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102: 叱られて、回想する。
しおりを挟む「………それで?あんたらはどーして、あーなったって??」
ボロボロの体に鞭打って座る四人に、ボーファの低く険しい声が突き刺さる。
アクァリズ、バイライト、ロックウォータの三人は項垂れ、赤龍のアポローロはカタカタと震えながら膝の間に頭を突っ込んだ。
燃え盛る太陽の様な血気盛んにして傲慢で残酷な程の龍らしさを持っていた青年の無惨な姿に、アクァリズはそっと嘆息する。
そう、あれはバドワイザの宴も残すところ数日とアクァリズ達が知った日……。
ーーーーー
ーーー
ー
「なぁなぁ、バドワイザの宴、一月も続くってやつ、後少しで終わるらしーぞ。」
暇をもて余していたアクァリズとロックウォータにそう話し掛けてきたのはバイライトだった。
「なぁなぁ、見に行ってみよーぜ?ちょっかいかけなきゃいーだろ?遠くから千里水晶でよぉ!」
沢山の御馳走を食べ、飲んで唄って踊るらしいと聞き、正直興味もあり、羨ましくも思っていた。最近何だかひもじかったから。
千里水晶は、流石にセイロン領からバドワイザ領は無理だが、山2つ分位の距離を越えて景色を映す魔道具だ。その位離れた処から覗くだけなら、良いんじゃないか…。
結局、退屈だったのもあり、バイライトの提案に乗っかったアクァリズとロックウォータは、いそいそとセイロン侯爵邸を飛び立ち、一路バドワイザ領を目指した。
「なぁ!あんたら何処の誰?!なぁんだぁ!俺以外にもいるじゃん!同志同志♪イェーイ☆アナグマどもを蹴散らしてやろーぜ!」
そろそろバドワイザ領の手前の領が見えてくるか、という時、背後から猛スピードで追い付いてきて、ハイテンションで声をかけてきたのが赤龍のアポローロだった。
龍人特有の大きな羽を背中から生やし、龍化した大きな手をブンブン振っている。
アクァリズ達より幾つか年下らしき青年、アポローロ・エンロン。
隣国の侯爵家、赤龍のエンロンの分家である伯爵家の三男と名乗る青年は、赤龍と青龍の特徴が色濃いバイライトに親近感を持ったのか、人懐こく、すぐに青龍三人と意気投合した。
アナグマを蹴散らすぞー!と血気盛んなアポローロを宥め、手近な山に降りて千里水晶で覗くだけだとアクァリズ達が言えば、不服そうだったが、それでも大人しく付いてくる姿が妙に可愛らしく、アクァリズ達三人はそんな彼に持ってきたおやつなんかを振る舞いながら丁度良さそうな場所を探した。
そうして見つけた小高い丘の上で、アナグマの狂乱具合を笑いながら焚き火をし、持ってきた幾つかの酒とつまみでちょっとピクニックを楽しむ。
それで終わっておけば良かったのに、侯爵の酒倉から割と良い酒をちょろまかして来たせいか、アポローロの持ってきた酒とのちゃんぽんが良くなかったのか、四人は大分気が大きくなってしまっていた。
千里水晶が映す獣人達は、皆酔いどれ、楽しそうに肉にかぶりついていた。
どうやら今日が最終日らしく、大層賑やかだが、噂で聞いてたより大分人がまばらだ、とアクァリズ達は思った。
パリッという音が聞こえてきそうな、ぱつぱつに張りつめたソーセージにラーテル獣人がかぶりつけば、びゅびゅっ♡と肉汁が飛び散り、彼の縄の様な髭を汚す。
胸も腹も腰も大きいフェレットのご婦人が太い腕でジョッキを幾つも運び、テーブルに置いたと思ったらおもむろにその内の一つを呷る。
もう大分酔ってるのか、彼女の豊満な胸にチャパチャパと零れる液体は美しい赤紫で、酒好きの龍人達の喉がゴクリ、と鳴る。
野菜も食べなさい、と老婆が子供に薦める焼き野菜はどれも新鮮そうで、色鮮やかで、焦げ目も食欲をそそって……。
「なぁ、空にブレスで花火上げるから入れてくれー!って行ったらイケんじゃないかな??」
アポローロが硬いビスケットを齧りながら呟いた。
その目は大人一人分位の肉の丸焼きに釘付けだ。ウルヴァリン獣人が大きなナイフで切り始め、タラタラと肉汁が流れ出てくる。
それをちょい、とパンで掬ってむふふ♡と笑ったスカンクの町娘を、ウルヴァリンが窘めつつ、彼女の皿に一番旨そうな部位を乗せる。真っ赤で、柔らかで、脂が乗りに乗った極上のレアだ。
「……もしかしたらさ、ブレスにビビって……逃げるかもよ…?」
あのうまそーな肉を置いて………。
アポローロとアクァリズ達が見つめる先、水晶はスカンク娘が肉にかぶり付くのをどアップで映す。形の良い唇を潤す脂、赤い血。がぶり、がぶり、香辛料と塩が掛けられた分厚い肉を幸せそうに喰らっていく……。
肉は旨そうで、飲んだこと無い酒が沢山ありそうで、龍人達はひもじく、そして酔っていた。
イケるかもしれない。
そう、思ってしまった。
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