220 / 354
後期!
222: 地味令嬢とヤンキーは祭の後に想い出に浸り、やがてそれも想い出になる。
しおりを挟む「小舟に乗ったのを覚えてるか?」
アレックスが懐かしそうに呟く。
あれを忘れるワケないじゃん?
あんなデート、忘れる時は、
その記憶と引き換えに世界でも救う時だけだよ。
2人で小舟を借りて、花が垂れ下がって光るクラゲが泳いでいたあの水路を漕いで行く。
もう、季節では無いらしくて、
光るクラゲも魚もおらず、咲き乱れていた花も、闇に黒々としたシルエットを刻む蔦しか無かった。
「もっと南の方に生息する生き物を、
何代か前の王族が持ち込んで放流植樹したものだから、
もう寒くて冬眠期に入ってるのさ。」
アレックスがそう説明してくれる。
外来種とか、生態系保護とか、環境保全とか、
そーゆー概念はまだ無いらしいな。
船の舳先に付けたランタンだけが照らすテラテラと黒い水面は、
秋も深まったぞ。
と言う様に静かで重そうだった。
道理で、小舟を借りると聞いた爺さんがビックリしてた筈だ。
今頃の季節の夜に借りるなんて、滅多に無いのだろう。
それでも、私にとって、此処は何時でも想い出の様に幻想的で、
心がほかほかする場所だった。
花のカーテンだった蔦を潜り、池の中央に出る。
何だか胸がムズムズして、
もう、
我慢できなかった。
あの時歌った歌を、また歌う。
今はもう、光るクラゲも魚も、蛍も妖精もいなかったし、
花の1つも咲いていなかったが、
私の魔力は喉を正確に振動させ、
魔力に満ちた空間が音を奏でて、
小舟は1人で滑り出した。
歌いながら、指で水面を撫でれば、
ぽわぽわと魔力がネオンで作った蓮の様な花になり、
遊園地のティーカップみたいにくるくると踊り出す。
目を瞑って、あの時の思い出を思い出しながら目を開ければ、
垂れ下がる蔦や、周囲の梢が、色取り取りの電飾を飾られたように柔かな光の玉で覆われる。
アレックスはもう驚かなくて、只幸せそうに私を見つめていた。
歌い終わった後、チュッチュッとキスを促す妖精達は居なかったが、
池の中央で、私達は、あの時と同じように長く甘ーいキスをした。
そして、キスをしながら少々盛上がり、
小舟がひっくり返った。
あんまりにも可笑しかったので、
笑いながら、2人でひっくり返った小舟を牽いて泳いで戻った。
池の水温は、夏休みに泳いだ領地の湖よりも温かかった。
これで冬眠なんて、光るクラゲ達はうちの領地には棲めないな。
小舟を元に戻して、私達と小舟の水気をクリンナップで飛ばし、
2人できゃっきゃと互いにつついたり、逃げたり追い掛けたりしながら空き教室まで帰った。
領地より温かったとはいえ、冷えた体を暖めようと、
花の香りがする入浴剤をたっぷり入れた風呂に2人で雪崩れ込み、
お互いに髪を洗い合ったり、マッサージし合ったりしながらゆっくり浸かった。
額と額をくっ付けて、鼻と鼻で擽り合って、何度もキスをした。 啄むようにアチコチにキスを降らせたし、何度も舌を絡ませて、お互いの口の中のキモチ良い所を1つ残らず訪れた。
クスクス笑い合い、抱き合って、何度も何度も……。
夢中になってキスを重ねた。
気が付けば湯はほぼ水になり、動けばヒヤリとして、慌てて暖かいシャワーを浴びて風呂から出る。
馬鹿だなって言い合って、つつき合って、
2人で、ふやけた足の裏の皺のグロテスク加減にヒーヒー腹を抱えて笑い合った。
お湯を沸かして、あの時飲んだ、取って置きの工芸茶を淹れる。
アレックスが後ろから抱き締めて来て、私の肩に顎を乗せて、
工芸茶が花開くのを眺めたり、私の首筋や項にキスをして暇を潰す。
何だかイチャイチャしたくて、
ゆったりソファに座ったアレックスの膝に座って、
2人で暖かい、ジャスミンの花が浮かぶお茶をフウフウしながら飲んだ。
何だか凄い遠くの過去の様な、昨日のような、不思議な時間感覚で。
それが、日数にすると4ヶ月程前って云うのが、また不思議で。
あの時感じた、別の道に進むかもしれないと言う予感は、最近どんどん影を薄くしてて。
だけども、ふとした時に、色濃い影を落として……。
"貰った房飾りを付けて優勝すると結ばれる"
叶うといいなぁ、なんて。
叶わせるにはどうしたら良いのかな、なんて。
あの幸せ、
あの瞬間は、一生煌めき続けると今でも断言できる。
でも、私とアレックスの関係はあの時より少し変わった。
そっとピアスに触れて、
そっと小指を曲げて絡むピンキーの存在を意識する。
アレックスにいっぱい甘やかされてたあの頃。
少しでも、アレックスを甘やかしてみたいと奮闘する現在
でも、どちらも最高に幸せで。
あの時は、あの瞬間が"最高に幸せ"だと思ってた。
現在は、アレックスと出会ってから今迄ずっと最高に幸せで、
この先暫くも、その"最高に幸せ"が続くと確信してる。
ふわぁ、と欠伸が出る。
アレックスがくすりと笑って、そろそろ寝る?と聞いてくる。
コクンと頷いて、残りのお茶を飲み干す。
明日からも、悔いの無いように、
この幸せが少しでも長く続くように、頑張ろっと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*前回デートは39話です。参考までに。
12
お気に入りに追加
2,294
あなたにおすすめの小説
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる