親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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116: 登場!威嚇!そして見守る。

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「シャァァ! 下がれ!アナグマ風情が!!」

「きゃぁ!」「りゅーさま♡」

「ウーァ!!ギャウウウウ!ウーァに何するこの野郎!」

「そっちこそ!俺の番に何する!!この毛の塊!」

青龍のセイロンと呼ばれるブルードラゴンの龍人筆頭家の嫡男、リュート・セイロンが、登場するなり怒気を撒き散らし、マリローズの近くに居たイオンウーウァを吹き飛ばそうとする。

その行為に、慌ててイオンウーウァを抱き込んで庇ったラートンが怒りに牙を剥き、先程までの子供の喧嘩展開が一転、一触即発の獣の闘争になった。

(これがドラゴンの怒気……!!獅子のレモンでも辛そうなのに、まだ牙を剥けるなんて、流石だ、ラートン……。)

大型肉食獣人でも気圧されるドラゴンの怒気に、周囲の獣人達は石の様に固まってしまい、恐怖で気絶も出来ない状況に陥っている。
流石のモカ、テニー達も凍り付くなか、何とかラミテルとレモンドが膝を着きながらも耐えた。

だが、そんな中でも番を守ろうと揉み上げを膨らませて牙を剥くラートンに、ラミテルはそっと心中で称賛を送った。

「毛の塊だなんて失礼ね!ラァトは筋肉の塊よ!」

(いや、割と毛の塊でもあるかと…ってそこじゃないよ、イオンウーウァ様……。)

人族は"気"の様なものに鈍いのか、運命の番と高めあっている効果なのか、ラートンと同じくリュートの怒気に耐えられているイオンウーウァが怒鳴り返す。
が、そのちょっとズレた怒り様に、ラミテルは以前見たラートンのシャツから覗く豊かな腕毛と胸毛を思い出してそっと突っ込んだ。

「きゃぁきゃぁ♡りゅーさま格好いい!あんな毛むくじゃらこてんぱんよ!」

「あらあら、マリローズったら私との言い合いにも番さま♡の力を借りないと出来ないの?ま、そうよね。昔からマリローズはパパが村長だってエバってたものね!」

((エバ……??))

凍り付きながらも、周囲の貴族子女たちが、イオンウーウァの聞き慣れない言葉に頭を働かせ、多分威張るの方言的なものだろうと各々納得する。

「ムキー!何よ何よ!イオンウーウァだってパパ達が何か偉そうにしてるからって私達にお辞儀しなかったじゃない!!りゅーさま手出し無用よ!このバカムカつくデブーー!!」

そんな中、リュートの登場にキャッキャと喜ぶマリローズだったが、イオンウーウァの挑発にリュートを止めて自ら掴みかかっていく。

「俺の番には指一本触れさせない!……えっ。 ぁ、うん。えっ。」

そんなマリローズの態度と勢いにリュートは勇ましく前に出たものの急停止し、ポカンとしつつもマリローズを見守った。
その姿に、周囲は感心するばかりだった。

(セイロンの傲慢な嫡男も番の言うことを聞いてあげるんだな…)

「何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ!!」

「あは!あははははははははははははははは!!マリローズってば怒ると直ぐ掴みかかってくるんだから!お猿さんみたいね♪」

「ムキーー!何よ何よ何よ何よ何よデブデブデブデブデブ!!」

セイロン邸で、日々淑女教育と称して詰め込まれたダンスや身のこなし、護身術、魔法授業などの成果か、運命の番の効果か、すらりとした長い手足を華麗に繰り出してくるマリローズ。
その動きはお猿さんというよりは巨猿百烈拳とでも名付けたくなる華麗にして流麗な動きだったが、イオンウーウァはケラケラと笑いながらぬるりぬるりとそれらを躱した。

イオンウーウァも又、ラートンとバドワイザの牽獣達に乗って野山を毎日駆け、時に一緒に駆け回り、泳ぎ、飛び回り、ラートンの番に相応しい筋肉をそのむっちりした脂肪の下に修得していたのだ。

韋駄天丸達との遊びで鍛えた動体視力でマリローズの全ての攻撃を見切り、最小限の動きでぬるぬると避けていく。
その様子は、さながら悟り切った老武闘家の様に無駄無く滑らかだった。

「キィィー!ムカつく!!」

「ウーァ!!」「マリローズ!!」

小手先の攻撃では当たらない、とマリローズが変則的なフェイントの後にイオンウーウァに掴みかかる。
それを躱そうとして、イオンウーウァはいつの間にか広間の一角から中庭に繋がる長い階段に差し掛かっており、ずるりと足を滑らせた。

足を滑らせて逃げ損なったイオンウーウァの胸ぐらをがっしり掴んだマリローズと共に、イオンウーウァがぐらりと傾けば、焦った様に見守っていたリュートとラートンが駆け出す。


だが、二人が伸ばした手は虚しく空を切った。


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