親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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95: 宴もたけなわ。

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食べて歌って踊り狂う、バドワイザ小伯爵の一月続く婚約式の宴も残すところ後数日。

すっかりアナグマ獣人に馴染んだイオンウーウァは今日もラートンに回復魔法を掛けて貰いつつ踊り続けていた。

今日はフェレット達から贈られた赤い布とカラフルな刺繍が特徴の民族衣裳に身を包んだイオンウーウァとラートンは、踵を前や後ろで鳴らして独特のステップで飽かず踊り続けていた。

宴が始まった頃はアナグマの基本的なダンスでさえ覚束なくて、それも何度か踊れば疲れて休んでしまうようなレベルだったが、今のイオンウーウァはそのムッチリボディからは想像もつかない足さばきでラートンと仲良く踊っている。

疲れては回復魔法を掛けて貰い、御馳走を食べてはまた踊る。時に歌い、稀に寝て、イオンウーウァはこの一月ひたすら踊り続けた。

ウルヴァリンの獣人達が喉を震わせて死神の様な声で唄い、激しく首を振る。

その独特の踊りをラートンや他の獣人達と一緒になって踊り、ラートンの肩車の上でブンブン首を振り、手をあげて待ち構えてくれている獣人達と上に飛び込み、人の手の波の上を流されていく。

「ウォォォォ♪」

  ウオオオオオォォォォーーー!!

頑張って喉を震わせてもちっとも低くないイオンウーウァの声に、屈強な獣人達が地鳴りの様に呼応する。

ラートンも、耳に穴が沢山開いたラーテル獣人や、刺青だらけのラッコとカワウソ獣人、豊かな髭や毛髪を縄の様に編んだウルヴァリン獣人達に代わる代わる肩車されて、ご機嫌で拳を天に突き立てていた。

「イオンウーウァ様!私と踊りましょう!!」

そんな楽しそうに踊るイオンウーウァに声をかける者が居た。

「イオンウーウァ様、本日もご機嫌麗しく…。」

ラートンの再従姉妹、ラミテル・バドゲル伯爵令嬢とその婚約者レモンド・ダンデリォン公爵令息だった。

「私のレモン♡♡少しイオンウーウァ様と踊って来るからね♡♡」

「ああ、私は少し休んでいるから、楽しんできて、テル♡」

ハキハキと喋る凛々しい女騎士の、婚約者に向けた蕩ける笑顔と声音に、イオンウーウァはラートンとの血縁を感じながら、差し出される手を取った。

ラーテル風にサイドを刈り上げ、更に刈り込んで紋様を浮かび上がらせ、コーンロウにした部分に銀の飾り玉を沢山着けた厳つい髪型をしつつも、何処か穏やかで控えめな印象を醸すたてがみの無いライオン獣人は、太い鞭の様な尻尾をしならせてテーブル席の方へと戻っていった。

そのゆらゆらする尻尾にイオンウーウァが見とれていると、ちょん♡とラミテルに鼻を突っつかれる。

「ふふふ、イオンウーウァ様、私のレモン♡の尻尾、可愛いでしょう♡♡でも、あげませんからね♪」

「ちょっと見とれちゃった。でも、私はラァトのフサフサ尻尾が一番好きだから、ラァトの尻尾を触るわ♪」

ラミテルの言葉にイオンウーウァが返せば、長い黒と白の髪をコーンロウで複雑な紋様にしたラミテルが笑い、彼女のポニーテールにしたドレッドがチャリチャリと飾り玉の涼やかな音を響かせた。

「確かに、ラートンの尻尾は長くてフサフサですよね。良いなぁ、昔からラートンは誰にも尻尾を触らせなかったんですよ?イオンウーウァ様は触り放題なんですね♪」

運命の番万歳!とラミテルが嬉しそうに言えば、周囲から万歳!!と咆哮の様な声が轟く。

曲が代わり、オコジョ獣人達が歌いながら舞台の回りに氷の花を咲かせ始めた。
その美しさに、イオンウーウァもラミテルも歓声をあげ、周囲も喜びに湧く。

踊って火照った体に、ひんやりとした冷気が気持ち良く、イオンウーウァは深呼吸してその涼しさを堪能した。

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