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107: さあ、豊穣祭だ!
しおりを挟む「うおーー!僕の可愛い奥さん♡♡なんて素敵な僕の可愛いウーァ!!」
ギャギャッ バサバサバサ……!
豊穣祭の朝、王都の邸に前々日から滞在していたラートン達一行が支度をしてエントランスに出てきたのだが、イオンウーウァの装いを見たラートンの大音声に近くの木立から鳥が一斉に飛び立った。
「わ、若様は今日も激しいですね……。」
領地の今年成婚若しくは婚約した子女が皆参加する為、一緒に滞在していたテニーが若干引き気味で言えば、隣で聞いていたレモンドがそっと耳の縁を朱に染める。
「レモン♡♡私の愛しいレモン♡♡今日もとても素敵だ!君はどうして立ってるだけでそんなに凛々しくて美しくて雄々しいんだい?まるで絵画の様だよ!はぁぁ♡こんな素敵な婚約者が居るなんて、私は世界一幸せ者だ……♡♡」
「テ、テル……」
何故若様の話をしてレモンドが耳を赤くするのか、とテニーが疑問に思った瞬間、弾けるような低めの女声が響き、テニーは納得した。
レモンドの婚約者にしてラートンの再従姉妹、ラミテルがうっとりした表情で近付いてレモンドのドレッド一房に口付けし、それからレモンドの両頬と唇にキスを降らせる。
(俺が若様の激しさにちょっと引いたから、もうすぐ同じ激しさが来ると知ってたレモンド殿は照れちゃったんだな。……何か悪い事しちゃったなぁ…。)
「ラミテル、幸せそうで何よりだが、世界一の幸せ者はこの僕だから、そこは譲れないな!ね、僕の可愛いウーァ♡♡」
そんなイチャイチャカップルにラートンがイオンウーウァを抱き締めつつ物申せば、ラミテルがイオンウーウァに微笑みつつもラートンと睨み合う。
「や♪イオンウーウァ様♪…悪いがラートン。私が一番幸せなのは譲れないな。見てくれ、この!我が婚約者の!愛らしさと!美しさを!兼ね備えた!素晴らしい姿を!!」
「なんの!ウーァの!この神秘的な!髪と!瞳と!愛らしい!相貌と!むちむち最高の!プロポーション!!」
「イオンウーウァ様がラートンの好みドンピシャなのは判ったが!レモンのむちむちの筋肉具合だって負けてない!!」
再従姉妹なだけあってラートンとラミテルは色々似てるらしく、臆面もなく大声で己の婚約者を称賛しだした二人に、周囲がどんどん胸焼けしたような顔付きになっていく。
「テル……もう、もうやめて…!」
「ラァト…もう少し声を小さく……。」
恥ずかしさにライフが0になっているだろう真っ赤なレモンドとイオンウーウァが何か言っているが、熱い闘いを繰り広げている二人には聞こえない様だった。
「アナグマって皆あんな感じなのかな……。ちょっと、照れるよね…。」
「や、貴殿……。」
背後から聞き覚えのある声がして、レモンドは驚いて振り返る。
婚約式の宴で一緒にイタチ系獣人の体力お化け具合に翻弄されていた、キリン獣人だった。
「へへ、何かね、伯父さんだか爺さんだかが男爵さんで、折角だから養女の手続きして豊穣祭出るんだってさ。俺の嫁さんだから、結婚したら平民になるんだけど……。」
次期当主とその運命の番と一緒に豊穣祭に出るというのはそれだけイタチ系獣人達にとっては栄誉のある事なのだろう。
レモンドが続々とエントランスに降りてくるカップルを良く良く見てみると、何処か貴族らしくない者、婚約するにはちょっと幼な過ぎる者などがチラホラ混ざっていた。
只、皆とても嬉しそうにしているのは同じだった。
「はい、お待たせしました皆さん!バドワイザのアイドルアニマル達の登場ですよ!さぁ、神殿に行きますよー!」
グーマの声と共にガラガラと韋駄天丸や流星梵天丸、明けの明星丸や宵の明星丸が曳く二頭立ての馬車がエントランスに入場する。
豊穣祭は毎年、その領の豊かさや威信なんかを示す場でもある為、バドワイザ領一早い韋駄天丸達に馬車を曳かせたりと派手に決めるのだが、今年はラートンとイオンウーウァの婚約もあり、金ピカに葡萄と菫を描いて更に豪華な花も飾り付けまくったド派手馬車五台と、気合い十分だ。
「さあさあ、皆さん!乗ってくださいー!」
屋根の代わりに青と紫の天蓋の付いたパレード用の馬車に、アナグマ子女達が嬉しそうに乗り込む。
「それでは、「「「「しゅっぱーーつ!!」」」」
こうして、ちょっと貴族が神聖な行事に赴くとは思えないテンションでバドワイザ領の豊穣祭出席者達は一路王城内の神殿へと向かった。
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