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後期!

205: 地味令嬢と特別な満月と狂乱サバトとその周囲。

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談話室に飛び込み、灯りを付けると、
テーブルの上に所狭しとマカロンやらケーキやらシュークリームやら肉料理やらお菓子やらを並べていく。

入口付近にマンスターのタワーを作り、後ろを振り向くと、
パイを抱えた令嬢と煮物を抱えた令嬢が恥ずかしそうに立っていた。

パチパチ拍手しながら招き入れ、マンスターを勧め、
パイを頬張り、マカロンをつまむ。

煮物も美味しい、なんて言ってれば、
目を真っ赤に腫らした令嬢達がぞろぞろやって来て、
皆で宥めたり目を冷やしたり、肉を頬張ったりしながら笑い合った。

次から次へと、手土産片手に令嬢が入ってくる。

「Party ☆rock!! なんてね!」

何だか楽しくてソファの上でボンボン跳ねて、ランニングマンやらロボットダンスを披露する。
異国の民族舞踏ですか?って拍手喝采された。

次々楽器や唄、踊りを披露する令嬢が現れる。
談話室から前庭に出られる扉を開け放ち、月を見ながら合唱する令嬢、
肉を齧り微笑み合う令嬢、
ボロボロ泣きながらシュークリームの中身を吸い込む令嬢、
カボチャを求めてゾンビみたいに彷徨うバレリー。

あっという間に談話室はサバトの様な狂乱に包まれた。

ーーーーーーー

ーーー

ーー

「なんなのだ……一体。
 何故イキナリ乱痴気騒ぎが始まる?
 帰るに帰れぬし、ヤるにヤれぬ。」

「………楽しそうですね。というか、私の声とか、皆さんに聞こえてたんでしょうか……。」

「声など、聞かせてやればいい。
 だが、こうも近くで寝間着の令嬢にうろつかれては
 流石に萎えるな。
 ……何だその顔。
 パーティがしたいなら今度王宮でも何処でも開いてやろうではないか。」

「……そういうんじゃ……パーティじゃなくて…。
 ……おなかすきません?
 ほら、ぇと、チキン美味しそう。ほらほら。」

ーー

ーーーー

ーーーーーーー

そんな会話が真上でされてるとも知らず、私はソファで跳び跳ねた。

「「ぁぁぁ、私、今、はしたないことしてるぅ~。」」

「アハハ!アハハハハハ!」

「はしたないのに、はしたないのに楽しい!!」

私に半ば強引に誘われた令嬢達がソファトランポリンの虜になってるのを楽しく眺めながら、
私もボンボン跳ねる。
高級ソファは弾む弾む!

「アハハ!ほら!天井ターッチ!ほら!ほら!」

「「わー!凄い!私もやるやる!」」「ぇい!」「それ!」

どん!どん!ダン!どこどこ!ベン!どんどん!ドン!

真上でパライヴァがイライラしてるとも知らず、私達は天井をドンドン叩きまくった。

楽しかった。

一回パライヴァが床ドンし返したらしいが、はしゃいでたので全然気付かなかった。

「楽しい!アハハハハハ!」

「ムンストーン様、凄いはしゃぎ様ですけど、お酒飲まれました?」

控えめな先輩令嬢が小首を傾げて聞いてくる。可愛い!

「いや、お酒は飲んでないけど、今日はマカロン2ダースとマンスター4本飲んだかなー。」

「圧倒的シュガーハイ!ムンストーン様、圧倒的シュガーハイですわ!いのちだいじに!ですわ!」

そう言う先輩令嬢は、多分今スナックハイだ。
たっぷり塩がかかったポテトチップスとポップコーンをムッシャムッシャ食べている。

「かんぱーい!かんぱいかんぱいかんぱーい!!」

一度も話した事ない令嬢に炭酸飲料を渡されて乾杯する。炭酸泉が領地にあるんだそーだ。
へー。
スナックを食べて炭酸を飲んで、また違う人が話しかけてきて、もみくちゃになりながら皆で笑った。

ーー

ーーーーー

ーーーーーーーー

かさり、と草葉を踏みしめ、数人の令息が植え込みの陰を進む。

「おい、こっちだ。さっきそっちに行った奴が守衛に捕まってた。」

「よそうよ……令嬢達を覗き見するなんて悪趣味だ。
 幾らはしたなく騒いでるとは言っても、女の子同士
 だからだろ?
 うちの姉貴も月はちょっと変になるから判るよ。
 キャァキャァ可愛い声が聞こえるだけで良いじゃないか。この辺で声だけ聞いとこうよ……。」

「嫌なら付いて来るなよ!
 俺は令嬢達のあられもない寝間着姿が見たいんだ。
 こんなチャンス二度とないぞ!」

「そーだそーだ、家柄も容姿もパッとしない俺らなんかが沢山の令嬢の寝間着姿を見るなんて、これを逃したら一生無い。俺は行くぅべっ!!」

「ぉ、おい!大丈夫……ぐわぁ!」「う"っ…!!」

コショコショと仲間割れをしている令息の背後に、
音もなく降り立つと、全員気絶させ、
アレックスは黒尽くめ衣装のまま、ふっ、と息を吐く。

「悪いが、これ以上ハッキリとは、
 声すら聞かせるつもりはない。もっと離れてたら見逃したがな。」

アレックスは、ごろりとパライヴァの影達が見つけてくれそうな辺りに令息達を転がして、女子寮の方を見つめる。

「全く、折角月を見ながら過ごそうと、
 色々旨い土産を揃えて急いで帰ってきたのに……。
 俺の性悪猫は。」

こいつらの言う通り、
令嬢達の寝間着姿を見る訳にはいかないからな……。
アレックスはそう独り言ちて、ピアスの集音機能を起動させる。
対象は、対のピアスを装着している者の声。

暫く、月だとか、美味しい、楽しいとワァキャァ騒ぐ声が聞こえる。

その声を聴きながら、アレックスは男子寮から来る不届き者を見張りつつ、ノンアルモヒートをマジックボックスから出して一口含む。

ピアスから聞こえる声が、ノンアルモヒートを振る舞いだしたから。

令嬢達がこぞって前庭に出て月を眺め始めたようだ。
ピアスの声が、王都だと赤みが強く見える、と嬉しそうな声を挙げる。

そう言われると、何時もよりも月の赤みが鮮やかに感じてくるから不思議だ。

『あーあ……アレックスと見れたら良かったのに……。』

ピアスの集音機能だからこそ拾えた、ぽそぽそと小さく呟く声に、思わず頬が緩む。

「大丈夫、フェローとなら、明日も月は綺麗さ。」

明日は2人で見よう。

同じ月を見ながら、アレックスは1人呟いた。



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