなのか。



社交辞令や様式めいた会話を求めてもいい。

婚約者や想い人が居ても振り向かせてやる。



気が付けば、そんな決意めいたものが出来上がる程彼女に夢中になっていた。


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