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夏休み領地篇
87: 地味令嬢のおもてなし。屋敷は壊れてない、と黒騎士は呟く
しおりを挟む玄関へと向かう道中、
メイドも執事も敵襲か!?と思う程バタバタ走り回っていた。
折角クリンナップしたのに、と思い、
再度クリンナップしながらエントランス迄行く。
お忍びなのだろう、控えめだが美しい馬車が門を通ってやってくる。
ゆっくり近づいて来るのを眺めていると、
怒涛の勢いでお父様とお母様が滑り込んできた。
ネクタイを整えながらふうふう言ってるのでクリンナップで汗を飛ばしてあげる。
馬車が横付けされる寸前、
アーサーがお姉を抱っこして猛ダッシュで玄関扉の内側まで駆け込んでくる。
そこでお姉を降ろして、二人で優雅に歩いてエントランスに出てきた。
取り敢えず二人とお母様にもクリンナップをかけておく。
皆お疲れ様。
馬車の扉が開いて、黒髪のでっかい騎士、黒ローブを目深に被って顔がよく見えない青年、従兄弟のテリー君、そして、第三王子殿下が降りてきた。
何となく、耳のピアスを撫でると、黒尽くめの青年もそっと耳を弄る。
ゲームでは一切描写されないバイカラー第三王子殿下は紫と緑のオッドアイを持つ、赤茶髪の可愛い少年だった。
黒髪騎士に手を貸され馬車を降りると、きゅっと背筋を正して笑いかける。
「おはようございます!ムンストーン伯爵、伯爵夫人。アーサー殿、キャロリエン嬢、フェリシア嬢。」
「「「「「おはようございます。王子殿下」」」」」
皆で揃ってご挨拶をする。
王子殿下は、黒騎士を護衛のレオンハルト・オズボーン男爵。
黒尽くめを同じく、護衛の魔法剣士レックスだと紹介した。
こちらも父から紹介され、互いに一礼する。
その後はゆっくりと歓談しながら庭へ。
黒騎士は何処と無くキョロキョロ辺りを見回してる。
何だろう。
私はそっと歩調を落として、黒尽くめの横に付く。
私とは反対側を何となく眺めながら、ゆったり歩く黒尽くめの小指が、私の小指と一瞬絡んで、すっ…と離れた。
「~~~~~~!」
赤面してしまった私は、俯いたまま早歩きで先頭を追い越し、先に庭園にでた。
動き回る執事もメイドも、テーブルもクロスも、石畳も、急遽出してきた天幕も、進みながらぜーーーんぶクリンナップを掛ける。
照れ隠しに気合いを入れたせいか、広範囲にかけたせいか、両腕から細く小さな稲妻があちこちに走り、スカートが翻り、髪がほどけて逆立つ。
そう、漫画とかである、必殺技使ったり覚醒したみたいなシーンね。
只のクリンナップなんだけどね。
執事もメイドも超ぽかん!
ゴメン、調子に乗った。
ほら、動いて動いて!
慌てて髪を結び直してテーブル脇に控える。
お父様と王子殿下が入ってきた。
良かった。痛いシーン見られなかった。
若干黒騎士も、黒尽くめもといアレックスも、王子殿下も顔が引き攣ってるけどどうしたんだろう。どっか磨き残しあったかな?
メイドが並べるカトラリーにもざっとクリンナップを掛けて、王子の到着を待つ。
「さっきからかけてるのはクリンナップ?よく続くね。」
ニコニコ顔で王子が聞いてくる。きゃわわ♡
「ははは、娘は昔から何にでもクリンナップをかけよるんですわ。いや、お恥ずかしい。……ん、スマンありがとう。」
いつの間にか又汗だくになってたので、お父様から順番にクリンナップをかけていく。
まぁ、ダッシュ後は暫く汗かくもんね。
王子から順に席に着いていく。わたしはさりげなく、アレックスの向かいに座る。
マミー&ダディは軽くお茶飲んですぐに辞した。
キッズはキッズで仲良くな!という事かな?
お茶菓子は、料理長に頼んだお陰でマカロンやら砂糖菓子などで彩り豊かだ。
多分、贈り物だ気合い入れろと言われて、
マカロンに添え物として砂糖菓子飾りを付けたりしようと思ったんだろう。
お陰で、カップケーキに綺麗なアイシングとアラザンや花の砂糖漬けが乗り、
花が中に閉じ込められた二層ゼリーとマカロンで結構華やかに見える。
一昨日連絡来たよなカジュアル茶会ならこん位でOK♪
と1人胸を撫で下ろす。
ちょっと前に、カップケーキのアイシングを只管可愛くする修行させといて良かった♪
恐らく昨日焼いたであろうカップケーキを齧る。
ダディの指示ならシュークリームタワーとか一面茶色い焼き菓子だらけになってた筈。
想像して身震いした。悪くはないんだけどさ…。
王子の先触れを聞いて、大急ぎでカラフルなバタークリームを作り、冷蔵庫のカップケーキを可愛く飾り立て、マカロンの中身にする予定のピューレを一部ゼリーに流用し、大慌てでお茶菓子を作ったであろう厨房に想いを馳せる。
ま、世の中、パッと見派手なら大体誤魔化せるもんである。
おーいしー!
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