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93: 食べ放題バドワイザとひもじいセイロン
しおりを挟む「はぁ~~全く!どーしてこーもみすぼらしい食卓になるかね~!」
絶壁に聳え立つ塔城で、赤と青の鱗を持つ龍人が嫌みったらしく呟いた。
このセイロン侯爵家当主の甥にして分家筆頭のバイライト・セイロン小伯爵である。
彼は今、諸国漫遊の旅から戻り、久し振りにゆっくりしようと訪れたセイロン侯爵邸にて、不機嫌も隠さずに使用人をなじっていた。
彼の目の前には、豪奢なテーブルクロスやきらびやかな金彩の皿に乗った、シンプルな魚のグリル、ベーコン緑の葉野菜のソテー、ポタージュ、硬めのパンが並ぶ。
それらは美しく盛り付けられ、一見して違和感がなかったが、龍人が好む東の大陸の香辛料をふんだんに使ったソースもかけられていなければ、南の島々から運ばれる干し果物も使われておらず、下手をすればちょっとした平民と同じメニューだった。
ブスリ!と魚にフォークを突き立て、龍人はさも不味そうに口にいれて使用人を睨む。
「セイロンはいつからこんな貧乏人の食い物が並ぶよーになったんだよ。」
そう言いながらも、大型龍である彼はパクパクと料理を平らげていく。
それを黙って見守る小型龍の使用人達は、無表情のままそっと心の中で嘆息した。
「仕方がないだろ、次期アナグマ当主と運命の番との婚約式でイタチ系獣人がバドワイザに集結してるから、流通がガタガタなんだよ。ネズミの流通は高いし、変な商会に引っ掛かると騙されるし……こういう時ってイタチどもの存在のでかさを痛感するよな……。」
不味そうに、だがパクパクとお代わりした魚を食べるバイライトに、隣で黙って食べていた龍人がフォローを入れた。
「それに、最近やたら物価が上がってるらしいしなぁ。押し掛けた身の大飯喰らいはもう少し慎ましい態度を取れよ。」
更にその隣に座っていた厳つい龍人も笑いながらバイライトを嗜めた。
そんな押し掛け龍人達のやり取りを黙って見つめながら、マリローズは静かに魚を口に運ぶ。
それは目の前の海で取れた新鮮な魚のグリルで、シンプルながらに焼き加減等が完璧でとても美味しかったが、マリローズを居ない者扱いする押し掛け龍人達と同席しなければいけない息苦しさで、彼女の舌は何の喜びも感じず、ただ、咀嚼して嚥下するのみだった。
侯爵もリュートも不在なのに突然押し掛けてきて、マリローズが応対すれば嫌な顔を、応対しなければ礼儀知らずとなじる傲慢な龍人達に、うんざりしながらマリローズはフォークを機械的に動かした。
(早く帰ってほしい……。)
そんなマリローズの願いも虚しく、リュートの従兄弟三人組はベラベラダラダラと喋り、パクパクと料理を食べ続ける。
曰く、アナグマ伯爵の婚約式と宴は一月続くらしい。
曰く、一月酒や御馳走を食べ続けて歌って踊って大騒ぎするらしい。
龍人から齎される情報にマリローズは、いつだか見かけた、周囲からとても大事にされていたイオンウーウァを思い出す。
(沢山の人が集まって、御馳走沢山食べて、一月もお祝い……。)
マリローズも先日婚約式を行ったが、形式的に集まった親族が挨拶をして終わり、とても短時間に、とてもドライに終わったのを思い出す。
それでも、リュートさえ横に居ればマリローズは幸せだったが、リュートが不在になり、こんな風に龍人達に冷たく当たられる時は、何だか全てを放り出してスモモ村に帰りたくなった。
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