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113: また一難、接近。
しおりを挟む「あら、何かしら?」「………騒がしいわね。」
さわさわとさざ波の様に囁き合う獣人貴族子女に龍人令嬢が数人耳を澄ます。
その中央で、マリローズは黙って渡されたグラスの液体を舐めるように飲んでいた。
アルコールの入ってないそれは、パチパチと舌の上で弾ける甘い炭酸水と、とろりとした紫色のシロップの二色が滲むように溶けていくお洒落だが子供向けの飲み物で、そんなものを渡してくる龍人達のマリローズを子供扱いする態度も気に入らなかったし、そのイオンウーウァの菫の瞳を思い出させる透き通った紫と、飾りの小さな若葉も気に入らなかった。
「……まぁ、どうやら、アナグマの運命の番にちょっかいをかけようとした鬣のある猫が一匹お仕置きされたみたいですわ…。」
「あら、アナグマの運命の番といえば、マリローズ様の同郷の方ではなくて?……確か、大変みすぼらしく暮らしていた田舎者だそうではないですか……フフフ♪」
「あら、まぁ……フフフッ…アナグマの次期当主もお可哀想に…♪」
(はぁ、当てこすりのオンパレードね……)
暗にマリローズもみすぼらしい田舎者で、そんな人族の平民を婚約者とするなんてリュートもラートンも不憫な事だと言ってクスクスと笑う龍の令嬢達を、マリローズは冷ややかに観察した。
マリローズを令嬢達の群れに残したまま、リュートは他の龍令息達と楽しそうに酒を酌み交わしている。
龍は酒に目がなく、強欲で、端的に言うとリュートは釣った魚に余り餌をやらないタイプだった。
宝物は集めて飾っとけば満足なのだ。
だがマリローズも、そんなリュートの運命の番なだけあって傲慢で、苛立ちはするものの、精神が弱ったりは微塵もないのだった。
(はぁ……こんなのと一緒に居る位なら、まだイオンウーウァの顔を見に行った方が楽しそうだわ。そうだ、確か、私は侯爵家で向こうは伯爵家なのよね??)
溜め息混じりに心の中で愚痴り、そしてマリローズは素晴らしい事に気付いた。
この国の貴族の身分差は絶対だと、身分などを意識したことの無いマリローズの為に端的に、少々誇張しても判りやすく、と言い切った家庭教師の言葉がマリローズの脳裏でリフレインする。
(つまり、以前みたいに私に跪かせれるってことよね?しかも、貴族の皆が見てる前で!!)
そうだ、そうしよう。
冷ややかに、憮然としていたのが一転、何処かウキウキいそいそと龍人令嬢達のドレスの間を抜け、広間の入り口へと向かうマリローズ。
だが、酔っぱらいつつ、クスクス笑いと共にマリローズを疎外するお喋りに夢中だった龍人令嬢達は、誰一人マリローズが抜けたことに気付かなかった。
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