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96: 一月あれば大体馴染む。
しおりを挟むアイスブルーに瞳を輝かせて直立不動で歌うオコジョ達のメロディに合わせてラミテルとイオンウーウァがくるくると回転し、ステップを踏んでいく。
ふと、オコジョ達の端に、立体的な菫の刺繍を纏ったモカとテニーを認め、イオンウーウァは踊りながら手を振った。
モカが遠慮がちに手を振り返し、嬉しそうに小走りでやってくる。
One More Time♪ 祝おう さあ、ほら、躍り続けよう♪
One More Time♪ 祝おう さあ、ほら、One More Time♪
オコジョ獣人達の歌に合わせて、回る。くるくる回る。
イオンウーウァとラミテルがくっつけた指先に、モカも指先を合わせ、三人で回転する。
手を離して各々クルリとスカートやマントを翻らせて、指をくっつけてぐるりと回転する。
指先を天辺に、指先を下に。今度は手を繋いで円を大きくしたり小さくしたりしながらグルグル回る。
誰からともなく、笑い声が漏れ、三人はキャッキャと弾む様なステップで踊り続けた。
「ふぅ……。」
楽しそうに踊るラミテルを見つめながら、レモンドが水を呷り、一息つく。
「お疲れさん…。ほれ、冷えた果実水だ。」
背後からのっそりとビアが現れ、レモンドに差し出した。
「や、これはかたじけないです……!」
嬉しそうに受け取るレモンドに、ビアがニカッと笑って言った。
「気にすんな!この宴、休憩っても、酒ばっかでノンアルコール探すの一苦労だろ??イタチ系獣人の体力ってスゲェよな……。」
「ほんと………あんな小さな体でちょっと寝たと思ったら全快して踊りに行くからね……。無尽蔵だよ……。」
レモンドをパタパタと扇いでやりながらキリン獣人が溜め息混じりに笑う。
「ハハハ……本当に、無尽蔵ですよね……一月は長ぃ……。
まぁ、お陰で大分馴染めましたけど……。」
苦笑いの後、しみじみ言うレモンドに、熊獣人のビアもキリン獣人もそっと彼の姿を眺めた。
ラーテル獣人達に比べるとなんだかまだ初々しいコーンロウヘア。
毛皮と皮をたっぷり使った厳めしい衣裳も何処かまだぎこちなくて……。
それでも、レモンドの瞳は輝き、笑顔は充足感に溢れていた。
「アナグマって素敵な種族ですね…。僕、やっと本当の家族に出逢えたような、そんな気がするんです……。」
何処かで混じった虎の血が濃く出たせいかたてがみが生えなかったライオン獣人のレモンド。
獣化さえしなければ判らない特徴だが、獅子の獅子らしさを尊ぶ一族からは、生まれた時から虎混じりだ、と、出来損ない扱いをされていた。
虎獣人に養子に出そうと言う話も出たが、同じく排他的で自尊心が高い虎獣人からは、こいつは獅子だと拒絶されてしまった。
獅子にも虎にもなれない出来損ない。
それがこれ迄のレモンドだった。
そんなレモンドを、「巣穴へようこそ!」とむくむくの毛皮に包まれた丸こい体でむぎゅっと抱擁してくれたバドゲル伯爵。
「うちのラミテルはラーテルが強いからグイグイ来て戸惑ったんじゃない??まぁ、こんなにイケメンならラミテルじゃなくてもグイグイいっちゃうだろーけど♡オホホホ♪」
なんて茶化しながらも、温かいもてなしをしてくれた伯爵夫人。
軽んじる事も疎む事もなく、誠実に接してくれる使用人達。
全てが新鮮で全てが幸せだった。
「イオンウーウァ様!凄い!お上手ですね!」
「まだまだ踊るわよー!」
「イオンウーウァ様!モカの!モカの超得意なステップ教えたげます!!ホラホラ!!見て見て!!」「おおー!凄い!」
「イオンウーウァ様!そんなのよりこっちのステップを!」
「「イオンウーウァ様!!」」
綺羅綺羅煌めく氷の花の向こう、三人団子になって楽しそうにはしゃぐ婚約者を眺め、レモンドは幸せを噛み締めた。
祝おう さあ、ほら、One More Time♪
オコジョ達の歌声が響く。
レモンドはそっと、果実水のゴブレットを掲げてから飲み干した。
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