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後期!

222: 地味令嬢とヤンキーは祭の後に想い出に浸り、やがてそれも想い出になる。

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「小舟に乗ったのを覚えてるか?」

アレックスが懐かしそうに呟く。
あれを忘れるワケないじゃん?

あんなデート、忘れる時は、

その記憶と引き換えに世界でも救う時だけだよ。



2人で小舟を借りて、花が垂れ下がって光るクラゲが泳いでいたあの水路を漕いで行く。

もう、季節では無いらしくて、
光るクラゲも魚もおらず、咲き乱れていた花も、闇に黒々としたシルエットを刻む蔦しか無かった。

「もっと南の方に生息する生き物を、
 何代か前の王族が持ち込んで放流植樹したものだから、
 もう寒くて冬眠期に入ってるのさ。」

アレックスがそう説明してくれる。

外来種とか、生態系保護とか、環境保全とか、
そーゆー概念はまだ無いらしいな。

船の舳先に付けたランタンだけが照らすテラテラと黒い水面は、
秋も深まったぞ。
と言う様に静かで重そうだった。

道理で、小舟を借りると聞いた爺さんがビックリしてた筈だ。
今頃の季節の夜に借りるなんて、滅多に無いのだろう。

それでも、私にとって、此処は何時でも想い出の様に幻想的で、
心がほかほかする場所だった。

花のカーテンだった蔦を潜り、池の中央に出る。
何だか胸がムズムズして、
もう、
我慢できなかった。

あの時歌った歌を、また歌う。

今はもう、光るクラゲも魚も、蛍も妖精もいなかったし、
花の1つも咲いていなかったが、
私の魔力は喉を正確に振動させ、
魔力に満ちた空間が音を奏でて、
小舟は1人で滑り出した。

歌いながら、指で水面を撫でれば、
ぽわぽわと魔力がネオンで作った蓮の様な花になり、
遊園地のティーカップみたいにくるくると踊り出す。

目を瞑って、あの時の思い出を思い出しながら目を開ければ、
垂れ下がる蔦や、周囲の梢が、色取り取りの電飾を飾られたように柔かな光の玉で覆われる。

アレックスはもう驚かなくて、只幸せそうに私を見つめていた。

歌い終わった後、チュッチュッとキスを促す妖精達は居なかったが、

池の中央で、私達は、あの時と同じように長く甘ーいキスをした。









そして、キスをしながら少々盛上がり、


小舟がひっくり返った。


あんまりにも可笑しかったので、
笑いながら、2人でひっくり返った小舟を牽いて泳いで戻った。

池の水温は、夏休みに泳いだ領地の湖よりも温かかった。
これで冬眠なんて、光るクラゲ達はうちの領地には棲めないな。 


小舟を元に戻して、私達と小舟の水気をクリンナップで飛ばし、
2人できゃっきゃと互いにつついたり、逃げたり追い掛けたりしながら空き教室まで帰った。

領地より温かったとはいえ、冷えた体を暖めようと、
花の香りがする入浴剤をたっぷり入れた風呂に2人で雪崩れ込み、
お互いに髪を洗い合ったり、マッサージし合ったりしながらゆっくり浸かった。
額と額をくっ付けて、鼻と鼻で擽り合って、何度もキスをした。 啄むようにアチコチにキスを降らせたし、何度も舌を絡ませて、お互いの口の中のキモチ良い所を1つ残らず訪れた。
クスクス笑い合い、抱き合って、何度も何度も……。
夢中になってキスを重ねた。

気が付けば湯はほぼ水になり、動けばヒヤリとして、慌てて暖かいシャワーを浴びて風呂から出る。
馬鹿だなって言い合って、つつき合って、
2人で、ふやけた足の裏の皺のグロテスク加減にヒーヒー腹を抱えて笑い合った。

お湯を沸かして、あの時飲んだ、取って置きの工芸茶を淹れる。

アレックスが後ろから抱き締めて来て、私の肩に顎を乗せて、
工芸茶が花開くのを眺めたり、私の首筋や項にキスをして暇を潰す。
何だかイチャイチャしたくて、
ゆったりソファに座ったアレックスの膝に座って、
2人で暖かい、ジャスミンの花が浮かぶお茶をフウフウしながら飲んだ。

何だか凄い遠くの過去の様な、昨日のような、不思議な時間感覚で。
それが、日数にすると4ヶ月程前って云うのが、また不思議で。

あの時感じた、別の道に進むかもしれないと言う予感は、最近どんどん影を薄くしてて。
だけども、ふとした時に、色濃い影を落として……。


"貰った房飾りを付けて優勝すると結ばれる"


叶うといいなぁ、なんて。

叶わせるにはどうしたら良いのかな、なんて。


あの幸せ、
あの瞬間は、一生煌めき続けると今でも断言できる。

でも、私とアレックスの関係はあの時より少し変わった。
そっとピアスに触れて、
そっと小指を曲げて絡むピンキーの存在を意識する。

アレックスにいっぱい甘やかされてたあの頃。
少しでも、アレックスを甘やかしてみたいと奮闘する現在いま

でも、どちらも最高に幸せで。




あの時は、あの瞬間が"最高に幸せ"だと思ってた。

現在いまは、アレックスと出会ってから今迄ずっと最高に幸せで、
この先暫くも、その"最高に幸せ"が続くと確信してる。


ふわぁ、と欠伸が出る。
アレックスがくすりと笑って、そろそろ寝る?と聞いてくる。

コクンと頷いて、残りのお茶を飲み干す。




明日からも、悔いの無いように、

この幸せが少しでも長く続くように、頑張ろっと。






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*前回デートは39話です。参考までに。
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