親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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112: 一難落着。

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「フン!不届き者め!!」


「ラミテル様、我が婚約者が申し訳ありません。番様を傷付けるつもりは無かったと思うのですが……。少し酔ってイタズラ心を起こした様ですわ…。」

フーフーと鼻息荒く言い放つラミテルに、獣人の波を掻き分けて現れた獅子獣人の令嬢がスカートでレオベルを隠すように立ち、深く頭を下げて詫びた。

レオベルの婚約者のレオニーナだ。

深く頭を下げつつ、足でレオベルを後ろに寄せ、ついでにちょっと腹いせに踏みつけたレオニーナは、ニッコリ微笑んでラミテルを見詰めた。
その態度に、種族間の問題にしたくないのだという意思を感じたラミテルは、深く、ゆっくりと深呼吸しながら気を静める。

テニーの言葉にカッとなったが、元々、レオベルはレモンドに対して敵対心を持って近付いており、イオンウーウァの方は見ていなかったのを思い出したのだ。

レオベルが酔ってなどおらず、レモンドの幸せそうな現状に苛立って攻撃しようとしたのは二人とも判っていた。
レオベルは公爵家、ラミテルはバドワイザ伯爵家の傍系に過ぎない。だから、そんな行為も許されると踏んだのだろう。
実際は経済力や他国への影響力など、様々な要因から王族だってバドワイザのアナグマには強い態度には出れない。

だが、獅子獣人の政治は雄を盾にして雌が盾と盾で殴り合うスタイルの為、往々にして男は脳筋で知識不足の気があった。
レオベルも典型的な獅子獣人の男だったので、知らなかったのだろう。

ラミテルとしても、レオベルの態度は許せるものではなかったし、しっかりとヤツの態度と顔は覚えたが、種族間の諍いにするわけにはいかないということは判っていた。

チラリとテニーを見れば、俺は何も判りません♪とばかりにオコジョスマイルで見返され、ラミテルは思わず溜め息を吐く。
ラートンを見れば、成敗されたからもーいーやとばかりにイオンウーウァに一口サイズの菓子をあーん♡している。

(まぁ、愛しのレモンがしっかりアナグマ家門の一員として受け入れられている事を周知出来たようだし、今後レモンに何かしてくる愚か者は減るだろう……。)

アナグマは、巣穴に迎えた者家族への攻撃には一丸となって対抗する。
そしてレモンドはもう獅子獣人の出来損ないではなく、アナグマの"家族"なのだと……。

「はぁ、この様な場で理性を失くす程酔うのはどうかと思うぞ。婚約者殿には次は無いと言っておいてくれ…。」

ラミテルの言葉に再度深く頭を下げたレオニーナは、最後に微笑むと、レモンドに言った。

「良く言っておきます故……。それはそうと、遅くなりましたが、レモンド殿、ラミテル様、此度は婚約おめでとうございます。」

「ありがとうございます……。レオニーナ様も、此度は婚約おめでとうございます。」

再従姉妹のよそよそしい祝辞にレモンドは苦笑混じりに返答した。

(あくまでバドワイザのラミテルとその婚約者なんだな…。だが、今までは俺は居ないも等しい存在だった。……それに比べれば、随分と昇格だ……。)

同じ伯爵令嬢とは言え、王族と血が近いレオニーナが敬意を払うのもラミテルの生家が国で一番豊かな領の当主に次ぐ大きな家で、ラミテル自身も名の知れた女騎士だからだろう。

「愛しい私のレモン…大丈夫かい?」

そんな自嘲めいた事を考えていたレモンドに、ラミテルが気遣わしげに声を掛ける。凛々しく少し低めの、硬い物言いに愛情がぎっしりつまった甘い声。
それがレモンの心を明るく、軽くする。

「ありがとう。大丈夫だよ、テル…。」

(今の家族が本当に温かくて、幸せだから……。)

レモンドがラミテルをエスコートしてアナグマ御一行の元に戻り、レオベルがレオニーナに引き摺られて端の方に連れていかれ、騒動の終わりを知った他の獣人達もそっと胸を撫で下ろした。

だが、その騒動の音は大きく、広すぎる広間の奥に固まっていた龍人達の耳にも届いていた。

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