親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

120: 野次から乱闘へ。

「うおおーー！バドワイザ殿！頑張れー！！マングースの伝家の宝刀、ローリング殺法使ってもいいそー！回転だ！回転ーー！やっちまえー！！」

イタチの様でイタチでない、マングース獣人の青年がヤジを飛ばし、周りの獣人達にどよめきが走った。

ラミテル、レモンド、バドワイザの子女達によるラーテルの歌によって鼓舞されたのか、龍人に小中型獣人が牙を剥く姿に対する熱きリスペクトを隠さずはしゃぐマングース獣人の青年に、他の獣人達も恐る恐るだが声をあげたりし始める。

「龍人がなんだー！大型肉食獣人がなんだー！」「寒いとからっきしの癖にいっつもえらそーにしやがってー！」「遊びでブレス吐きやがってー！」「何にもしない大喰らいなのに、ふざけて畑を荒らすなー！」「風車吹き飛ばすなー！風車燃やすなー！」「水車壊すなー！倉庫吹き飛ばすなー！」「小作人を吹き飛ばして遊ぶなー！」「ブレスちらつかせて買い叩くなー！」

今まで言えなかった鬱憤がここぞとばかりに獣人達から迸る。

今まで、小動物達が何かやってるゾ、と面白半分に施設や畑を壊されても何も言えなかった草食獣人貴族達だったが、やられたことは全て忘れずに腹に溜めており、次から次へと出てくる。

「……は？　何だアイツら…痛でゥっ！！」

普段何しても何も言わない癖に今に限ってギャイギャイと騒ぐ獣人達にリュートが苛立ちを見せるが、余所見した途端に銀のお盆ががら空きのボディにめり込む。

「ヤダ！りゅーさまごめんなさい！！ムキーー！イオンウーウァが避けるからりゅーさまに当たったじゃない！ムカつくムカつくムカつく！！避けるなー！」

「あっはははははは！マリローズの番さま♡意外とどんくさいのね！」

「ギャウゥ！隙あり！！ウーァに仇なす不届き者めーー！」

「だから何度言ったら判るんだ！シャァァ！お前の番を狙ったりしてない！お前を殴ってるんだ！！」

更にヒートアップする四人に、同じくヒートアップする野次馬達。
こうなると野次馬の方も一悶着あるのが世の常で。

「うおおおおお！もー我慢出来ん！！アナグマがなんだーー！我等が爬虫類獣人の王！龍人が本気だしたらあんな毛むくじゃら一発でぺしゃんこスよねー！！頑張って下さい！セイロン様ーー！」

「はぁぁぁ！？？勝手に爬虫類獣人の王！とか言わないでくれるか？！あんな空飛んでブレス吐けるだけのトカゲのならず者の下についた覚えはねーよ！！」

我慢出来ずに叫んだ蜥蜴獣人に、近くの蛇獣人が即座に叫び返す。

「会う度に手足が無い出来損ないみたいな扱いしやがって！！蛇の流線ボディこそが完璧にしてパーフェクトボディなんですーー！！角に羽まで生やした無駄の多いボディしやがってえらそーに！木偶の蜥蜴野郎が！！」

「な、なぁにぃーー！！爬虫類の風上にも置けないヤツ！！キシャー！」

「んだと！？それこそドラゴンの事だろ！！ウギャー！噛みやがったな！シャァァ！！」

「キャァァ！！乱闘よ！！」「うわぁ！逃げろ！」「うわ！お盆も飛んで来たー！！」「痛い！良くも踏んだわね！」「うぎゃ！俺じゃない！！このぉ！お返しだー！」「痛い！誰だよ！！くそぉ！！」

口喧嘩がヒートアップして取っ組み合いになり、蜥蜴と蛇獣人がゴロゴロと転がれば、団子状の野次馬達がボロボロと階段を転がり落ち、幾人かがお盆の射程距離に入ってしまって悲鳴をあげる。

又、逃げ惑う内に踏んだり蹴ったり、したしてないで新たな乱闘がそこここで起きた。

こうして、あっという間に豊穣祭の神聖な広間は、熱気と喧騒に包まれ、慌ててシャンデリア上に逃げた雀獣人の男爵家カップルは、まるで下町料理人の作るレバニラ炒めの様だと怯え震えながら囁きあった。