親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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100: 少し時を戻そう。

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「運命の番様にかんぱーい☆」「カンパーイ!!」

ラートンとイオンウーウァが少し大人の関係になる数日前。
中型龍人のボーファはイタチ系獣人達に紛れて宴に参加し、沢山の酒を仕入れてホクホクした気持ちで荷馬車を走らせていた。

プライド高く排他的な龍人に珍しく、ボーファは親イタチ派だった。
何故なら、彼の父が昔、同じ龍人に難癖を付けられて困っていた時に、ウルヴァリン獣人に助けられたからだ。
以来、彼の父は龍人の集まる里を離れ、イタチや他の獣人達に混じって暮らす様になった。
商人だった彼は、時々獣人達に代わって龍人達の商品を龍人価格で仕入れたり、獣人の為に龍人と交渉をしたりしながら、普段は行商をしていた。そしてウルヴァリン獣人に出会えばいつももてなし、ボーファに如何にウルヴァリン獣人が強く逞しく、優しかったかを言って聞かせた。

そうやって育てられたボーファが親イタチ、親獣人になるのは当然の流れで。
逆に龍人達の獣人を見下したような態度が鼻についてどうにも馴染めず、彼は父親以上の親獣人派になった。

そんな彼が、この度、バドワイザの次期当主婚約めでたいと、一月に及ぶ宴にいそいそと参加し、この日の為に集めた龍人達の商品を売り、ウルヴァリンに酒を振る舞い、ラーテルと歌い、オコジョと踊ってフェレットと御馳走を腹に詰め込んだ。

そうして空っぽになった荷馬車に、遥か北のウルヴァリン獣人の里名産の火炎酒やらオコジョの溶けない氷細工やらを詰め込んでホクホク顔で帰路についていたのだった。

(ウルヴァリンの火炎酒、それも特上のだ。きっと親父、喜ぶぞぉ♪)

地元から遠く離れた地で長らく商売をしていたが、火炎酒手土産に久々に故郷に顔を出そう、そんな事を考えながら、ゴトゴトと荷馬車を走らせるボーファ。

彼の愛しい頑丈で鈍重なヘビーロックドラゴンがノロノロドスドスと進む横を、沢山のラーテルやウルヴァリン、イタチやスカンク、アライグマの獣人達が追い抜いていく。

「よぉ!帰ンのかい??アナグマの加護がありますよーに!」

「おや、あんたも宴に??帰路の無事と商売の繁栄を!」

ボーファは体の所々に鱗が見え、尻尾も長いタチなので、見るからに龍人だったが、鼻唄はアナグマの歌、服はあちこちに菫の刺繍、荷馬車は深緑に塗って黄色の模様と菫の紋様と、何処からどーみてもアナグマ信者だったので、すれ違う同志がニコニコ声をかけてくる。
その龍人にはない温かさも、ボーファは大好きで、挨拶を返しながらボーファは幸せを噛み締めていた。

そんなボーファが橋を渡っていた時、チラリと視界の隅に違和感があり、ボーファは思わず三度見した。

橋から家五軒分程下流に、ボロボロになった龍人が四人程打ち上げられていたのである。

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